第7話 大神 龍生

「寝てしまわれたようですね。」


「あぁ」


緊張や別れ、裏切り、暴力・・・今まで気の休まる時が無かっただろう。


今は、安心したように俺に身を任せる愛しい女、玲。



俺が今までの学校に通っていたのは・・・。


生まれた時から俺の生きる道は決まっていた。


日本最大組織 竜神会、そのトップの大神組の跡取り息子


流石血筋なのか、極道の世界は俺に合っていたようで喧嘩、腹の探り合い

裏切り、策略・・・全てを難なくこなしていた。


俺自身、この世界以外の生き方は無理だろう。


だが、中3の時ふと思った。


この世界にいても仲の良い両親、正直羨ましいと思った。


俺は容姿も良く、女にはかなりモテた。だが、それは俺の上辺だけ・・


俺自身を見てくれる、そんな女が欲しいと思った。


両親は高校の先輩、後輩だったらしい。周りの反対もあったが、2人の意思は

固く結ばれた・・母親がよく俺に話してくれていた。


「龍生にも、本気で大事に想う人ができたらいいね。」それが、母の口癖だった


だから・・・親父に頼み込んだ


「高校の3年間だけ、俺の事を知らない場所で生活させてほしい」と


思いの他、親父はすんなり了承した。



俺の容姿は目立つ、だから隠すことにした。


鏡に映った俺は、冴えない地味男になった。


高校生活1年目は、何もなくただ過ぎてしまった。



俺の考えは無駄だったのではと思い始めていた頃、俺が居場所にしている

図書室に地味な女がよく来るようになった。


今年入学した1年らしい女。


図書室に来た時だけ、短い会話を交わすそれだけの関係が続く。


名前が「玲」と知ったのは、初めて会ってから1か月経った頃だった。


玲はイジメにあっているらしかった。


でも、玲はそんな事を俺には一言も言わない。



ある時、校舎の裏で玲が数人の女に囲まれている場面に遭遇した。


罵声を浴びせる女達の中で、玲は凛としていた。


言い返すこともしないが、背筋を真直ぐに伸ばし自分は間違ってはいないと

全身がそう語っているような、そんな姿だった。


俺はその姿に・・・見惚れてしまった。


『こいつだ!俺が探し求めていたものは・・・玲だ!』


俺の心がそう言っていた。


それからの俺は、玲の事を調べた。両親、義妹、ガーディアン・・・


その中で、玲の容姿は偽りだとも知った。俺と同じ。



図書室の中で、俺と玲の気持ちが近づいていくのを感じた。


素の自分で話す玲。


近づく俺達の距離の中、玲の様子がいつもと違う事に気づく。


「玲、何があった?」


「・・・何もないよ。」


「俺には隠さず何もかも話せよ。俺は何があっても玲の味方だ。」


俺の言葉に玲の瞳から涙がこぼれた。


玲の口から語られたのは、最近できたお姫様の事だった。


ガーディアンの奴らはどう思っていたのか知らないが、玲は大事な居場所

と思っていた場所。だから・・離れたくなかっただけ・・・。


その日は、何かあったら俺に言えといって別れた。



あの事件が起きたのは、それから1週間程だった。


事件が起きた翌日、玲はボロボロになって俺の前に現れた。


保健室に玲を運んだ俺は、今後の事を両親に相談するために本家に足を踏み

いれた。



俺がいなかった数日の間に、


   玲は居場所、家族、仲間を失っていた。




図書室に現れた玲は、何もかも諦めたようで痛々しい姿に怒りすら湧いた。




「玲、全てを捨てて、俺に身も心も捧げる覚悟はある?」



ある意味、俺の一世一代のプロポーズ




「私ね・・何もなくなったの、仲間も居場所も家族も、何もないの。

 だから、龍生が私の側にいてくれるのなら、それでいい。」





「俺についてくるか?」



俺が全てのものから護ってやる。


俺がお前の過去も未来もひっくるめて、愛してやる。


だから、この手を掴め。




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