125話 路地裏でナニかしてます
♡
「あっ!思い出した!お前もしかしてあん時の!」
「だー!かー!らー!!知らんってお前らみたいな人!」
浮気した奥さんに浮気相手が本気になって、旦那の目の前でアタックするも全力でシラを切られる、また別の意味で修羅場と化した路地裏。なんで私が旦那さん目線?
ナンパは失敗に終わりあえなくとっちめられた訳だが、それにしても凄かった。
「てか私、合気道なんて初めて見た」
「見たことある人の方が少ねぇだろ」
それもそっか。
海鷺さんがリーダーのお兄さんを投げ飛ばした瞬間は見れなかったが、スマブラよろしく大乱闘と化してから大男を投げ飛ばすのを見た。
と言っても柔道のような強い力ではなくて、柔らかくゆっくりとした身のこなしで、相手の力を利用して投げ飛ばしていた。正確には投げ飛ばしてはいないのかも知れないけど、素人の目には男が投げられてるようにしか見えなかった。
「…………………私もやってみよっかなー」
「いや俺にこそ必要だろ」
「言えてる。お前貧弱やからなぁ」
「華奢って言え華奢って」
海鷺さんも充分華奢で、さらに健気で可愛らしいがな。お前とは違って。
聞いた話によると、彼女は幼い頃から親の教えで合気道を習わされていたらしい。確かにこんな可愛い子なら、護身術の一つや二つ身につけないと世の中は危なすぎる。だから武田のそばに居ない方がいい。
全員を投げ飛ばして、各々の浴衣の帯を奪い上げ、その帯で手を拘束して無力化したのち、平常心に戻ったのか、
「こ、こんな乱暴な女性、幻滅しますかね……?」
と、いつも通りバチクソ可愛い上目遣いをされて、海鷺さんの可愛さに理性を利かせ「全然。むしろカッコ良かったよ」と、女の子には微妙に褒めてない褒め言葉を送ってしまった事は置いといて。
そのあと武田の「ツギハ、オマエダ」という「まばたき《アイ》モールス
つまりまとめると。
イキって海鷺さんに手を出して武田の怒りを買い、我が愛しの龍斗様を笑い者にし私の導火線に火をつけ、挙げ句の果てには優しい女神のような海鷺さんの逆鱗に触れ、返り討ちに合ったわけだが。
「で?どうする?」
「このまま警察に突き出すのが手っ取り早いけど、事情聴取とか面倒だしな」
「埋めれば?」
「「「「ヒッ!?」」」」
「いや、それだと殺人になる。俺らが警察のお世話になっちまうだろ」
「それもそっか…………」
身動きの取れない拘束プレイなんて、私はゾクゾクしてしまいますけど?じゅるり。
1人真面目に考える武田。
「仕方ないか………。はぁ………やれやれ、俺も甘いなぁ」
「………………あのー、武田さん?………………一体全体、何してらっしゃるんでしょうか?」
寝転がる大男に馬乗りになって、浴衣の中や袖に手を突っ込んで漁り、普段着の輩はひっくり返してケツを叩いてる。何?R18指定にした方がいいですか?「見せられないよ!」ってモザイクつける!?
「何って、財布探してんねん」
「……………それはカツアゲって言うんじゃないかしら?」
「正当防衛による報酬金です」
「………………ソウデスカ」
「チッ…………
「いやどっちが不良だよ」
てかそれは立派なカツアゲだよ。
無駄に高そうな長財布を抜き取ると、何の躊躇もなく物色。女性のような綺麗ですらっとした指で、汚ねぇ紙切れの枚数をペラペラ数え、自分のポッケに入れる。
うん。カツアゲだよ。
「熊谷…………あぁ、へー。マジに先輩なんだ。てっきり上から目線したいだけのハッタリだとばかり………すんませんね」
カードの束に学生証を見つけた武田は「これこれー」と学生証を抜き取り、ボトンと汚い路地裏の地面に財布を落とす。
「テメェの顔覚えたかんな……」
「おーこわ。でも説得力ないっすね」
そう言ってまた一人の上に乗っかっては財布の中身を確認する。
「なにボーッと突っ立ってんの?お前も手伝え」
「え?」
私に共犯になれと?
「学生証の写真撮って、あとは捨てていいわ。金は好きにしろ」
「あ?」
コイツの言ってる事がようわからんのだが。
「どーせ汚ねぇ金だ。汗水垂らして働いて、やっと手にした金じゃねぇんだろ?」
「汚くない金だったら、どうするんですか?」
メガネの男性は両手を縛られ、自分の財布を取られているのにも関わらず、余裕な口調で問いかける。
「どーもしませんよ。ただ、女を力尽くで連れてこうとする輩が、そんな純粋で健気なわけ無いって偏見です」
言いながらも諭吉を懐に入れる武田。ボトンと革の財布が落ちる。
「………………先ほどから思っていましたが、………あなた男性ですよね」
「…………え?」
「マジっすか兄貴」
「………………………………どんだけ鈍い連中だよ」
実を言うところ、私と武田は路地裏に入ってからずっと地声で話していたのだが、子分供は気づいていなかったみたいだ。そりゃあまだ花火は打ち上がっていて、表の道路は騒がしい声や下駄の音が聞こえるけど、BGMがうるさかろうと、そんなわからないもんかね。
もしかして鈍感系主人公でしたかこの人ら?いや似合わな。
黙々と学生証の写真を撮っていた武田は、
「…………………別にあんたらにバレたっていいんですけど。どの道口封じしますから。ね」
そう言って、学生証を撮り終えて、また汚い地面にポイ捨てすると、自由を奪われても睨みを効かせる大男たちを見て、武田の口角が上がった。
あ、なんかやばい事考えていらっしゃるぞコイツ。
「交渉です『
次はその柴山という名の、メガネの男性を撮影する武田。
「二度と俺らに近づかないでください。他の方もそうです。もし交渉に応じないようでしたら、先輩達の顔写真と共に、個人情報をネットの海にばら撒きます」
「へぇー。脅してんだ」
「言いましたよね?交渉です」
すっごい笑顔!すっっごく笑顔!怖い!超怖い!なにこれ!?
「そして今日会ったことは無しにしましょう。私たちの間には何も無く、これからずーっと無関係の赤の他人になりましょう」
「そんな軽い脅しで、聞くと思ってんの?僕は早紀と違うんだけど」
「…………………存じ上げていましたか………、なるほど。………やっぱり甘かったかー。俺優しいからなー」
んー。私の記憶違いじゃなければ、悪魔みたいなことしてませんでしたかね、あなた。
「じゃあ…………………、こうしよう!」
名案でも閃いたのか、またしても笑顔になる武田に不安しかない。
武田は寝転がる柴山って人にジリジリとにじり寄り、その手が入ったのは………、
「テメェ何してんだっ!?
「って何やってんのっ!?」
「え?パンツ脱がしてる」
いや冷静だなお前!!
一瞬私の妄想による幻覚かと思ったけど、ガッツリ現実だった。
柴山って人の太ももの付け根、パンツの紐かゴムのある位置に武田は手を伸ばし、さも当たり前かのように引っ張っている。何!?なんか、え!?サービス!?私へのサービス!?
「離せゴルァ!!」
「じゃあ今日の事忘れる?」
「…………は?」
ピタッと動かなくなる武田……、
「そんな口約束で収まったら、こんなことにならんもんね。聞いてみただけー。ソイヤッ!!」
「はぁっ!?」
すぽーんと抜けた布は、釣り上げ魚のように武田の手に収まって、
「あら〜。見た目とは裏腹に攻めたの履いてるんですね〜。まぁ、その性格との整合性は取れてますけど」
「ん"〜っ!!」
鼻血が!鼻血が出るぅ!
クールで知的な外見と裏腹に、柴なんとかさんが履いてたのは、随分と布面積の少ない、ああいう漫画や、その資料でしか見た事のない下着だった。
でもそれだけじゃない!今、目の前に下着があるのだとしたら、つまり、つまりですよ。この男性は今現在、ノーパンの状態に陥っているわけですよね!?
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、ティッシュプリーズ!!ティッシュプリーズッ!!」
あの薄い布の下に、マジモンの「アレ」がある!エッチなビデオや漫画やイラストやアニメや、画像ではない生の「アレ」が!
「……………お前が大丈夫か?」
「………………ダイジョウブ」
この程度で負けるわけにはいかないのだよ。趣味とはいえBL漫画家が、生のアレを見て鼻血出してる程度じゃダメなんです。
よし落ち着きましょう。
「あそこにはち○ち○があるだけ。ペ○スがあるだけ。ただそれだけ」
「………………なんの確認?」
よし落ち着いた。なんのって、乙女口からそんな事言わせるつもりですかーってガッツリ言ったけど。
「よし、大丈夫です」
「俺は大丈夫じゃぁねぇんだが」
私が一人で興奮していると、別の意味で興奮している柴なんとかさんが、額に血管を浮かばせて睨んでいた。
「………ただで済むと思うなよ………」
「だから今度こそ、反抗心が芽生えないぐらい徹底的にするんです。…………ちょっと手伝え」
「へぇ?」
理性をフルスロットルしてたら間抜けな声が出たが、パンツ片手に手招きする武田に呼ばれて、
「暴れないよう抑えとけ」
「…………何する気だ……」
と、なんとかかんとかさんの拘束要員に任命られた。
武田は持ってるパンツを、パンツの持ち主(履き主?)の顔面に近づけると、とびきりの笑顔で、
「待て。よせ、やめろ!」
「はい。あーん」
まるで歯医者さんのような優しい声で、でも目の座った武田の女声で、顎クイ(力尽く)をして口を開けさせ、その口にパンツを降下していく。
「やめろっ!」
「大丈夫、苦しいのは一瞬で終わるから。恥と汚点は永遠だけど、今日の事綺麗さっぱり忘れるんだから、ぜんぜん大丈夫!」
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉおお!!」
私は暴れてチラチラ見えるおち○ち○を凝視しながら、腹筋や大胸筋、ボディラインを舐め回すように見て、鼻血を垂らしながら頭部の固定に勤しんだ。わ、私には心に誓った人がいるのですよ!くっ、こんなところで……っ!!
一滴の鼻血がなんとかさんの額に当たると、一瞬だけ大人しくなり、その瞬間を見逃さなかった武田は、流しそうめんのそうめんを狙い定めて掴む箸のように、パンツを突っ込んだ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」
悲鳴が響き渡る。
何が怖いって、これ人数分やったら私、確実に過剰出血で倒れるんですよね。
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