第19話 再会
大神組の地下には、久しぶりに見る美乃里がいた。
甲高い声で怒鳴り散らす美乃里の姿に、これがあの美乃里かと
疑う程だった。
そして、俺の知らないうちに逃げ出していたとは・・・。
下の者に任せっきりで、放置していた自分の甘さが招いた失態だ。
逃げた上に、敵方の女になって大神組の若姐を狙うとは・・・。
そして、俺の失態を嘲笑うのではなく、処分を俺に任せてくれた
大神組の若頭の度量の大きさにも完敗だった。
本当は、自分で処分したいほどに怒り狂っているはずだろうに。
俺は、この時、この男『大神龍生』について行きたい、こいつと
肩を並べるくらいの男になりたいと心底思った。
地下の部屋から戻り通された部屋は、広い応接室だった。
コの字に並べられるソファーの奥の席に、俺と朝陽、律がすすめられ
座ると向かいの席に大神龍生、残りの席に今井数馬と前田京が座った。
「今からお前達に会せるのは、俺の嫁だ。」
大神龍生は少しイラつき気味にそう言った。
その話し方から、本当は会わせたくないのだろうということが分かった
それなら何故会わせようとするのか・・・・。
俺の疑問は直ぐに解けることとなった。
コンコン
応接室のドアが外からノックされ、大神が「入れ」と声をかけると
ドアが開き、大神の側近の織田宗志が中に入ってきた。
そして、その後ろに立つ女・・・。
綺麗な女だと思った、女にしては少し高めの身長にモデルのような
スタイルの良さ、ハーフなのかグレーの瞳に髪の色。
腰まで伸びた髪の毛は緩くウェーブがかかり柔らかそうだ。
二重に切れ長の目には若姐としての意志の強さが伺えた。
初めて会うはずなのに、既視感を覚える・・・。
俺は今いる場所も立場も忘れたように自然と口から言葉を発していた
「以前、お会いしたことはありませんか?」
俺の声に若姐はビクッと肩を揺らした。
すぐさま向かいの席から向けられる殺気に、自分がしたことに気がついた。
「申し訳ありません、驚かせる気はなかったんです。」
「いえ、大丈夫です。お気になさらずに・・。」
俺の言葉に返した若姐の声・・・・。
ずっと、聞きたかった声だった。
「・・・まさか・・・あ、玲・・・。」
「「 エッ! 」」
横にいた朝陽と律は俺の声に驚きの声を上げ、若姐を見た。
見た目は全くの別人だが、玲だと俺の心が告げる。
俺の心臓がバクバクと音をたてる中、若姐は大神龍生の隣に腰かけた。
向かいの席には、大神龍生、若姐、織田宗志の順で座っている。
俺の前に座る若姐が口を開いた。
「私は、ここ大神組若頭、大神龍生の妻の大神玲です。
響さん、朝陽さん、律さん、お久しぶりです。」
「やっぱり、玲なのか・・・。
・・・大神組の若姐になっていたのか」
ずっと探していた玲が今、目の前にいる。
でも、あの頃とは違う容姿に戸惑う俺がいる。
そんな俺の頭の中を読んだように、大神龍生が話出した。
「お前等の知っている玲とは容姿が違うって思ってるだろう?
でもな、これが本来の玲だ。
お前達が知っている玲の姿の方が、偽物の作り物だ。」
「ど・・どういう事だ・・・。」
「私のこの髪や瞳の色って黒じゃないでしょ。
亡くなった父親がロシアとのハーフだったらしいんだけど、この
容姿を義父が嫌ったの。
だから、いつもコンタクトとカツラで隠してた。
でもね、龍生はそんな私の偽りの姿に気がついてて、ガーディアン
から追い出され、家からも追い出されて行くところがなくなった
私に、全てを捨てて本当の姿でついてこいって言ってくれた。」
「お前達は玲と違う学校だったから知らないだろうが、玲はお前達と
いるようになってから、かなり絡まれていた。
いつでもどこでも落ち着くところがなくて、辿り着いたのが俺が
いつもいた図書室だ。
そこで、俺達はいつも話をしていた。
玲に聞いたことがある、何故ガーディアンから離れないのかと。
そしたら、こいつは何て答えたと思う?」
その問いに俺は分からず頭を横に振った。
「自分の事を信じてくれる人達がいる大事な居場所だから、自分から
は離れる事が出来ないって。
そう言ってたんだよ。
だから、俺は辛そうにしながらも耐えている玲を見てるしかでき
なかった。
でも、お前達が玲を信じなくて追い出したことで、俺は玲を自分の
ものにすることができた。
だからな・・・玲にしたことはムカつくが、感謝もしてる。」
そう言うと、玲の頭を自分に引き寄せ口元に笑みを浮かべた。
「玲、あの時は本当にすまなかった。
俺達がちゃんと調べれば直ぐに分かったことだったのに・・・。」
俺は玲に頭を下げた。
隣に座る二人も一緒に頭を下げていた。
「もう、いいの。
あの事があったから、今の私がある。
きっと、私には必要な出来事だったと思うから・・・。」
「今回の美乃里の事も申し訳なかった。
二度とこんな事がないようにする。」
玲は二度と俺達の元には戻ってこない。
だが、今度は俺達が玲を護ることはできる。
「大神組の若頭、俺はまだまだだ。
だが、今後期待を裏切ることはない。
今回、あんたに会ったことで俺はあんたについて行きたいと思った。
そして、いつか肩を並べ支え合っていきたいとも思う。
どうだろう、兄弟の盃を俺と交わしてもらえないだろうか。」
俺のこの言葉は意外だったようで、少し目を見開いた後
「分かった、いいだろう。」
そう応えると、今井数馬に目くばせした。
今井数馬は席を立ち、暫くすると二つの盃と酒をテーブルの上に置く。
「簡単だが、ここにいる皆が証人だ。
俺と響は今日から五分の兄弟分となる。
いいな。」
まさか、五分の兄弟分になれるとは思っていなかったが、そこまで俺を
信じてくれるという事に、喜びを感じた。
「はい、よろしくお願いします。」
お互い盃の中の酒を飲み干し、懐にしまう。
俺は真直ぐな目を龍生に向けた。
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