Ally-31:自業なる★ARAI(あるいは、I′veと/先の見えない交錯点)


「くりすてぃあぁのうぇいんうぇいんつあんじぇりかはぁぁぁぁぉぉぉぉんッ!!」


 結局のところ。


 妙なシリアス味を出しつつ、ソファにその巨体を押し込めるようにしつつも斜に構えて殊更に外連味たっぷりに放った「コンビニおにぎりを食べる時に毎回失敗して海苔破いてしまうから後ろのシールを全部丁寧に剥がして米・海苔・包装ラップに分解してからまた組み立て直して食べる」という、ダメな意味でダメなDEPをそれも当の本人が○○を見られた猿の如くに不気味に照れ笑いしながらも面白いだろ? 感を出しつつ滑舌悪く繰り出してくるという、気の弱い人ならいたたまれなさで失神してしまうんじゃないかと思われるほどの溜王色だめおうしょく吐気はきが、この地下部屋の重力を地球上のそれの1.75倍くらいに上げてきたところで、無情というか納得の<評点:538pt>をくだされ、髪人氏の時よりもおそらくキツめの折檻電流をおいどに放電ヴァーリーされて、冒頭のちょっと意味の分からない悶絶の叫びを上げつつ、猿人氏はあえなく果てたわけで……


「……」


 その、噛ませ犬よりも噛ませてきた戦慄の犬死感に、残る我ら三人は言葉も表情も失くしたまま、特に僕なんかは意識しないと満足に呼吸すら出来ないくらいにまで精神が追い込まれているけれども。


「……棄権って手もありにしてもいいわよぉん……プラス、ジロちゃんを差し出せばテレビも一万で譲るっていう、破格な条件にも変えてしまおうかしらぁん……どのみちこの『勝負』、一筋縄ではいかないこと、よくお分かりになっただろうしぃ……」


 ジョリーヌさんの野太い声がよりいっそうの粘りを有してきた……ッ!! というかそれだったら僕とテレビの(ほぼ)等価交換ってことになるじゃないか……そんなにも僕という人間をどげんかせんとあかんのですかぁぁぁぁッ!!


「う、うにゃ。あくまでぁらがは、『勝ち』を知らしめちょってから、せ、正当に勝利報酬ば貰うっちゃがよ。このくらいの窮地を覆せんで、何ご『万博』ちょらい言えもんど? じ、ジロー、その赤郎アカローば、のかすのんを手伝ってくれちょばり」


 体の内面に全反響するほどの慟哭をかましていた僕とは正反対に、アライくんはメイド服の袖口をからげながら、腕組みしてそう静かに言葉を紡いでいくのだけれど。


「……我ぁが、次行くじゃじ」


 そしてそんなシリアス風味の低音のしゃがれいい声でのたまってくる……いや、シリアスが死亡フラグだってことをそろそろ学習した方がよろしいのでは……いや、そんなことを思っている場合じゃあない。


「ぼ、僕が行くよ」


 気付いた時には、ゆっくりと息を吸い込んでから、そんな言葉を息と共に吐き出していた僕がいたわけで。自分でも驚きで、自分でもよく咀嚼できていない感情だったけれど、何か、ここでアライくんに委ねてしまったら、僕の男がすたるような、そんな意味不明の思いが押し寄せてきていた。


 とか思ってたら、あ、どうぞどうぞ、と瞬速の譲られをされたわけで。もうちょっと、じゃあ俺が/じゃあ俺がとかやるでしょうよ?


 とかも、思っている場合じゃあない。


「『二つ、団員は団長の求めに応じて、持ちうる力を惜しみなく供出すること』……団長と副団長に、こんな危険なことをやらせるわけにはいかないよ……いち書記としてね」


 あ、やばい自分で言うといて僕も何だかんだでシリアス感を出しちゃってるよ、リラックスリラックス……大したことないんだ、と必死で思い込もうとする僕。


 刹那だった。


「ば、馬鹿バッコンじゃなかかとのッ!? そ、そんならがでハメこせざぁるなんて思ちょったばが、大間違おんまつがいなんだからじょねッ!!」


 教科書テンプレ通りではあったものの、その言の葉自体が聞き慣れないこともあってかひどく面妖感のある、そして何故なにゆえ感がそれよりも強く訴えかけて来るまさかのツンデレを突きつけられて、思わず何もない場所でコケそうになるのだけれど。あのぉー、あなたのためにやってると言っても過言ではないのですけれどぉぉぉッ!?


 落ち着け。落ち着くんだ。


 む、無理しないでジローくん、12万だったら私の貯金で何とかできるから……との天使みつわさんからの天上のあまねきのような(これはいい……)声が傍らから響くのだけれど。


 大丈夫、とその大丈夫たる根拠の無さ具合に、発した自分の方が慄いてしまうほどの言葉を乾いた唇から放ち、悶絶状態の猿人氏を床にズルズルズゴッ、と降ろしたところで僕は改めて宣言する。


「次はこの僕がぁッ!! 『対局』つかまつります……」


 よく分からない言葉になってしまったけど、うぅん、キズものになってもアレなんだけどそうなったらやさしく治療してア・ゲ・ル、との全・毛穴が浮き上がりそうな言の葉を返されるに終わる。ともかく。


「……」


 着席と共に例の拘束具が僕の右手首と両足首を固定してくるけれどビビるな。終わらすッ!! この非日常の最奥に潜んでいたさらにの非日常という名の混沌カオスをッ!! そして三ツ輪さんとのかけがえのない「日常」に戻ってみせるんだッ!!


 かつてない気合いを汗ばんできた皮膚の内側に漲らせながら、対局開始の合図をただひたすらに待つばかりの僕がいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る