6

 交渉に失敗してしまった俺は最後の望みが断たれ、いよいよ本当に打つ手が無くなってしまった。少なくとも俺はそう思う。城ケ崎以外にSでレズっぽい女の子の心当たりが無かった。

 だがそれでも水島、そして俺のために次の手を考えなくてはならなかった。

 そうだ、これは何も水島のためだけじゃない。俺のためでもあるんだ。水島に対しての責任、そして何より忘れてはいけない大事なことを俺は思い出す。


 ――そして俺は覚悟を決めた。




 翌日の昼休み、食堂にて俺は水島と中野に考えを打ち明けた。俺が話し終わると、中野と水島は箸を止めて言った。


「我輩は賛成だ。もう水島の肉体と精神は持たないところまで来ている。それしかあるまい」


「お前が良いって言うなら止めはしない。だがお前は本当にそれで良いのか? 他人より自分が一番ってお前がそんなことを――」


「中野は賛成してくれてありがとな。ところで水島、その言い方はないんじゃないか? ……まあお前、そこのところは気にするな。こいつは俺の勝手だ。俺は諦めるってのが嫌いな男なんだ。もはや意地さ。俺に出来ない事は、この世に何一つないってことを証明してやる!」


 もう、こうなってくると意地だ。『彼女が欲しい』から『水島を助けたい、責任を取りたい』に俺の気持ちは変わったが、これがまた変わったんだ。『諦めたら負け犬』だってな。

 強化人間の最高傑作であるこの俺に、敗北とか不可能とかそういう文字は似合わない。それを思い出したんだ。だからもうポリシーとか主義とかを捨てて、どんな手を使ってでも目的を達成させる。その覚悟が昨日やっと出来た。


 ――俺は実力行使に出る。



 俺の言い分を聞いた水島は、さっきまでの心配げな顔から打って変わって覚悟を決めた顔に変わった。


「分かった。俺も女の子を殴らない意地を通すんだ。お前が意地を通すのだって止めやしないさ」


 俺は水島に決め顔で頷いた。ちょびっとばかし男と男の友情みたいな感じをかっこよく決めて、内心「サイコー!」って感じだ。そこへさらに水島は続ける。


「それで、いつ山中に仕掛ける?」


 俺はそれを聞いて笑った。


「なーに心配すんな。実力行使する相手は山中じゃねえ」


「じゃあ一体誰なんだ?」


 そこで俺は少し溜めて、勿体ぶってからドヤ顔で言った。


「城ケ崎だよ」




 さてこの日も放課後になった。実力行使の始まりだ。

 ホームルームが終わると、俺は嫌がる城ケ崎を半ば強引に引き留め、逆に他のクラスメイトは全員追い出して中野が来るのを待った。

 昼休みの間に俺は水島に、山中をあの忌々しい路地裏の横道に連れてくるように伝えておいた。そして俺と中野は、実力行使によって城ケ崎をその横道へとエスコートし、そこで城ケ崎に山中を殴ってもらうって寸法だ。


 しばらくして中野がやって来た。よし、決行の時間だ。


「それじゃ、来てもらおうか」


 俺は城ケ崎の右手首を掴んだ。すると、俺の頬を風が横切る。ここは屋内、しかも窓は開いていない。

 ということは、この風の正体は紛れもなく奴だ。当然予想し得た奴が現れたのだ。


「これ以上お嬢様に勝手はさせませんぞ」


 いつの間にか俺のすぐ後ろに城ケ崎の爺やが立ち、城ケ崎の手首を掴んでいる俺の右手の手首を掴む。毎度の事どこに潜んでどうやって現れているのか謎の爺さんだ。

 今まではこいつに痛い目に合わされてきたが、今回はそうはいかないぞ。お前の登場は予想出来た、つまり対抗策も抜け目なく用意してあるのさ。


「中野!」


 俺は中野に合図を出した。すると中野はいつぞや使った特殊ネットを、爺や目掛けて放り投げる。


「甘いわ!」


 さすがは爺やといったところ、中野の動きに素早く反応。俺の手を離し飛び跳ねて特殊ネットを避ける。だがそれじゃあ甘いんだよ。

 中野発明の特殊ネットは対象を捕獲するまで自動で追尾する。そしてその軌道は空中だろうがどこだろうが変幻自在だ。

 特殊ネットに反応した爺やに負けじとネットの方も爺やの動きに対応し、空中で方向転換をする。


 爺やが床に着地した瞬間と、特殊ネットが爺やに覆いかぶさったのはほとんど同時だった。


「な、なんじゃこの網は!? 空中で軌道が――!?」


「どうだ! 我輩の発明は!」


「残念だったな爺さん。それじゃ、アンタの御主人を少しばかり借りていくぜ。なあに、少しだけさ。……さて城ケ崎、ご同行願えるかな?」


「い、嫌よ! 何かヤバい事でもさせようというんでしょう!?」


 城ケ崎は抵抗する意思を見せてきた。だが今回の俺は手段を選ばない、そう覚悟をしてきたんだ。容赦はしないぜ。

 俺は懐から銃を取り出した。


「何それ? 水鉄砲じゃない。そんなので私が脅かされるとでも?」


「それはどうかな?」


 俺は一発、水鉄砲を城ケ崎のスカートに撃った。


「ふん、下手糞ね……って、何これ!? スカートに穴が!?」


「それは我輩が説明しよう」


 俺の後ろからひょこっと中野が顔を出す。


「それは我輩が発明した『衣服だけ溶かす薬品』の入った水鉄砲だ」


 これまた中野の発明品。今回は中野に頭が上がらねえぜ。おかげでスカートに空いた穴から、レース付きの高そうなパンツがちらりちらりと顔を覗かせやがる。……中野にはしばらく昼飯でも奢ろうか。


「まあそういう事だ城ケ崎。丸裸にされたくなければ、大人しく言うことを聞いてもらおうか?」


「…………わ、分かったわ。従うわ……」


 城ケ崎は顔を真っ赤にさせて、悔しそうに声を震わせて言った。顔が赤いのはそれ程までに悔しいってことだろう。

 さすがの城ケ崎も人前で裸にはなりたくないらしい。まあ、俺たちはすでに見ちゃったんですけどね。それはさすがに言わないでおこう。

 いやあだがしかし、言うことに従ってくれるということは、ここで「裸になれ」と言っても従ってくれるのかなぁ?




「おい永井、顔を緩ませている場合では無いぞ。早く例の場所へ行かねば」


 俺が城ケ崎が悔しそうに服を脱ぐ場面を妄想していると、中野が俺を現実へと引き戻した。


「おっといけねえ。それじゃ、行くとするか」


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