【ストーカーGL】揺れる
餅ふうる
第1話
スクールバスの1本目は帰宅部の生徒専用。終業の10分後には発車してしまうから、利用者はいつも10人程度。
わたしはいつも最後尾の座席に座る。一日の終わりに、席もまばらな車内全体を眺めるのが好きなのだ。
そしてあの人のさらさらとした髪が揺れるのも。
二つ前の座席に先輩が座った。彼女はスマホを取り出して、メッセージか何かを入力している。画面は見えない。
バスにエンジンがかかり、ブザーの音とともに扉が閉まる。
「終点、○○駅ゆきです。発車の際は揺れることがありますので・・・・・・」
わたしは「揺れる」という言葉にドキリ、とする。そうして何かを期待しながら先輩のうしろ姿を見ている。
ゆっくりとバスが始動し、バス停から離れていく――
ガクン。
急に身体が前のめりになり、車体が揺れる。ブザーが鳴り、ドアが開く。
息を切らしながら駆け込んできた女子は、先輩の姿を見てぱあっ、と顔を明るくさせた。
バスは再び始動する。
「ごめん、ギリギリになっちゃった!」
「一緒に座ろっか。あ、後ろの席にする?」
そうして二人は私の一つ前の席に腰かける。先輩の髪はまとまりをもって、重心のかたむきに合わせて左右に揺れる。
近い。わたしのすぐ目の前に先輩がいて、髪のわずかな動きも見て取れるほどに、近い。
そして気取られないよう顔を近づけていくと、ふわりと甘い香りが鼻腔を満たし、頭の中までいっぱいになる。
(どうして先輩の香りだけ他の人と違うのだろう?)
髪から鼻先までほんのわずかな距離なのに、触れることはかなわない。わたしはバスが何かの拍子に急停車してくれないかな、とさえ思う。
「なんかこの時間に帰るの久しぶりかも!」
「えっと、部活は?」
「言ってなかったっけ? 今年は受験もあるし、中途半端になりそうだからやめようかなって・・・・・・そんな風に考えたら急に気が抜けちゃって。あ、まだ届け出はしてないんだけどね」
「そういうの、ちょっとわかるかも」
「でも、ずっと帰宅部だったでしょ?」
「ふふ、これでも図書委員会の書記なんだけど?」
――先輩の姿を始めて見たのは、1年次の春のことだった。
所属する委員会の希望調査用紙が回ってきたとき、わたしは本が好きというただそれだけの理由で、図書委員会を希望した。
その日は新入生が参加する最初の定例会だった。
委員長と副委員長の自己紹介が終わり、書記の番になった。
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