8
次の日、俺は今度こそ皆と海で遊ぶことに成功した。
女子たちと一緒に海に入って、泳いだり水をかけ合ったり、そんな生まれて初めての体験をした。
ところで荷物番だが、それは昨日案外あっさり復活した二階に任せた。表向きは、気絶した次の日にいきなり動くのは危険ということだが、実際には俺に負けたペナルティである。
だが、負けた罰をその程度で済ますことが出来ようか。ファーストキスの恨みは、計り知れないほど大きいのだ。
ひとしきり遊んでから、浜辺で皆しばしの休憩。俺は、女子たちとは少し離れた所に水島と中野を呼び出した。それには理由があった。
俺は中野に尋ねた。
「なあ中野、お前唇を処女に戻す薬とか作れないか?」
「唇の処女ってなんだよ」
水島が茶々を入れてくる。
「俺は中野に聞いてるんだ?」
「何を馬鹿なことを言っている?」
俺は心の中で舌打ちした。
いくら中野でも、唇の処女を取り戻すことは出来ないのか。
「作れる? 何を、言うか。ここにあるぞ」
「「あるの!?」」
俺と水島は口を揃えて驚く。
中野は手刀を切って、申し訳なさそうに言った。
「いやなに、さすがに昨日の我輩は君に冷たすぎた。それでお詫びと言っては何だが、君のために昨晩寝ずに作っておいた」
中野が一晩でやってくれました! さすがは天才、設備も道具もないこんな旅館の一室で大発明をしちまうってんだから。それに俺のために寝ずにだなんて、俺はいい仲間を持ったもんだ。熱い気持ちが込み上げて、思わず涙をこぼしちまいそうだぜ……!
「中野達典、貴殿に言葉を絶するほどの感謝を……!」
俺は最敬礼をして言った。
「まあ、君のためだけでなくて、やはり初彼女のファーストキスは貰いたいものであるからな。この唇を処女に戻すリップクリームがあればどんな彼女が出来ても、必ずファーストキスを貰えるというわけだ」
……それでもお前への感謝の気持ちは変わらないぜ、中野。
「しかしよお、唇が処女に戻るって言っても、そんなの戻ったって分かるのか?」
水島が当然の疑問を口にする。
確かに、唇の処女って戻っても分かるものなのか。
「心配するな、我輩を信じるのだ」
「確かにそうだな。今まで中野の発明が失敗だったことなんて一度もねえ。お前を信じて使わせてもらうぜ」
俺は頷き、中野から受け取った唇を処女に戻すリップクリームをゆっくりと唇に塗りたくった。するとどうだ――。
「す、すげえ! 唇が見る見るうちに処女に戻っていくぜ! 実感がある!」
「どんなだよ」
興奮する俺に、水島は呆れたように呟いた。
さあ、これで問題は解決した。もう何にも気にすることなく、ただ美少女たちと海を楽しむだけだ。夏ってのは一年に一度しかない。悔いの残らない様に全力でアプローチして、彼女たちとの距離を縮めるぞ!
休憩を終えた俺は気合を入れ、美少女たちが休憩する場所へ飛び込んだ!
……一応言っておくと、そういう表現であって本当に飛び込んだわけではないのであしからず。
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