並行世界―パラレルワールドー

アル

「レンって彼氏と他二人を三股しているんでしょ?」

「マジ?ビッチじゃん。さすがー」

『うるさい。中二が三股とか馬鹿なの?』

 なんて言えたらどんなにスッキリするだろう。言われっぱなしなのも言い返さないのも、もはやいつものこと。

 ありもしない噂を流されるなんて日常茶飯事で、今更どうこういうつもりもない。むしろそんな噂話でしか楽しめないなんてかわいそう。

 そんなことしか思えないのは他人事に感じているからだろうか。わからない。

「おはようレン」

 ぼっち同然の私だけど幸いにも仲が良い人がいる。唯一本音が言える人。

「おはようサチ。今日も寒いね」

「寒いね。ところで最近どう?」

 私は曖昧に笑った。どうというのは私を取り巻く環境のこと

「サチおはよ!」

 突然響いたその声に私の思考回路が停止する。

「おはようトキ」

 同じ部活がなんだ。仲良しこよしなんて私も向こうもするつもりはない。

「トキ遅い!早く来て!」

「ごめんリホ。今行く!」

 廊下から聞こえたうるさい声と共にトキが消える。

「よく飽きないねぇ。うちが来たとき、他の人も溜まっていたよ」

 そう、私のありもしない噂、悪口の発信源は私を除いた女子ソフトテニス部の同級生十人。サチが言っていた“他の人たち”というのはおそらくトキとリホ以外の部員とその仲良しさんたち。

 毎日飽きずに集まっては私にまつわる話をして、それに対しての悪口をひたすら言っている。

「本当、馬鹿馬鹿しい」

 サチのつぶやきに返事をするとサチは苦笑いをした。

「そろそろ朝の会じゃん。またあとでね」

「うん、また」

 それぞれ席につくとちょうどチャイムが鳴った。扉が開く。入ってきたのは遅刻の生徒でもなく担任でもない、学年主任だった。

 教室が少し騒がしくなる。先生の声が響くとみんな素直に静かになった。

「担任の藤川先生ですが、胃腸炎で昨日から入院なさっていてしばらく退院できません。私も他の先生も授業があるため自習が多くなってしまいますが、静かにしっかりやるように」

 控えめに言っても最悪。先生がいれば多少はマシになる悪口がひどくなる。

教室に先生がいてくれることだけが頼りだったのに。騒がしくなって終わった朝の会、担任がいないと喜ぶクラスメイトに紛れて私は一人で静かに絶望した。


 元々のターゲットは私じゃなかった。それがいつの間にかターゲットは私になっていて、気が付いたら孤立していた。変わった時期は定かではないけれど、五月中旬だったと思う。

 ある日突然、それまで仲が良かったはずのトキから冷たくされた。驚いたけど気分屋だから、と流した。

『明日には戻っている』

 そう信じた私が馬鹿だった。

 トキから部活へ、部活からクラスへ、クラスから学年へ。まるでインフルエンザのように、流行りのファッションのように、冷たい態度は伝染し、日に日にヒートアップし、ブレーキを知らないまま加速した。

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