日本一のキャバクラに務めてる黒服だけど人生が楽しくて仕方ない

MrR

第1話 運命の出会い


 最近また仕事を辞めた。鉄工所で働いていたんだが、小言がうるさい先輩がムカつくから給料日に飛んでやった。今日も昼過ぎに起きたら会社から何件も着信が入っていた。


「しつこいなぁ」

 と、小さく溜息をついてスマホを片手に布団に潜りこんだ。

 俺はまだ21歳で若いから就職先なんていくらでもある。と言っても10代の頃はろくに勉強もしてこなかったから選べるような仕事はない。これといった趣味もなく毎日が退屈で、まるで死んだように生活をしている。このまま夕方までダラダラと過ごして、パチンコに出かけるつもりだ。

 そんなろくでもない俺にも同棲している彼女がいた。


「ねえ、祐介?バーテンダーなんてどう?」

 彩香がそういって求人情報誌を渡してきた。


「ふーん、バーテンダーか。そうやな」

 パラパラとページを捲ると、時給は1500円で茶髪okと書いてあった。あまり気が乗らなかったが、このまま彩香の収入に頼ることになるのが嫌だったので面接に行ってみようと決めた。

 それに、学歴不問で探した工場や現場で働くのはもうウンザリしていたのだ。安い給料で代わり映えのない毎日。何より自分の平凡な人生の未来が、はっきりと見えているようで怖かった。よし、電話するか。

 

「もしもし、自分は高島祐介といいます。求人を見て電話しました!」 


その後あっさりと面接は決まって免許証だけを持って手ぶらで店に来てくれと言われた。場所は大阪のミナミだった。


「ここがClubディーヴァか・・・」

 繁華街に聳え立つビル群を進むと、お城のような建物があった。正面玄関には大きな門扉が構えてあり人魚の装飾が踊るように施されていた。


「失礼します!」

 意を決して中に入ると黒いスーツを着た男たちが掃除をしていた。みんな年齢は自分と同じぐらいか。


「面接の方ですか?どうぞ」

 と男に案内されて、ただっ広い店内の奥に通された。どうやらVIPルームのようだ。そこで面接担当の者が来るまで待っているようにと言われたのでソファーに腰を掛けた。ふかふかとしていて座り心地がいい。


 暫くしてコンコンとノックがした後に別の男が入ってきた。恰幅の良い身体にぴったりと着こなした紺のスーツ。赤を基調としたお洒落なネクタイをしていた。

 履いている靴には艶があってピカピカとしている。それに凄く良い匂いがした。付けている香水も高そうだ。


「初めまして。本日、面接を担当させて頂きます専務の原桐修也と申します!今日は来てくれてありがとね!」

 そういってニコニコと名刺を渡された。その左腕にも高級感の漂う時計がはめられていた。


「初めまして、自分は高島といいます!今日はよろしくお願いします!」


「おっ元気がいいね!よろしくお願いします!」


「早速ですが、少し気になった事があったので質問してもいいですか?」


「どうぞ、何でも聞いてね!」


「ここって、どういうお店ですか?」


「キャバクラだよ!正確にはニュークラブになるんだけど、言ってなかったっけ?うちは日本最大のRグループといって、この業界にいて知らない人はいないんじゃないかな!」

 聞いてない…。求人情報誌にはキャバクラだなんて書いてなかったぞ!


「あのー、自分はバーテンダーを希望して来たんですけど。」


「ああ、そっかごめん!バーテンダーも募集しているんだけど、正直うちは簡単なカクテルしか作ってないから」

 そういわれて騙されたと腹が立った。適当に話をしてすぐに帰ろうと思っていると原桐さんが切り出した。


「高島君、夢はある?」


「えっ?夢ですか」

 唐突に聞かれて黙ってしまう。考えたことが無かった。自分は人生を半ば諦めていたのだ。


「例えばなんだけど、昼間の仕事をしていて直ぐに欲しい車が手に入るかな?」

 夜の仕事にはチャンスがある。と、いつの間にか原桐さんの話に自分は耳を傾けていた。給料は最初28万からスタートだけど自分の頑張り次第で、とんとん拍子に役職が上がるらしい。


「ほら、さっきこのVIPルームに案内してくれた男の子いたでしょ?北田っていうんだけど、彼は一年で次長という役職に上がったよ。給料も40万近くは貰ってる」

 えっと、あの人は見た感じ俺と同じ年ぐらいだったよな。確かに原桐さんの言う通り学歴もない自分が普通に昼の仕事をしていたら、そんなチャンスなんて一生巡って来ないだろう。ここなら大学に行った地元の友達にも追いつけるかもしれない。

 

 だから、と原桐さんは続ける。


「正社員でやってみませんか?」

 その眼はギラギラとしていて力強かった。


「あ、はい!是非お願いします!」

 即答だった。心臓がバクバクと鳴っている。こんなに熱い気持ちになったのは何年ぶりだろう、と自分の気持ちに驚いていた。


 その後、原桐さんと握手を交わして店を出た。


 でも、どうしようか。家で待っている彩香になんて言おう?キャバクラのボーイになったと打ち明けたら喧嘩になるかもしれない…。

 彼女とは付き合い始めてもう5年になる。出会いは高校一年生の時だった。同じクラスで席が隣同士になった時に仲良くなった。

 彩香はよく笑う子で一緒にいるだけで居心地が良かった。最初は友達の関係だったが毎日のように遊ぶ仲になって、いつの間にか付き合っていた。彼女の両親とも仲がいい。

 卒業後はすぐに同棲をした。彼女は大学に通いながら夜は居酒屋でバイトをしている。俺は職を転々として彩香に迷惑を掛けてばかりだった。


「やっぱり正直に言おう。」 

 あれこれと考えながら歩いているうちに家に着いた。


「ただいま!」


「おかえり!面接どうだった?」

 玄関を開けると彩香が明るく出迎えてくれた。


「決まったよ!正社員になった。」


「えーー凄いやん、おめでとう!てか祐介だったら絶対に面接受かると思って今日の夕食頑張ったんだ笑 お祝いしよ!」

 そういって彼女は台所に向かった。


「あ、でも職種なんだけど実は・・・」


「フンフーン♪んっ?ごめん何か言った?」


「あ、いや、なんでもないよ!」


 この日、ついにキャバクラで働くとは言えなかった。タイミングを逃したのもあるが、就職した事を自分の事のように喜んでくれている彼女に水を差すようで言えなかったのだ。

 

「明日から頑張ってね!」

 そういって無邪気に笑う彼女に空返事をして布団に入った。


 そうだ!原桐さんも言ってた様に仕事でバリバリ稼いで彩香にいい思いをさせてあげよう。そうしたらきっと許してくれるだろう。明日から頑張るしかないな!


 そうやって気持ちを切り替えると疲れていたのか、いつの間にかストンと眠りについた。

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日本一のキャバクラに務めてる黒服だけど人生が楽しくて仕方ない MrR @reiki0420

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