第30話 旅の再開

 俺とクリスで、汚水三人組やシズルの傷の手当てをする。

 人相が変わるほど殴られた4人の顔を抱くようにして治癒魔法をかける。

 晴れ上がった顔が少しずつ戻ってくる。一人小一時間かけて治療していった。変な風に曲がった足や腕も治癒していく。

 汚水三人組が顔が治り話せるようになったとたん、シズルに守ってあげれなくてごめんと言って泣き出した。

 俺こそ、ごめんなさいだ!これまで三人の子供が亡くなり、大事な子供達に大怪我を負わせてしまった。俺の治癒魔法が銀色に輝いた。


 オアシス城壁都市の後始末をする。

 そう言っても市長達が後始末をしてくれたのだ。

 今回の市長に化けていた首謀者の助役は亡くなってしまっており、俺がお互いの頭をぶつけた近衛の隊長に化けていた副官と守備隊長は知能が落ちて今にも亡くなりそうな状態だ。

 それでもこの二人は、カンザク王国に身柄付きで送るそうだ。その他の者は俺達がカンザク王国に戻る時に身柄付きで送る事になった。


 俺はこの旅で亡くなった近衛見習いの男の子二人と女官見習いの女の子の遺品と見舞金をそれぞれ一人当たり1億ギリを為替にして遺族に送った。

 その金は、例の奴隷商がアカネさんを買い取った際、俺から巻き上げた5億ギリを返してきたのを使ったのだ。

 奴隷商はオアシス城壁都市の市長に化けた助役が儲け話があると来てみれば、今回の王太子誘拐という国家的犯罪に巻き込まれ、因縁のある俺の部下や知人である王太子の護衛や女官を奴隷や性奴隷として買おうとしてしまったことだ。

 それで、俺に金を返してきたのは、今回の事に対するび金みたいなものだ。

 南カンザク王国に入るのに、随行人数を通知してあるので、亡くなった子供の補充が必要になった。

 それでその奴隷商がちょうど奴隷として連れて来た亜人の男の子二人と女の子一人を詫び金として戻してきた、残りの2億ギリをつかって買い上げたものだ。

 奴隷商は、その金を自分の保釈金としてオアシス城壁都市へ支払い自由の身となった。

 本来ならば為替の保釈金が届くしばらくの間、奴隷商は牢獄に居なければならなかったのがすぐ出れたと俺に感謝していた。

 それで奴隷商が俺と旅を一緒にする事にしたなどといってついてきたのだ。

 この奴隷商はやはり、かなりしたたかで、抜け目がなく悪賢い奴なので注意をしなければならない。


 オアシス城壁都市内部にある市長に化けていた助役の家が売りに出された。

 寝室は主寝室を含めても20部屋以上もあり、寝室やワインセラーのある地下室も付いた家一軒丸ごと調度品や家財道具を含めて5千ギリだというのだ。

 犯罪者の家であり、新たな助役が新しい家をすぐ建てたいというので安売りされたのだ。

 王都の土地と同様に、オアシス城壁都市の土地はすべて国王の所有であり、特にオアシス城壁都市は土地に余裕がないので、土地が与えられた貴族が王都と同じように上に建っている建物を解体して新しい邸宅を建てることがよくあるそうだ、また国王からもその支度金が給付されるそうだ。


 俺は不動産屋と共に助役の家を見てその場で契約し、現金5千ギリの入った中型の宝箱を置く。

 不動産の業者が解体業者や家具などの運搬業者の手配は等と言っている中で、土魔法で土地と地下室ごと建物全体を分離して、その建物全体を風魔法で持ち上げて魔法の袋の中に入れる。

 あっという間に助役の家が消えて不動産業者が呆然としている。

 不動産屋の目の前には建物が消え、大きな穴が開いた空き地と、5千ギリの入った中型の宝箱が残った。

 俺が立ち去ると、なぜか不動産業者がガックリと膝をついていた。


 俺達は旅を再開する。

 オアシス城壁都市の後始末などで予定より三日多く滞在してしまった。

 余裕をもって日程を組んであるので、元南カンザク王国の王城到着予定の日まではまだ余裕がある。

 ただ今後もアクシデントで王太子が予定の日までに元南カンザク王国の王城に到着しないと、約束の日に到着も出来ない誠意の無い男として国内どころか、国際問題にもなりえるのだ。

 数日遅れるだけのことが、元南カンザク王国内で盛んに行われている独立運動にさらに火に油を注ぐ事になる可能性があるのだ。

 針小棒大!何にでもいちゃもんをつけたがる人物は要るものだ。


 今更の事ではあるが、三日分の行程の圧縮は少しきついが、余裕が後二日ある。

 野宿を後三日間、元南カンザク王国の王城の手前の城塞都市で一泊すれば、翌日には元南カンザク王国の王城に入ることが出来る予定だ。

 先頭をサコンさんとサエコさん、そのすぐ後ろにウコンさんが騎乗の人となり、王太子が乗った6頭立ての馬車等が三台続く、その後ろにジロウさんと女官見習いと近衛見習いのそれぞれ11人が騎乗の人となって続く。

 また、その後ろには俺達随行員の2頭立ての荷馬車が二台、奴隷商の奴隷を運ぶ2頭立ての荷馬車等4台が続き、俺とモン、クリスは後衛として騎乗の人となった。

 オアシス城塞を出てから、最初の野宿予定地につく、地下室もあるので俺は土魔法で穴を掘りその上に魔法の袋から取り出した助役の大豪邸をのせる。

 掘った穴の土は土塁として利用する。

 あまりの非常識に俺とモン、クリス以外は口をあんぐりと開けて固まっていた。


 一夜城ともいえる元助役の屋敷の主寝室を王太子に譲る。

 奴隷商にも4部屋を与える。ウコンさんやサコンさんに部屋割りをお願いする。

 俺は台所で夕飯の準備をする。何せ調理師やパティシエのスキルを身につけているのだ。美味しい夕食は皆の元気の源になる。

 王太子どころか奴隷商、その奴隷も交えて夕食をとる。王太子はこんな機会でもない限り、下々の暮らしなど実体験として勉強することはないからだ。

 奴隷商から買った奴隷の男の子と女の子達は亜人種の子供で、何でも亜人狩りにあって奴隷商の組合から、この奴隷商のもとに回ってきたものらしい。

 組合経由もあって他の奴隷商がどんな経緯でこの子供達を買ったのかは不明であり、子供達も詳しいことを話してくれないのだ。


 夕食の後、俺とクリスとモンは地下室を探検する。

 一応地下室にも寝室があるので地下室で寝ると伝えてある。

 この家を買って不動産屋と地下室を見たのと土魔法で地下室を掘り出して魔法の袋の中に入れたが、その際、地下室の大きさが明らかに違うのだ。

 前の助役の隠し部屋でもあるようなのだ。

 階段を使って地下室に降りる。

 地下室の階段ホールを挟んで寝室と食糧庫に分かれる。

 階段の位置から考えて寝室側が怪しい。地下室のひんやりとした空気の中、寝室に入りステータス画面を開いて見るが、何かの障害があるのか画像が乱れる。

 寝室の壁を三人で手探りで調べる。俺がベットに乗って壁を触ろうとベットのヘッドボードに手を置くと、壁と共にベットごと回り始めた。


 クリスとモンが慌てて乗り込む

『グルッ』

とベットが回り、寝室の反対側は近代的な部屋になった。

 その部屋の中央には、以前魔の森の帝王で見たことがある、ウニのような形をした

「救命艇:20名乗り、M24星雲の蜘蛛型生物用」

をかなり小型版にした宇宙船が鎮座している。

 直径約5メートルを超えるその宇宙船から何本ものコードがモニター画面と繋がっている。クリスが喜んでこの宇宙船を調べ始める。

「救命艇:20名乗り、M24星雲の蜘蛛型生物用」

を解体して船内に入る方法を解明しているので、船体をクリスがしばらくの間触っていると。

『プシュッ』

と空気が抜ける音がすると上下に二つに分かれた。

 この宇宙船のコントロールルームの中には小さな空の蜘蛛型生物用のプールが1個あるだけだった。


 モニター画面を見ていたモンが俺達を呼ぶ、モニター画面に蟻のような大きさの蜘蛛型生物が働いているのが映っている。

 その場所には、モニター画面からはみ出してしまうほど巨大なとげ型の宇宙船が見える。

 別のモニター画面に蜘蛛型生物が近づいてきて大きく映り何かを覗き込むようにするとすぐに、

『プツン』

と全ての画面が暗転してしまった。

 クリスが慌てたように、クリフさんからもらった魔法の袋を出すと、小型のウニ型の宇宙船やモニター画面を中に入れた。

 クリスは魔の森の帝王のところで、これらのものを宇宙エルフの研究者と調べるつもりだ。

 今のところは魔法の袋の中の別次元に入れたので、何かあっても大丈夫だと説明してくれた。


 他に何かないかと、この部屋を見て回ると部屋の一角に隠し扉がある。その扉を開けると書斎になっていた。机の上には書きかけのノートが置いてある。

 このノートの手触りは薄い金属で、ノートには見たことも文字が刻印されたように書かれている。大きな本棚の本も同様な薄い金属で、見たこともない文字が刻印されて書かれたいた。本棚にはその本がびっしりと詰まっていた。

 ノートの最初のページには、一日一日の出来事が書かれている。

 これは日記だ。元助役の日記だった。途中から彼が蜘蛛型生物の生殖器により卵を産み付けられ、蜘蛛型生物の言いなりになっていく苦悩の日々が書かれていた。

 文字も最初は俺達の良く知る日本語で書かれていたが、途中から日本語と蜘蛛型生物の言語が入り乱れて書かれており、そのうちに蜘蛛型生物の使用していた言語のみになっていた。蜘蛛型生物の言語を知る良い機会かもしれない。

 クリスとモンにその日記を渡すと彼女達も蜘蛛型生物の言語の解析に飛びついて日記を調べ始めた。

 翌日は二人とも蜘蛛型生物の言語の解析で寝なかったのか、眠くて馬から落ちそうになっている。頑張りすぎだよ!

 今日の野営予定地に二人を無理やり、俺とクリスの医療ポットに押し込んで寝かせた。

 日記と二人の残したメモ帳のおかげで蜘蛛型生物の言語の読解力を身に付けることが出来た。ここで全ての言語読解能力というスキルを手に入れた。

 こんなスキルが生前にあれば、中学、高校時代の苦手な英語の試験が満点で大学に進んで教員の道に進んでいたのに!?

 翌日は俺が眠気で馬から落ちそうになって、クリスとモンの二人に笑われた。


 最後の野営地に着いた。

 一夜城が何もない砂漠の中に忽然こつぜんとそびえ立つ。身代金目当ての盗賊団にはいい目標だ。

 ステータス画面には何十人単位の盗賊団が三組、俺達の休んでいる野営地に向かって進んでくる。

 屋敷の屋上に登る。俺とモンやクリスの動きに気が付いたウコンとサコンさんが近衛見習いの男の子や女官見習いの女の子達を指揮して配置につく。

 盗賊団は砂漠の土の色に似せた布を被って少しづつ近づいて来た。

 俺は眠い!こんな事早く終わらそう!守り刀の雷神を抜くと、雷神に最大の魔力量を流す。屋敷の周りに凄まじい雷撃が走る。

 地形が変わるほどの雷撃の嵐が吹き荒れる。隠れている盗賊団が吹き飛ばされ、転がされる。

 眠い!地下に最後の魔力量を振り絞って転移して、医療ポットに潜り込む。


 翌朝、盗賊団は奴隷商の檻の中に詰め込まれている。

 全員が命を取り留めており、このまま元南カンザク王国の王城に連れて行くことにする。

 元南カンザク王国の王城の手前、城塞都市に到着する。

 元南カンザク王国の王城は一際高い山脈の谷あいに位置し、その谷を塞ぐ形で城塞都市が存在する。

 サコンさんが城塞都市の守備隊長に声をかける。

 城門の格子状の落とし戸が引き上げられていく。デジャヴュを感じる。危ない!

 俺は素早く銀の小手をつけ、身体強化魔法を使って馬から城門の上、落とし戸を操作している人に向かって飛びあがる。

 落とし戸が王太子の乗る馬車に向かって落ちてくる。

『ガラ』『ガラ』

という大きな音と共に格子状の落とし戸が落ちてきた。


 俺は落とし戸を操作している男を殴り飛ばして、落とし戸の歯車を強引に止める。

 王太子の乗る馬車の屋根すれすれで落とし戸が止まる。

 俺はすぐに歯車にクサビを打ち込み落とし戸を完全に止めた。

 クサビを外そうと城塞都市の守備隊長が部下を連れて襲いかかってくる。今回は俺が打った火魔法の炎を付与された日本刀を抜き出して、炎の日本刀を振り回す。

 守備隊長どころか人も弓矢も刀も全て切り飛ばしていく。あまりの凄まじさに守備兵達が武器を捨てて降伏した。


 全員を武装解除して城塞都市の地下牢に入れた。

 地下牢の中には城塞都市の市長夫婦等が入れられていたので、それらの人々を救出して代わりに守備隊長以下を入れていく。

 カンザク王国側にはオアシス城壁都市の後始末の問題もあり、俺が転移で連絡していたので、近衛の師団を団長が指揮して元南カンザク王国に向かってきている。

 夕方遅くには急いで駆けつけてきた近衛の団長が何人もの部下を連れて来た。完全に城塞都市を近衛の師団が支配下に置いた。

 翌日は元南カンザク王国の王城に乗り込むことになった。

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