強化人間は手段を選ばない(割と選ぶ)~高校卒業までに彼女を作ってイチャイチャラブラブエッチがしたい!~

焼き芋とワカメ

プロローグ

 容姿端麗、頭脳明晰、武芸百般に通じ、あらゆるマシンを乗りこなし、屈強な肉体と類まれなる運動能力を持ち、毒にも耐性がある。さらには空間把握能力に優れ、まるで後ろに目が付いているかのようである。


 彼の名前は永井一。十五歳男性。彼は強化人間だ。


 日本のどこかにあるといわれている秘密機関によって、秘密裏に肉体を改造された強化人間たち。彼らが作られた理由、目的は不明である。永井はその中で最も優秀な個体、最高傑作だった。

 すべての人間を超越する能力を持った改造人間である永井。出来ないことなど何もない。恐怖という感情は彼には最も縁遠い存在かと思われた。しかし彼にも恐れているものが二つだけあった。


 一つは改造人間永井一を作り出した博士、父とも言える永井吾郎の存在だった。

 父とは言っても、永井一は永井吾郎の養子であったが、血は繋がっていなかった。博士が孤児院から実験目的で引き取った何人かの孤児の一人に永井が居た。

 永井には博士をただの父親だとは思えなかった。

 神が人間を作り出したというのなら『自分を作り出した』ただそれだけのことで永井にとって永井博士はまるで神であるかのようだった。


 いや、実際永井は永井博士を神とは思っていなかった。

 自分が通常人類より優れた強化人間で、なおかつその強化人間の中でも最も優秀であるならば、寧ろ神は自分であり、自分こそが頂点で、自分の上には何も存在しないのが道理のはずだ、と永井は考えていた。博士に神様面されるいわれはなかった。

 だが、他の研究員たちは違い、博士が創造主であると考えており、永井はその考えをどうにか払拭したかった。それは彼のプライドとアイデンティティに関わることであり、解決しなければ、一生悩まされ続けるだろうことであった。


 そしてもう一つの恐怖は、童貞のまま生涯を終えることだった。


 永井博士は常々ぼやいていた。

「ああ……わしも高校生のときに放課後夕方の教室で、彼女とラブラブイチャイチャ制服エッチがしたかった……」

 永井は博士のあの悲しげな顔と、生気の抜けた瞳に鳥肌が立った。人間を改造し、強化人間なんてものを作り上げられるような博士が、六十歳にもなって四十年以上も前のことを、未だに蒸し返しては悲しみに暮れるなど、高校生の時に放課後夕方の教室で、彼女とラブラブイチャイチャ制服エッチ出来ないのが、それほど人の心を傷つけるのか。永井は、自身が博士と同じ道をたどった時のことを考えて恐怖した。

 博士は酷いときには夜寝ている最中に、急に「高校生のときに放課後夕方の教室で、彼女とラブラブイチャイチャ制服エッチがしたかった」とジタバタしながら、布団の中から叫びだすので、それはより一層永井を恐怖させた。


 そこで永井は八月、十五歳の誕生日を迎えてから、博士に高校に行かせてくれるよう頼みこんだ。ちなみに理由は隠した。

 永井はこれまで学校に通ったことがなかった。博士は最初は難色を示したが、何度も頼む永井に折れ、これも実験の一つとして高校入学を許可した。

 永井は、本来高校での教育など必要ではなかったし、入学試験も半分寝ながらでも合格した。だが彼には『高校生のときに放課後夕方の教室で、彼女とラブラブイチャイチャ制服エッチ』を経験する必要があった。そのためには言わずもがな、高校に入学しなければならなかった。それと、年相応の性欲とか異性に対する興味も多分にあった。


 かくして強化人間永井一は、自身の存在を賭けて『高校生のときに放課後夕方の教室で、彼女とラブラブイチャイチャ制服エッチ』するため、轟々高校に入学した。

 永井は、まだ見ぬエッチの相手となる女の子の想像と、期待で胸を膨らませながら、入学式の日を待った。


 膨らむのは胸だけではなかったかもしれないが。

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