5 このまま、じゃ、なくて
……はい?
突然のかおちゃんの言葉に、一瞬頭が真っ白になる。その、真っ白な頭の中に、何故だかゼンくんの笑った時の顔が入ってきて。
かっ、と頬が熱くなる。
「えっ、いるの!?」
「ち、ちちち、がっ、そ、そういうの全然分かんなく……ぜっ……」
ぜんぜん、という音が何だか繰り返すのが恥ずかしい。
「わ、分からないし、あの、そういう話急にされても……!」
「あー、はいはい。ごめんごめん」
かおちゃんがくすくす笑う。もう、やめてほしい。
かおちゃんはひとしきり笑った後、机に突っ伏したまま、顔だけあげてこっちを見る。
「ねね。まりも描いていい?」
「……わ、わたし!?」
「だって、好きな人でしょ? あたしまりものこと好きー」
小さい子みたいに、かおちゃんがにこーっと笑う。
「わ、わたしでもあの」
かわいくないし、と、いつもみたいに言おうとして、でも、出来なかった。
土曜日のあのゼンくんの言葉。真っ直ぐこっちを見ていってくれた言葉を否定したら、ダメな気がして。
「じ、自信ない……」
「いいよー勝手に描くしー」
そういう問題だろうか。
でもかおちゃんは、どうやらそれで納得したらいい。よーしっと元気に伸びをする。
「楽しくなってきた!」
「そ、そっか……」
かおちゃんが楽しいなら、いい、か……。いいか?
描かれること自体も乗り気ではないけれど、なによりそれを展示に出されると考えるととても、なんか心がしんどい。
ゼンくんはああ言ってくれたけれど、でもやっぱり、自分がかわいいとはあまり思えないままだ。だってかわいいって言うのはきっと、ゼンくんやかおちゃんや綾乃みたいなことを言う。
わたしはあまり、容姿に関して努力してこなかった。したって意味がないって思っていたし、何かかわいくなろうとすることを許されるのは、そういう努力をしたときにかわいくなる保証がある人だけ、みたいな気持ちがどこかにある。
ごわごわの髪も、二重なのにどこか眠たげで重いまぶたも、色味の薄い唇も、丸い鼻も、好きにはなれない。
「……あ」
ふと、声が漏れた。
「どした、まりも?」
「あ、ううん」
ふるふるっと首を振る。それから、そっとゼンくんを見た。いつのまにか机に突っ伏して眠っているゼンくん。
せっかく、かおちゃんが描いてくれるというのなら。
かわいくない自分が好きでないのなら。
――このまま、じゃ、なくて。
机のしたでそっとこぶしを握った。訊いてみよう。この、思い付きを。
◆
「え、やる!」
ゼンくんの返事は早かった。そしてとっても端的だった。
放課後、FIRE*WORKS。
今日はちょっとだけ、と心に決めて覗いたら、ゼンくんはすでに来ていた。ただしまだ、学校の制服姿で男の子の格好のまま。
「まだ着替えてないんだよ。どしたの?」
「えと、あのね」
まだ、ということは前はここで着替えたのだろうか……と思いつつ、伝えたかったことを告げる。ちょっと焦ってたし、うまく伝えられるかいつも通り分からなかったけれど、ゼンくんはふんふんと聞いてくれて、それからぱっと顔を明るくさせた。
そして、やる、と言ってくれたのだ。
「え、どしよ。すぐ着替えてこようか。今から?」
「あっ、う、ううん。あの、あの、今日は帰るから……」
「あ、そう?」
ゼンくんがお預けをくらった犬みたいにしょぼーんとする。分かりやすい。
本当に、服を見たりするのが好きなんだなぁ。
「じゃ、また土日とかかな。わー、楽しみっ」
ゼンくんが弾む声で言う。
「よ……よろしくお願いします」
ペコっと頭を下げた。
お願いしたのだ。服を、一緒に選んでほしい、と。わたしはかわいい服とかよく分からないしセンスもないし、そもそもそういうお店に入って店員さんに話しかけられるだけで回れ右して帰りたくなるタイプなので、ひとりじゃ勇気が出ない。でも。
かわいくないから、描かれたくない、とか。
そうやって思い続けているのも、なんだかゼンくんにもかおちゃんにも失礼な気がしてきたんだ。
そう上手くいくかは、分からないけれど。
新しいお洋服を着たら、少しだけでも、自信が持てるかもしれないと思ったから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます