第32話 魔王城からの侵攻

 エンマ様の訃報が世界樹帝国全土に電撃のように流れる!当然その情報は魔王城にも流れた。

 魔王城は帝国への住民の流出が止まらない。国民の流出防止の為にも帝国を倒す。帝国の中心人物のエンマ様が亡くなった今を好機到来と思ったのか、ヘンリケ魔王が魔王城の総兵力を結集して帝国城に侵攻をかけてきた。

 その報告は魔王城に潜入していた忍者衆や帝国にこころを寄せ始めている商人達からももたらされた。

 総兵力を集めるのに3日程、通常魔王城から帝国城まで歩いて12日間、およそ

2週間前後には魔王城から帝国城に攻め込んでくると思われる。

 時間はある。武器にしてもこの世代よりも遥かに強力な武器が開発、配備されている。さあござんなれ!

 魔王城の傘下、周辺の町、村の稼働可能な総兵力を集めて約3万、ありったけかき集めた走竜千頭が地響きを立てながら帝国城に殺到する。

 ヘンリケ魔王が帝国城の対岸小高い丘の上に、本陣の幕を張る。

 ヘンリケ魔王は馬車でこの地まで来たようだ。帝国の馬車の技術が流出したようだ。

 魔王軍は騎兵隊も作ったのか、槍を持ち騎乗した親衛隊1千騎と騎兵隊1千騎。馬具の技術も流出したようだ。

 走竜の頭に兜を被らせ、重い鎧と一体になった鞍が乗せられそこに、槍を持った兵が乗っている。以前ロープで走竜の足が切り飛ばされた場所を工兵がロープが隠されていないかを捜している。

 青色の旗が振られる。染色技術も流出しているようだ。

 罠が無いと知った走竜千頭が速度を落とさず帝国城の前の川に入って行くと、川底が沈む?

 川底に見せて布を張ってあったのだ。重い鎧と兜により走竜が更に体を沈ませていく。本当の川底には逆茂木が置かれている。走竜の体がその逆茂木に刺される。川が走竜の赤黒い血で濁っていく。逆茂木に刺された走竜の上に重い鎧と兜により身動きが取れない走竜がのしかかる、下の走竜は、走竜に乗った者ともに潰されていく。上に乗った走竜も、さらにその上から走竜が走りながら乗りあげ、同様の惨劇が続く。走竜の半数以上が川底に沈む。

 その走竜の上を後続の走竜部隊が走り抜けて川を渡る。渡りきった所で、隠してあったロープが張られる。走竜部隊が今度は地に沈む。

 後続の魔王軍は壊滅した走竜部隊を見て士気がさがる。そこ目がけて大型のバリスタから丸太の矢が、投石機で爆弾が、後方の騎兵部隊や歩兵部隊目掛けて飛んでくる。騎兵部隊や歩兵部隊が丸太の矢で撃ち倒され、爆弾で爆散していく。

 魔王軍が督戦の為、魔王軍の後方に控えていた親衛隊の騎兵一千騎がそろって槍を構える。

 親衛隊の騎兵が、その槍を突き付けて大声を上げながら前方にいる騎兵部隊や歩兵部隊に突撃を開始する。

 魔王軍の総兵約3万が親衛隊の突撃行為により、帝国城に向かって雪崩のように突撃を開始する。

 このままでは魔王軍の数の力で蹂躙されてしまう。やむなし、俺は城の塔の大砲の砲撃を命じる。

「ドーン」「ドーン」

と、この世界において今まで聞いたこともなかった音が響き渡る。その音と共に黒々とした兵器の筒が火を噴く。

 破滅の音を聞いて、魔王軍は身震いした。

 着弾するたびに魔王軍の軍馬や将兵が飛び散る。しかし、親衛隊は引くことを許さず、騎兵や歩兵に無駄な突撃を敢行させる。

 遠くて弓部隊の矢が届かないので、彼らも槍を持って突撃してくる。

 後方から督戦している親衛隊の騎兵も大砲の砲撃で吹き飛ばされていく。

 無謀な突撃も功を奏し帝国城に取り付くことが出来たと思われたその時、城の銃眼から

「タン」「タン」「タン」

と乾いた軽機関銃発砲音が何か所からあがる。

 帝国城の城壁にたどり着くことなく、次々と魔王軍の騎兵も歩兵も弓兵も軽機関銃の銃弾で撃ち倒されていく。

 帝国城の対岸の地形が変わってしまう程の砲撃が行われた。魔王軍の人の波が血と肉塊に変わっていく。

 魔王軍の本陣でヘンリケ魔王は、その惨劇を見て顔から血の気が引いて立ち尽くしている。

 帝国城から魔王軍本陣に向けて狙撃銃が火を噴く。

 ヘンリケ魔王の右頭の魔臓が吹き飛ぶ、魔素が煌めきながら吹き出す。

 ヘンリケ魔王が昏倒する。

 ヘンリケ魔王の腰巾着共が、ヘンリケ魔王を担いで退却を大声で命令しながら馬車に向かって駆け出す。

 俺は退却を開始した魔王軍を追って、双斧将軍アックスと戦斧女将軍アクシャを左右に従え80名の巨人兵とともに追撃戦を開始する。

 その後ろから、俺の息子のタロウが率いる近衛隊と兵学校部隊、俺の娘のアフロディーテが率いる女官部隊等、総勢300名が追撃掃討戦を開始していく。

 さらにその後ろから、一般兵1千名が魔王軍の負傷者を捕虜にしていく。

 俺達は、適当なところで追撃を中止する。そこから、死者と負傷者を回収していく。死者は放っておくとゾンビになる。火葬場を何か所か作り遺品を回収後荼毘に付していく。魔王軍3万人中、約2万人が戦場の露と消えた。

 5千人の将兵が負傷者として捕虜になった。

 前回のレベッカの義理母様を追撃してきた魔王軍の負傷者は、兵士は62名と走竜20頭であった。この数でも治療が大変であった。

 今回はその事を教訓に事前に軍用刑務所と刑務所内に軍用病院を作り対応する。負傷した将兵についても前回同様にトリアージをして対応していくことにした。

 黒色(不処置群)は、助け出すまでは大丈夫そうであったが、回収後に黒色になった者を含めると3千名になった。赤色(最優先治療群)千名、黄色(緊急治療群)五百名、緑色の者が五百名程いた。

 赤色の判定者から治療をするが手当ての甲斐もなく亡くなる者が続出し、五百名以上の者が亡くなった。

 赤色が終わり医師等が黄色の群に移る。時間がかかった為、走竜のほとんどが死亡した。

 千頭もいた走竜の生き残りは、わずか50頭にも満たなかった。

 事前に作った軍用刑務所に軽傷者等を、重体、重傷者は刑務所内の軍用病院に収容する。

 軍用刑務所に収容された軽傷者等に対して、魔王城に戻るか、我々世界樹帝国につくかを聞いていく。

 200名程の者が魔王城に家族がいるので戻りたいという。

 食料を渡して帰国させることにする。帰国させる日は、帝国城の対岸にヘンリケ魔王が本陣にした跡を中心にして墓地公園を作る、その式典の当日にした。

 ヘンリケ魔王が本陣とした跡に幔幕を張り巡らす。帰国する将兵が並ぶ。当然身に寸鉄も帯びていない。

 帝国城側からも将兵が並ぶ、クーナ叔母様や巫女が並び楽器を鳴らす。

 天使族のアマハとアマハの二人の女官が白い巫女の服装に白い大きなレースを肩に掛け、アマハは世界樹の枝を二人の女官は世界樹の桃の木の枝を持って本陣跡の幔幕のなかに降りてくる。

 アマハと二人の女官はそれぞれ持つ枝に拝礼後、それを地面にそっとおく。

 その枝を中心に神々しい光の輪が広がって行く。

 世界樹の枝を置いた後には祠が出来上がり、その左右に置いた世界樹の桃の木の枝の後には桃の実を実らせた木が生える。

 祠から世界樹の女神様達が光り輝きながら降臨する、世界樹の女神様が

『勇敢に戦いし英霊達の御霊よ安心して我が世界樹のもとに集まるがよい!

 勇敢に戦いし御霊よ、新たな人生を再び送り、この世界を統べるをのこの元に集いて、このをのこの世界統一を手伝うであろう、安心して我が世界樹に集え‼』

と告げると対岸中の至る処から蛍火が沸き上がる。蛍火が踊るように集まり始める。蛍火から歓喜の声が聞こえる。蛍火が集まって、大きな大きな蛍火になると世界樹のもとに飛んで行く。

 帰国する予定の将兵達が涙を流して跪き祠に拝礼をする。

 世界樹様達が祠に戻る。クーナ叔母様や巫女達が静かに帝国城に向かって歩き始めた。

 入れ替わるようにして、巨人族の兵士16名と走竜が亡くなった魔王軍の将兵の名を記した大きな黒いレリーフを載せた荷車8台と食料を積んだ荷車1台で祠に向かって登ってくる。

 祠の周りに巨人族の兵士が黒い亡くなった魔王軍の将兵の名を記した大きなレリーフを配置していく。魔王城に戻る将兵達はレリーフの名前を見ている。

 俺は魔王城に戻る将兵に食糧を積んだ荷車から食糧を手渡していく。

 食糧を受け取った魔王軍の将兵達は、膝をつき俺に臣下の礼をとる。

 将兵たちは一様に

「魔王城に戻り家族達を説得して帝国に戻る。その時は受け入れてもらえるか?」

と言うものであった。

 俺が「諾。」と短く答えると、将兵達は重い足取りで魔王城に向かったが、心の中は明るい未来への希望を込めて一歩一歩、歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

 

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