第8話【 パンツを被れば怖くない⁉ 】
「なんだよ、コイツ……」
目の前の生物に絶句する桃也。
見てくれは獣であるが、仁王立ちで道を塞いでいる。ミノタウロスを思わせる風貌に、2メートルはゆうに超えるであろう巨躯。しかし、手足は人間のそれだ。片手にこれまた巨大な金棒を携え、桃也たちを待ち構えている。
「ブフゥッ……」
鼻息を荒くさせ、今にも飛び掛かってきそうだ。にもかかわらず、一番先頭にいる赤毛の少女は落ち着き払っている様子。対照的に、キッドの背中が狼狽えているのが桃也の目にもわかった。
「さーて、どうする? トーヤ」
コンはどこ吹く風といった感じで眺める。
「このくらいのモンスターは楽に倒せないと、この世界じゃやってけないよ?」
「……ッ!」
そうこうしてるうちに、ミノタウロスが「ブモォォォッ!!」と吠え始める。
キッドの身体がいち早くビクッと反応し、桃也の全身が強張る。
(クソっ、異世界モノの十八番、俺TUEE的な展開でも起きてくれれば楽なんだが……)
「どうやらそんなものは望めそうにねぇな……」
呟き、打開策を練る桃也。しかし、足が竦んで動けない。
「それじゃ、頑張ってねアンタたち」
すると、先頭に立っていた赤毛の少女が振り返り言う。
「へ?」とキッド。
もちろん桃也の頭にもクエスチョンマークが灯っている。
「アタシがアンタたちを値踏みしてあげる。そうね、とりあえずこのデカブツを軽く倒してくれたら、名前くらいは教えてあげてもいいわ」
「あーあ、言われちゃったね~。彼女とはなんだか気が合いそう」
コンは例の調子で呑気なことを言う。
「そ、そ、そう言う君は、こ、この怪物を倒せるとでも!?」
キッドが訴えたその時、雄叫びを上げたミノタウロスが赤毛の少女の後頭部めがけて金棒を振りかざす。
思わず目を伏せる桃也。
が、目を開けた時には空振りしたミノタウロスの姿だけがそこにあった。
「じゃ、張り切っていってみよー」
生気のない声で檄を飛ばす声。
桃也がその方を見やると、そこには赤毛の少女が。彼女はキッドの頭上、木の枝に腰を下ろし頬杖を付いている。
(……避けたのか? でもって、あんな所に?)
赤毛の少女は背を向けたままミノタウロスの攻撃を避け、一瞬にして木の枝へと移動していた。それを目視できたのはコンだけだ。
「ぎゃぁ———っ!!」
長らく顔を両手で覆っていたキッドは、状況は目の前の状況が理解できず眼前に佇むミノタウロスに悲鳴を上げる。
再び金棒を振りかぶるミノタウロス。逃げ惑うキッド。桃也も為す術なく、それに倣う。
「はぁ……」
赤毛の少女はため息をつきながら、眼下の状況を眺める。
「期待したアタシがバカだったわね……」
ミノタウロスの攻撃から逃げ惑う二人はさながらコントのようで、はたから見ればドタバタコメディを繰り広げてるようにみえる。しかし、渦中の二人は至って真剣である。
「ひぇ——ッ! やめてぇ! 殺さないでぇ!!」
涙目でそう訴えながら逃げ回るキッド。
「なぁ、コン! なにか方法はねぇか!? もう体力が持たねぇぞ!!」
桃也の訴えに、傍で浮遊しているコンが言う。
「そんな時は、頼りになる先輩に直接訊いてみなよ」
「先輩だぁ!?」
すると、耳元に聞き覚えのある声が――。
「よぉ、息子。そっちはどうだ?」
「親父!?」
救世主の先輩、そして桃也の父親の久遠宗司である。
「〝どうだ?〟じゃねぇよ! 今、絶賛死線を彷徨い中だよ!!」
「そうかそうか、さっそくコンに揉まれてんな」
「悠長に世間話してる暇はねぇの! なんか打開策があるから語りかけてんじゃねーのか!?」
これもSYMを持たない自身の特殊能力なのだろうと桃也は瞬時に理解した。いわば、テレパシーのようなものだと。
「お前が持ってったパンツ、まだあんだろ?」
「それがなんだよ!?」
「被れ」
「はァッ!?」
「コンから聞いたぞ、恥ずかしがって脱いじまったらしいじゃねぇか」
「当たり前だろ! こんな時にふざけてんなよクソ親父っ!!」
「ふざけちゃいねぇよ。そいつには秘められた強大な力が備わってんだ。騙されたと思って被ってみろ? 死にたくねぇだろ?」
「——ッ!!」
ここではカオスこそ正常。それは桃也もここまでの経緯で身をもって感じている。
「そいつを被っていれば、俺の力をある程度継承できる。初めは戸惑うかもしれねが、じき慣れるだろうよ」
「あーもう、ちくしょうめ! どうにでもなれだッ!!」
桃也はポケットからパンツを取り出し、それを勢いよく被る。
「げ――」
それを見ていた赤毛の少女は声を失う。
(あんまり自然にあんなもん被ってたからスルーしてたけど、やっぱあいつ本物の変態だったんだ……)
「さーて」
距離を保ち、桃也は急ブレーキをかけミノタウロスに向き直る。
「このパンツの力とやらを見せてもらおうじゃねぇか……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます