第31話 南カンザク王国の完全併合

 城塞都市を平定して、元南カンザク王国の王城に入城する。

 半分涙目で元南カンザク王国の小太りで人のよさそうな元国王と家臣達が出迎える。

 その中にあっても、凛とした雰囲気の美しい王女がティアラを頭に輝かせて立っていた。

 俺達が入城する事によって王太子と王女の婚約が成立した。

 俺がカンザク王国の国王や宰相の前でユリアナとセーラの二人に子供が出来たと宣言するのと同じだ。


 その二日後には近衛の師団が入城してきた。カンザク王国が元南カンザク王国を完全に併合した瞬間であった。

 カンザク王国は100年前に戦争に勝ったとはいえ、どうしても谷あいで城塞都市によって閉塞された空間にある、元南カンザク王国の王城まで進行する事が出来なかった。

 100年前の戦争でも、元南カンザク王国は城塞都市に迫った黒龍にあっさり降伏して見せて、この100年間の間に剣を磨き、武力を蓄えて造反の機会を待っていた。

 カンザク王国王太子が来訪してきた今、王太子を亡き者にして南カンザク王国を再建するつもりであった。

 その計画が瓦解したのだ。


 俺達はカンザク王国の近衛の師団が元南カンザク王国に到着したことから一足先にカンザク王国に帰国する事になった。

 近衛の団長がこれ以降、王太子をお守りするのだ。

 俺達はウコンさんとハラさんを残して出発する。

 途中の城塞都市から守備隊長以下守備兵を、オアシス城壁都市でも多数の元近衛の兵や守備兵を受け取ってからカンザク王国の王城に連れて行き罪に問う仕事があるのだ。

 オアシス城壁都市の闘いの時、近衛の隊長に化けていた副官を守備隊長に投げつけた時、守備隊長の方はその後、打ちどころが悪かったのか亡くなってしまい。

 副官の方は命を取り留めたが、未だに頭がだいぶ悪いままだった。


 王太子は2週間程、元南カンザク王国の王城に滞在後、近衛の師団が元南カンザク王国王女とともに護衛してカンザク王国へ凱旋することになっている。

 今度は王太子と王女がカンザク王国の王城に入城したことをもって、王太子と王女の結婚が成立することになるのだ。

 俺達は、王太子が戻るまでの間、カンザク王国に戻ってから蔦の絡まる館で2週間程過ごした。俺は今回の功績を持って男爵から子爵に陞爵された。


 現在の男爵邸の両隣の邸宅が空き家であることから、その両隣の土地を陞爵の祝いとして国王より拝領したので、蔦の絡まる館に泊まる事になったのだ。

 この

「蔦の絡まる館」

は、別名、幽霊の出る

「呪いの館」

といわれていた。

 この呪いの館内に女性の幽霊を見たと言って、向こう三軒両隣どころか、この区域一帯が呪われると言って空き家になっている鬱蒼うっそうとした地域になってしまったのだ。

 拝領した両隣の館は大きいだけの石造りの平屋の建物で、建物の内部の無い外側だけのいわゆる伽藍洞がらんどうの状態で拝領したのだった。


 床板もない体育館のような建物の中で、今回の反省を踏まえて、近衛の見習いと女官見習いの子供達を鍛え直した。

 実地訓練としてはダンジョンに入って鍛え直すのが最も手っ取り早いのだが、この王城の近辺は初級ダンジョンばかりでろくなものが無いのが現状だ。

 この建物を拝領して一番喜んだのが、アオイとその子供達だ。

 現在の洋館の周りの庭を両隣の敷地に広げて子爵邸に相応しい庭園へと変貌をさせると言うのだ。

 そのうえアオイの子供達はガーディアンゴーレムに乗り込み近衛の見習いと女官見習いの子供達を鍛えるのに手を貸してくれた。


 俺とモンが驚いたのは途中で補充した亜人の姉弟だ、白銀の頭髪をした、美男美女の三人だ。

 最初のうちは、ガーディアンゴーレムの動きに亜人の姉弟は圧倒されていたが、2週間後、湖畔の館に帰るまでの間には互角とまではいかないが、簡単には倒されないほどの実力を身に付けていた。

 ただ気になる事は奴隷だった三人の内の一人の態度が、二人の下僕なような行動をする事だ。そのうち、真実がわかるだろう。

 それに汚水三人組やシズルもガーディアンゴーレムに食らいつき、四人だとガーディアンゴーレムを圧倒するほどの力を見せつけるようになった。


 この蔦の絡まる館でもう一つ、いやもう三つ俺に関して問題が起きた。

 一つ目はヤシキさんの義妹で元伯爵家令嬢のアカネさんだ。

 今も一緒について回っている奴隷商に性奴隷として実の母、伯爵家の正妻に売られて体調を崩しているのを俺が買い取ったのだ。

 俺が王太子を南カンザク王国へ連れて行くまでの間、この蔦の絡まる館で体調を戻してもらっていたが、俺が戻ってくると抱き付いてきて離れないのだ。

 アカネさんは、冒険者予備校の不正入学で義兄のヤシキさんに頭が上がらないようだが、これもよく聞くとアカネさんの実の母が暴走して不正を義兄のヤシキさんに命令して起こったことのようだ。


 アカネさん自体その当時、不正を行わなくても簡単に入学出来るほどの実力を持っていたのだ。

 彼女自身も冒険者予備校の受験資格永久剥奪の処分を受けて、しばらくは腐って何もする気が起きなかったようだが、その後は気持ちを切り替え彼女は一人黙々と稽古をして実力をつけていたのだ。

 彼女の実力は突出しており、一人で2体のガーディアンゴーレムを相手出来る程なのだ。

 戻って来てからモンと闘っているのを見たが互角とは言えないが、簡単には倒せないほどの実力の持ち主だ。


 ただ、彼女の家、伯爵家の没落の原因の一つがこの不正入学であったと言っても過言ではない。

 父親は王都内の派閥の争いの標的にされた。

 仕事の関係で横領事件が発生し不正入学の件もあり、あらぬ疑いをかけられて父親の伯爵は身分剥奪されて没落した。伯爵は没落を苦に自殺してしまった。

 アカネさんの実の母親は、身代わり受験を自分で義兄のヤシキさんに命令して起きた事なのに、アカネさんを恨み、アカネさんの食事に眠り薬を一服盛って、彼女が寝ている間に性奴隷として奴隷商に売ってしまったのだ。

 アカネさんの高い身体能力と実力を危惧していた実の母親は、アカネさんが寝ている間に奴隷商に言って奴隷の首輪を着けてしまったのだ。

 実の母親はその金を持って何処かに雲隠れしてしまい未だに何処にいったかわからない。

 アカネさんの見た目は鍛え過ぎていることから少し痩せぎすではあるが、義兄のヤシキさんに似て超絶美少女であった。


 もう一つの問題が、アカネさんに挑戦してきたジロウさんの妹のヨウコさんだ。

 オアシス城壁都市の攻防戦において初戦で捕らえられて、彼女も性奴隷として売られるところを俺に救出されたことを恩に着てか、何かと俺に引っ付いて離れなくなった。

 ヨウコさんの実力は少しどころか、そうとう甘く見てもたいした事がない。

 俺やモンに出会うとすぐモンに挑戦し、ヨウコさんの振り回す物干し竿程の長さの木刀をモンが木刀で切り飛ばして短くされたのだ。

 俺は切り飛ばされた木刀で手ごろな長さの木刀をヨウコさんに作ってあげたのに、またどこで手に入れたのか物干し竿のような木刀を振り回している。ヨウコさんはその木刀を

「物干し竿」

とよんでまた愛用している。

 ジロウさんの実家の道場で相当甘やかされていたらしい。

 アカネさんと対峙したヨウコさんは長刀の理を生かしたつもりで物干し竿を振り上げたが、振り上げ速度が遅い、アカネさんはその速度に合わせてヨウコさんの懐に入り込むと、水月を木刀の柄頭で突いて昏倒させた。


 もう一つの問題が、そのアカネさんに挑戦してきたのが亜人の姉弟の姉だ。

 この子も性奴隷として売られるところを俺が買って女官見習いにした。

 白銀の頭髪をした俺と同じ虎の亜人の美少女で、俺と同じ虎の亜人という事でつき纏ってくるのだが、自分の名前や以前の事を話したがらない、訳ありだ?

 白銀の美少女は俺の食肉植物の子供達が乗るガーディアンゴーレムと、この2週間程で互角とまではいかないが、簡単には倒されないほどの実力を身に付けているのだ。

 その白銀の美少女がアカネさんに闘いを挑んだ。

 アカネさんと白銀の美少女が長い間対峙たいじして微動だにしなかったが、二人はお互いに3歩さがると手に持った武器を収めた。

 お互いの実力が構えただけでわかるほどの実力を身に付けているようだ。

 アカネさんは2体のガーディアンゴーレムを相手出来るほどの実力なのに?アカネさんが白銀の美少女に花を持たせたのか?

 後でアカネさんに聞くと

「白銀の美少女は何か必死な覚悟のようなものを持っており、実力的には私が上だが相打ちにしてでも倒す。」

という必死な思いが伝わってきて手が出なかったと説明してくれた。


 その後の三人はお互い切磋琢磨せっさたくまして実力を磨いた。

 特にヨウコさんは自分の実力の無さを痛感したのか

「物干し竿」

を封印して、俺の作った木刀を愛用するようになった。


 王太子が戻って来て、この蔦の絡まる館から湖畔の館に戻ろうとした際に、さらに同行者が増えた。

 皇后様に宰相の夫婦だ、何処の親でも孫、それも初孫の顔は見たいものだ。

 皇后様にとっても、実の娘が初めて子供を産むのだ、子供を産むまでの間、湖畔の館に泊まるという。

 宰相夫婦には子供がいない、それで双子の片割れであるセーラを養女として迎え入れた。

 子供が出来なかったのではなく、セーラを養女に迎え入れることから作らなかったようなのだ。

 それに比べると俺は・・・。

 皇后様にも宰相夫婦にも女官や護衛が付く、随行人員が半端になく増える。

 これでは、大きな迎賓館があっても泊まれる人員が限られてくる。


 俺は男爵から子爵に陞爵したことを理由に、アオイとその子供達の魔の森への追放を解除した。

 俺は蔦の絡まる邸を湖畔の館まで持って行く事にした。

 蔦の絡まる邸と今回の旅に使った助役の家と、でかい邸宅が2軒も魔法の袋に入るかどうか不安だったが、土魔法で地下室ごと掘り起こし、風魔法で浮かせて魔法の袋に入れた。何とかなるものだ。

 その跡には、隣の居空きの建物を乗せておいた。


 カンザク王国の王城で男爵から子爵に陞爵の儀式を終えて、王太子と元南カンザク王国の王女が入城するのを見てから、湖畔の館に直接戻る事になった。

 俺達が先導し皇后様に宰相の夫婦の行列が続く。

 皇后様の護衛は王太子の護衛任務を終えたウコンさんが勤め、女官頭のハラさんが皇后様の身の回りの世話をする。

 俺達が先導する列の中には太陽光パネルを屋根に乗せてガーディアンゴーレム6体を充電しながら進む馬車6台が含まれている。


 日程は王城からカナサキ村まで三日、道程の途中二ヶ所にカンザク王国が宿場町を事前に建設したそうだ。さすが王族だ。

 皆が一泊している間に俺とクリスは湖畔の館に転移する。

 ユリアナとセーラそしてベックさん一家とルウが俺達を迎える。ユリアナとセーラは妊娠三ヶ月で少しお腹が膨らんで目立ってきていた。

 俺は出迎えた皆に皇后様と宰相夫婦がユリアナとセーラの子供が産まれるまでの間逗留するようになると説明した。

 もう一点、食肉植物の間に子供が出来たと話したら呆れられて、ユリアナとセーラの二人に頬をつねられた。

 滞在中の建物の問題を解消するために、蔦の絡まる館やオアシス城壁都市の助役の館の2軒を魔法の袋から出して適当に配置する。

 クリスは到着までの間に、滝の裏の家にクリスティーナのコンピュータの移動や蜘蛛型生物の一人乗りの宇宙船の解析の場所の設置を行うことになった。


 二日目の泊りの間に今度はアオイと6人?6本?の子供達を連れて、魔の森の関所に転移で飛んだ。関所を守る食肉植物に皇后様や宰相夫婦が通過するので行儀よくする事、もう一つアオイの子供達を見せると喜ばれた。

 三日目にはカナサキ村に到着する。

 カナサキ村の村長や冒険者ギルドの支部長が並んで出迎える。


 その時、ボロボロな服装をした近衛士官が訃報を届ける。

 何とカンザク王国の国王と王太子が殺害され、元南カンザク王国の王女がカンザク王国を掌握したというものだ!

 俺達の連れてきて牢に入れられていた、城塞都市やオアシス城壁都市の兵士もこのクーデターに加わっていると言うではないか。

 元南カンザク王国から帰国中の近衛師団も、隠れて潜んでいた元南カンザク王国の精鋭部隊に後方より襲いかかられて瓦解、元南カンザク王国の王都に事後処理のため残っていた師団の団長も側近と共に行方不明になったとの連絡を受けたのだ。


 さらに、このカナサキ村に向かって、元南カンザク王国の精鋭部隊が皇后様や宰相夫婦、それに俺の妻となったユリアナとセーラの首を取ろうと強襲してきているというではないか。カナサキ村は田園地帯であり、身を守る場所がない。

 俺はステータス画面で元南カンザク王国の精鋭部隊の動きを確認する。カナサキ村に到着するまであと2、3日の余裕がある。

 俺は魔の森の中、関所まで引くことを提案する。


 カナサキ村の人口は千人程であるが意見が分かれる、反対するものが二百人いた。こんな時には反対する者を無理に連れて行っても恨まれるだけで良い結果が生まれることは無い。

 魔の森の関所まで逃げたい者八百人程に、とにかく持てる家財道具を持ってくるように言う。俺は持ってきた家財道具等を片っ端から魔法の袋の中に放り込む。大量の家財道具等が魔法の袋の中に消えていく。

 子供が猫を入れてというが生き物は駄目だと言ったら泣かれて往生した。

 俺が魔法の袋の中に家財道具を入れている間に、カナサキ村の大半の住人が身一つで魔の村の関所に向かったのだった。

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