Ally-03:不穏なる★ARAI(あるいは、刹那ポッパーの/アイデンティFIRE)
と、とにかくとよ、
嘘をついている時は何故か標準語を流暢に喋るアライくんに大分うんざりとはさせられつつも、帰っても
つい今しがたも、知り合いがいるという工業高校に乗り込んで、灰色のつなぎを二着調達してきたばかりなわけで、何だろう、この行動力を他の有意義なことに発揮できたのなら、結構多様な分野で成功しそうな気はするけど。
こいばい、見ぃ、こんシブかやっちょっど、と、何年使ってるのか分からない、未だに手で持って指で操作するスマホの画面をこちらに突き出しつつ、そうまくし立てて来る。
そこには、真っ赤なボディに斜めにタスキをかけるように窓が開いた、ポップなデザインの携帯音楽再生機が映されていたわけだけれど。
「うぉ、『ウォークマンWM-101』ばと。名機ばがい。あ、あの『カイチュー』の劇中でも使わればっとぉと有名なやつだっがじょりあ。せ、『セカチュー』どと違ぉぞ、そ、そこは素人は間違いやすいけるのぉ、気をつけぇあ、ジロー……」
気を付けるも何もそんなマニアックなこと知らないし使う機会はおそらく来ないよ、とか言うとまた長い講釈じみた「‘85年話」が始まりそうなので流した。ちなみに「世界の中心で、愛をさけぶ」の原作を「セチュー」、映画版を「セカチュー」、TV版を「カイチュー」と呼び分けているらしきことが何故か分かってしまった僕だったけど、そこも触れると長そうなので流した。
でも、今でも通用しそうなその洗練されたデザインに、惹かれなかったといえば嘘になる。時代の粋を集めたようなその佇まいに、実は僕も何だか実物を目にしたり触ってみたりしたくなっていたりもした。カセットテープ。その奏でる音をもちろん聴いたことはなかったけれど、そこにも興味を引かれるところはある。
「か、カセットば、
最後の方の迫力の無い標準語は、滑り込んで来た電車の起こした風に吹き飛ばされかき消されたけれど、何となく僕もやる気になってきているのは、もうアライくんに毒され
―あ、あ、
入学式を終えた後の教室での自己紹介が思い出される。出席番号的にいちばんだったアライくんから、初手からそんな感じのトリッキーな指し手を示された僕らは、言うまでも無く
その後に訪れたのは、これはちょっと距離置いた方が良さそうだな的、厳然たる腫れ物扱いを遂行しようというクラスの総意が立ち込めるかのような空気感であったのだけれど。
でも出席番号2番の僕は、必然的に席も前うしろだったから、遠慮なく喋りかけられてきて。そしてその無秩序に張り巡らされているだろう琴線のどこを震わせたのか今もって謎だけれど、何か気に入られた、ということも二言三言言葉を交わした時点において脊髄辺りで感知できたのであって。
そんなわけで、流れでアライくんを当てがわれた感じの、あらいものがかり的な役職に任命されたかのような僕は、最寄り駅も一緒だったことから、でも義務とかそういうのじゃなくて、いつの間にかよくつるむようになっていたわけで。でも。
ふぇ、ふぇふぇ、あんババァも耄碌こき始めちょってるがに、ちょちょいと目当てのモノさく頂いちょや、他にも金目のもんばありそうでったら、そ、そいもちょろまかしんじょろうむがかの、の、ジロー……と電車の停止音に負けないくらいの、しゃがれてるのに、老若男女が聞き取りやすいヘルツなのか何故かいつも通ってはいけない時に限って不気味によく通る声で物騒なことをのたまってくるのは毎度ながら勘弁だよ……
……アライくんは、いつも不穏をその身に纏っている。
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