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 さて、ビーチに付いた俺たち一行はさっそく海に入っていった。……約一名、俺を除いて。

 いや、なんか俺の泳げない設定がまだ生きていて、何度泳げると言っても「無理しなくていいよ」と言われて為す術無し。

 一応、水島と中野も俺のフォローに回ってくれたがなんとも頼りにならず、俺はただ一人、ビーチパラソルから巨乳水着美少女を視姦&荷物番をすることとなった。ちくしょう! 明日は海に入ってやるからな! 


 そんでもって俺一人残されたビーチの様子だが、ビーチはそれなりの盛況、しかしどこを見渡しても、うちの四人ほどの美少女はどこにも居ない。まだ誰とも付き合って居ないが鼻が高い気分になっていると、西城が俺の所までやって来て話しかけてきた。

 西城は黒のビキニがなんとも鮮烈! 胸の谷間は結構見たことあるが、普段より露出が高く、それも水着となると印象はグッと変わる。股間のブイラインが加われば、お腹も見えてますからね。

 しかもスク水じゃない水着姿なんて、一生かかっても見られない人間がこの世に居るんだぞ! 端的に言えばクラスメイトの水着姿はエロい。前かがみものだ。


「楽しそうで良かった。ごめんね、一人にして。泳げないって聞いてたからさ」


「いやいや、楽しいに決まってるよ!」


「海見るの好きって言ってたもんね。でも、他の所も見てるみたいだね。……鼻の下、伸びてるよ?」


 西城は俺を見てにやにや笑った。

 これもう俺に気があるだろ。この旅行、向こうから誘ってきたし、今もみんなと遊ばず俺と二人だ。……好きになっても良いですか?


「ねえねえ、誰見てたの?」


 そして西城は追撃してくる。

 彼女は俺をいじり倒そうという魂胆らしい。ここで答えた名前が周囲に広がって噂とかになって、彼女作りに影響出たりするのだろうか。

 さっきまでは全員を見てたが、今は間違いなく西城に目を奪われている。西城のおっぱいとか腹とか太ももから目が離せない。

 大体、目の前で意味深な言動をしている女子を蔑ろにして、他の女子の名前を挙げて良いのか?


「ねえ、どうしたの? 私ばっかり見て。もしかして、さっきも見てたのは私だったりして――」


「……そうだぜ」


 この俺の返事に西城は予想外だったらしく驚いた表情をする。

 どうだ、ここで日和った返事をしないのが俺様よ! ここは男らしく、正直に見ていたことを話すぜ。


「ふ、ふーん。そうなんだ……。それじゃ、鼻の下以外の所が伸びてるのも、私を見てたからなんだ……?」


「え!?」


 そういう西城の視線の先は、明らかに俺の股間だった。

 思わず俺は自分の股間を見る。

 まさかバレたのか? 恥ずかしい! しかし、外からパッと見て何の異常も無し。西城は俺の慌てる様子を見てニヤリと笑った。


「うっそー! ドキッてした?」


 そして西城は照れ隠しの様に走り去っていった。

 西城の奴、な、なんて際どい冗談を……。これ俺に気が無いのに言ってたらヤバいだろ。絶対俺に気があるって! ギャル特有の気さくさという次元の話じゃない。これこそ入学前、俺が思い描いていた青春ってやつだ!

 もうこれだけで海に来て良かったと思える。誘ってくれた西城、晴れにしてくれた神様ありがとう。俺、初めて神様信じたわ。


 ……とまあ、かなりテンションは上がったのだが、しかし喜んでばかりも居られず複雑な気持ちになった。


 何故ならこの時、感覚的には俺の股間はスタンドアップしていたのだ。




 さて、俺が複雑な気持ちでいると次は、西城と入れ替わるように水島と中野がやって来た。

 水島はヒューと口笛を吹き、中野と揃ってニタニタ笑う。


「随分うらやましいことやってたじゃないか」


 こいつら、さっきの事見ていやがったな。


「お前ら、いつからそんなに趣味が悪くなった?」


「まあそう言わんでくれ。我輩たちは君らを邪魔しない様、西城君が帰るのを待っていたのだよ」


「そうだぜ。それにそんな性格が悪かったら、わざわざ一人のお前の様子なんて見に来ねえよ」


 こいつらはこいつらで、俺が一人なのを気にしていたらしい。

 ……ふん、お前らの柄じゃねえだろ。う、嬉しくなんかないんだからねっ!


「……まあ、お前の所に来たのはそれだけじゃねえ。あの二階のことだ」


 ……まあ、そんなことだろうと思ったよ。お前らも、あの男のことは警戒していたか。しかしだなあ水島、お前もつまらない男だと思わんか?


「いやそんなことより、誰のおっぱいが一番大きいか考えようぜ。俺は多分城ケ崎だと思う」


「そんな話は後でも良いだろう。我輩は西城君のことも気になるな。君にあそこまで積極的に行く女の子、妙だ……」


「よし水島、二階の話をしようぜ!」


 俺は即座に話題を固定した。中野は半ば諦めと言った感じで言う。


「分かった。我輩がここに居るのは、君が口添えしてくれたおかげだからな。従おう」


 分かれば良いんだよ。そんな、西城に裏があるみたいな言い方するなよ。あれは絶対マジに俺に気がなきゃ出来ねえよ。……そうだよね?

 俺は嫌な考えをせずに済むよう、別の話に集中することにした。


「で水島、そんなこと言うくらいだ、観察報告をもらおうじゃないか」


 すると水島は腕を組んで話し始めた。


「ああそうだな。見た所顔も体も普通、運動能力も並だ。まあ一つ良い所を挙げるとすれば、お前みたいに女子の前でデレデレ鼻の下伸ばさない所かな」


「悪かったな。鼻の下伸ばして」


 俺は冗談で、あからさまに不機嫌ですという風に、プイとそっぽを向いた。

 水島はこれが冗談だと分かっているのでスルーして話を続ける。


「まあこんな平々凡々なやつは放っておいても良さそうなもんだが、やっぱり賄賂を受け取らなかったのが気になってな。何せ三十万だぞ? 他の男は皆受け取ったってのにこいつだけ拒否したってのは、こいつが何か俺たちにとって良くない事を企んでる気がしてならなくてよ」


「確かに我輩も、彼に関しては同じことを思っている。それに、その平凡さが逆に内に凄まじいものを秘めているのではないかという恐れを生むというか、もっと表に凄みが出ていれば相手の実力を把握出来るが、これでは相手の実力を測り切れん」


「能ある鷹は爪を隠すってか? まあ、お前らの意見も頭に入れとくが、この旅行はあくまで女子たちとお近づきになるためのもんだ。お前らも、後になって男ばっか追いかけてました、なんてことにならない様に気を付けるんだな」


 俺が言うと水島はため息をついた。


「まあいい、俺たちは確かに忠告したぜ。くれぐれも忘れんでくれよな。行こうぜ中野」


 そう言って水島は中野と共に海の方へ歩いて行った。

 確かに水島と中野の言う事は分かる。俺だって言われなくても多少の警戒はしていた。だが、ただの人間一人がやることなんて、俺たち三人の手にかかりゃ問題にならんと、俺はそういう考えなんだ。

 まあ、他ならぬあいつらの忠告だ。忘れない様にするさ。


「何の話をしていたのかしら?」


 俺が考え事をしていると、二人と入れ替わるようにして今度は帆風委員長がここビーチパラソルまでやって来た。


「いやー、海は楽しいなって話さ。委員長はなんでここに?」


「いえ、一人のあなたが気になって」


「そ、そう。ありがとう」


 と、頭を掻きながら帆風の体をちらりと見る。

 相変わらずのナイスバディ、委員長にあるまじき、いや委員長特有のエロボディだ。水着は、白ベースに小洒落た花柄のビキニでちょっとばかしオトナ感。中々気合いが入っている。


「ねえ、どこ見てるの?」


 ちらりとだけ見ていたつもりが、いつの間にかがっつり見ていたらしい。帆風は怪訝そうな顔をする。

 一応表向きは真面目な委員長なんだから、ここは言い方は考えた方が良いだろう。


「いや、水着、似合ってるなって思って」


 こいつは中々いい答えじゃなかろうか? すると帆風は少しうれしそうな顔をした。


「良かった。先週買ったばかりで、店員さんは良いって言ってくれたけど、自分では似合ってるか不安で――」


 お、なんか思ったより良い当たりだったみたいだ。よし、ここは追撃戦と行くか。


「すごく良いよ。セクシーで大人っぽい」


 しかし、これは余計な一言だったらしく、帆風は俺をじとっーとした目で見る。


「ねえ、それどういう意味かしら?」


 あれ? これは予想外だ。セクシーとか大人っぽいって誉め言葉じゃないのか? ほら女子って子供ほど年上好きなイメージだし、背伸びしたいって感じじゃん?

 俺が思考を巡らせ、どうやってリカバリーするか考えていると、帆風の視線は俺の顔から下へとずれていった。……この視線の先は、股間か?


「劣情は抱いていない様ね……。誉め言葉として受け取っておくわ」


 そう言って帆風は微笑した。

 そしてもう気が済んだのか、帆風は振り向いて海の方へ戻っていった。

 なんか勝手にリカバリーされたみたいで助かったが、少々複雑な気持ちになった。


 なぜならこの時、帆風のナイスバディによって俺の股間は感覚的にはスタンドアップしていたのだ。





 帆風が海に戻った後は、誰も俺の所に来なかった。大体二時間ってところの時間を一人で過ごした。

 ……冷たくない? 一回来ればそれで良いの? しかも、もうそろそろ引き上げの時間だしよぉ。

 まあ、一回でもここに来てくれた奴らはいいや。川上と城ケ崎はなんで来ないんだよ。二階は男だから来なくても良いけど、女子はここにきて水着をよく見せてくれよ。

 俺は怒りを声に出し海にぶつけることにした。


「川上ぃ! お前、俺のこと好きじゃなかったのかよ! なんで来ないんだよ! いやでも、来たとしても心中するなら勘弁な!」


 ふう、やはり大きな声を出すとスッとするな。よし、次は城ケ崎、お前だ。


「城ケ崎ぃ! お前のデカいのはおっぱいだけか! 心のちいせえ奴! 俺の所まで来ておっぱい揉ませろ!」


 すると直後、俺は風を感じた。だが風が吹いたのではない。俺のすぐ横を何かが高速で横切ったのだ。


「お嬢様に対する暴言、見過ごせませんなあ」


「お、お前は城ケ崎の爺や!」


 振り向くと城ケ崎の執事、爺やが立っていた。

 六十は超えていそうな髭面の老体のくせして、真っ赤なブーメランパンツを履いていやがる。長いこと見てたら吐きそう。


「わ、悪かった取り消すよ」


「ならば宜しい。お嬢様の大きいのは胸だけではありません。お尻もです」


 そう言って爺やは、ブーメランパンツの中からナイフを取り出し、俺ののど元に突き付けた。おい、なんて所に隠していやがるんだ。


「復唱しなさい!」


 これには俺も従うしかない。


「お、お嬢様の大きいのは胸だけではありません! お尻もです!」


 俺は必死に叫んだ。こんなところで男の股間にあったナイフで死にたくはない。

 俺が叫び終わると俺の必死の形相満足したのか、爺やはナイフを再び股間に戻した。

 カバーも何もしてないけど、それ、股間怪我しない?


「分かれば宜しい。では」


 そう言って爺やは会釈したのち、土煙を立て瞬く間に姿を消した。忍者かよ。


 くそ、楽しい旅行の始まりだと思ったのに大した一日目だぜ全く。俺だけずっと一人かよ。明日こそは皆と海で遊ぶからな。


 …………城ケ崎はおっぱいだけじゃなく尻もデカいのか――。


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