第十一話 白馬の王子様作戦
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さらば夏休み! こんにちは二学期!(帰れ!)
楽しい楽しい夏休みもついに終わってしまい、またもや見たくもない教師連中やクラスメイトと会わなくてはならなくなったわけだが、しかし悪い事ばかりでもない。可愛いあの子とも、また毎日顔を合わせることが出来る様になるんだから。
今年の夏休みは結局、西城との旅行以外に戦果は上げられなかった。もっとも、その旅行中の戦果もどれほど期待出来るものかは怪しいもんだ。入学して以来ほぼ毎日ナンパしてきた俺だ、大体手応えが分かってくる。
一緒に旅行に行った女子たちとは、確かに距離を縮められたとは思うが、未だ恋人には程遠いというのが推定だ。
というわけで、二学期も俺は平常運転で行く!
二学期が始まって三日ほどたった時だった。俺はいつものように、水島と中野と一緒に食堂で昼飯を食っていた。
俺と水島は毎度のことながらうどん。中野は日替わり定食だ。まあ日替わりと言っても、実の所メニューは週に一回にしか変わらないのだが、慣例とか言いやすさとか言葉のイメージで日替わりと呼ばれている。
そして日替わり定食の今週のメニューは、トンカツである。ひもじくうどんをすすっている友人二人に一切配慮せずに、ボリュームある食事を取りやがる中野は非情な野郎だ。
俺たちにカツの一切れでも寄こせばいいものを、九歳のくせして高校生用の飯を全部平らげちまうんだから、あの小さな体の中にはあいつの発明したブラックホールが密かに埋め込まれているのだろう。そして良心も、ブラックホールに吸い込まれてしまったと。
まあ、そんなことは正直どうでもいい。俺は中野と水島に、今回浮かんだ作戦を発表することにした。
俺はまず、二人に自分のしたい話に持っていく前に、こんな質問をした。
「なあ、俺たち三人が集まった理由ってなんだ?」
それに水島が答える。
「互いを認め合ったから――ってのもあるが、やっぱり一番は彼女を作るためだよな」
「そうだ。その通り。俺たちは互いに、互いの彼女が出来る様に協力し合うことを誓い合った仲だ」
「いや、誓ってはおらぬな」
「うるせえ中野。だがお互いそのつもりでつるんでるだろ? 今まで俺の立てた作戦に協力してくれたのも、そういう理由だったはずだ」
「まあ確かに、それはそうではあるが」
「で俺は思った。せっかく協力し合おうと男が三人も集まったというのに、俺たちは今まで三人であることを、活かしてこなかったのではないかと?」
「確かに、それはそうかもしれねえな」
「だが、それは作戦を考える君の落ち度ではないのかね?」
「そんなこと言うんだったら、中野は抜きでやるからな」
「いや、永井は世界一の男! ハンサム! 女が放っておかない! これでは眠れない日も多いのではないのかね?」
露骨におべっかを使ってきやがったな。冗談だったんだがな。必死になりすぎだろ。
俺は中野に冗談であることを伝えると、満を持して作戦名を発表した。
「それで本題だが、その反省を活かした次の作戦はこれだ! 白馬の王子様作戦!」
さて作戦名を聞いた二人はどんな反応を示すだろうかと、二人の表情をうかがうと二人とも不安げな表情をしていた。いつもは「何言ってんだこいつ?」という顔なのだが、こいつは珍しい。
水島は恐る恐る口を開いた。
「俺は馬役は嫌だぜ……」
「ちがぁうっ!」
何を想像していやがるんだ!? 俺が否定すると水島と中野はきょとんとした。こいつら揃いも揃って馬鹿か!?
「お前らなあ、普通白馬の王子様って言ったら、女の子を迎えに行ったり、助けたりする男のことだろうがよ!」
そして大抵ハンサムと決まっている。そう、俺みたいに。
「作戦の説明をするぜ。まず二人が女の子を襲うふりをする。次に一人が女の子を助ける。端的に言えばこんなところだ。分かったか?」
この説明でようやく二人は手を叩いて、なるほどという顔をした。
「随分と古典的な手だが、確かに三人であることを活かしているな」
「そうだろ中野? ということで早速今日から作戦始動だ。もちろん最初の王子様は俺だ」
「なんでそうなる」
水島が文句を言う。
「俺が考えたんだから、それくらい許してくれよ。順番はお前にも回ってくるし、俺に彼女が出来てもちゃんとお前らの手伝いはするからさ」
「……約束だからな」
そして俺たち三人は、最後の一人に彼女が出来るまで協力し合うことを約束し、それぞれの教室に戻った。
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