第11話 ギャルグループに突撃
放課後の教室で喉を詰まらせている男子生徒が2人。教室にはまばらに生徒が残っている。部活までの時間ギリギリまで友達との時間を共有する者や、提出物を終わらせようと急ぐものや色々だ。
自然と目線が教室のあちこちへと移動して、一点に定まらない。俺の目は水泳選手の様に泳ぎまくっていることだろう。
原因は、今俺とオタク君の目の前で程よく肉のついた脚を組んだ女子生徒だ。
「はぁ?ごめん、もっかい言ってんくんない?ちょっと声小っさくて聞こえなかったから」
南 朱里の冷たい目線と言葉、だけでなくその他のメンバーの威圧だ。めちゃ怖い。中でも三浦さん?が一番睨んできている気がする。
南の言葉も十分にパンチはあるが、それでも彼女の目立ったところは不真面目なところであって棘のある言葉を投げてくる訳では無い。
「あっ!そのッ!この前の!へ!へへ返事を!」
「午前の授業の合間、こっちに来てる気がしたけどやっぱ要件あったんじゃねーかー」
「んとだね。まじ気のせいっしょって、違うかったか〜」
彼女らに気づかれていたことを知ったオタク君は恥ずかしさで顔が赤くなり、俯いてしまった。
しかし、俺はやっとの思いで要件を伝えた彼に心の中でだが賛辞を送る。
オタク君が最初南に声をかけた時「ソノ…、アノ…。この…マエノ…ァノ…」と、それはもうどもり過ぎてもう酷かった。声が出ているか出ていないかで言えば間違いなく出ていないと言える。真横にいた俺が思ったんだからこれは真理だ。だからこそ本当によく頑張ったと思う。お母さん泣きそうだよ、うぅっ。
「えぇー!?アカリもしかして告られたん?こいつに?」
「えっ!うっそ!いつ!?ウチ知らないんだけど!えぇー!」
キャーとかぎゃーとか黄色い声を荒らげるのは高城さんと三浦さん。
脳内畑が広がっている彼女らを殴り飛ばしたくなる衝動に駆られるが、
というかオタク君もオタク君だ。かなり勇気を振り絞ったのはわかる。が、それでも言葉を選ばないと彼女らのような人間に勘違いされるのは簡単な事だ。
「あっ!いやっ!その!違うんですッ!あの…」
必死に誤解を解こうとするが時すでに遅し。それも違うんですと幾ら言おうが聞いて貰えないに決まっている。
彼女らの暴走は止まること知らず、先へ先へと
「えー?アカリ別に好きな人いないんだしー、付き合っちゃえばー?いいんじゃない?オタクってのもさー。カリンもそー思うよねー?」
「んー?まぁアリとは思わないけど、でもいんじゃない?冒険っての?」
高城さんはスポーツが良く似合う人で、人の良さそうな顔で南にえいえいと弄る。
オタク君のことをオタクと馬鹿にした意味を込めているのがわかる。人の良さそうな良い笑顔でどぎついこと言うな。後、見た目通りしっかりとオタク君はオタクだから何とも言い返せないしな。
後三浦さんの名前はどうやらカリンと言うらしい。
「話聞けってのー!んな事ないから!この前の返事ってのは夏休みにある遊びの誘いのことだから!」
この場の収集を治めてくれたのは南だった。俺が丁度、覚悟を決めて誤解をとこうかとした時だったので言葉が被ることが無くて良かった。いやホントのホント。まじ。
「なーんだ。おもんねー」
「んー、なんかそんな気してたわ」
2人ともさっきまでの勢いは何処へやら、萎んだ風船のように途端にテンションがガタ落ちだ。
その間、桜林さんはと言えば相変わらず静かに俺たちの様子を眺めている。興味が無い、といった感じがひしひしと伝わる。
南としては面白くなかったので、彼女らが萎んだのが都合が良かったのだろう、ここで話を終わらせに行くぞと言う面構えで俺達の方を見る。
「で?決めたんだよね?どっち?来る?来ない?」
「はっ!はい!決めました!」
たかが、遊びの誘いの返事に過ぎないが、それでも俺たちからすれば、中々お目にかかれないチャンス。
他の人からすればそこまで意気込む事ではなくて、それはもう薄っぺらい紙のようなノリと勢いで「遊び行く?」「行くー」の要領で済んでしまうことなのかもしれない。
だが、俺たちは違うのだ。「消しゴム落ちてたよ?」「え?あっ、ありがとう」と、ただ偶然拾ってくれただけでダメだ。K.Oだ。これでもう恋に落ちる。また、消しゴムをわざと落とそうか、どうか悩む程にチョロい。
南は急かすことなく、オタク君がどちらの返事を返すのかを待ってくれている。
「えー、ぼ!僕と高梨君も!そのッ!夏の遊びに行く──」
彼が意を決して、台詞をかみつつも、彼女らの耳に届くようにと気持ちを込めた、その時だった。
ある一人の男子生徒の声が、オタク君の声を遮った。
ここにきて、俺達日陰者が、日陰者であることを思い出させられることになる。
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