犯罪が多すぎる!
タカナシ
「また殺人事件かよ……」
2020年夏。当初は冷夏が予想されていたが、日本の気候は見事にそれを裏切り、連日35℃越えの酷暑となった。
うだる様な暑さだが、良いこともあった。それは2020年、世界を震撼させたコロナウィルスがその暑さでもって活動を弱めたことだ。
今ではマスクもせず自由に外出できるようになった。なったのだが……。
「また殺人事件かよ……」
孤島にあるペンション『イゾラ』のオーナーである俺、
人々はコロナからの解放から、今まで控えていた外出を失ったときを取り戻すかのように一斉にし始めた。
自分で言うのもなんだが、ここペンション『イゾラ』は青い海に白い砂浜、孤島という開放的な空間、そしてとびきりおしゃれな洋館のペンションだ。まさにレジャーにはうってつけの素晴らしい場所だと自負している。
ただ、このシチュエーションは、殺人事件にも抜群のシチュエーションだったようで、今シーズン6回目の殺人事件だよ、これ!!
予約がひっきりなしに舞い込んで、舞い上がったのがいけなかったのか!?
未だにマスクをしてコート姿の男とか、明らかに変声機を使った声の電話とか、包帯ぐるぐる巻きの男とか、そんな奴らから予約なんて受けなきゃ良かったのかもしれない。
まぁ、もうやってしまったことは仕方ない。
そもそも最初の客は全員普通だった。殺人事件もたまたま来ていた警察が解決してくれた。
次も割と普通だったかな。そこもたまたま居合わせた眼鏡紳士の警察が解決した。
3回目くらいから怪しかったかな。フリーのルポライターとか怪しげな職業の奴が解決していったし。
俺もね、実は流石に3回も殺人が起きたら閉めた方がいいかな~って思ったんだけど、なぜか逆にいわくつきのところに来たいっていうミステリー同好会だかの高校生たちが無理矢理来て、なし崩し的に泊まることになって、そこでも殺人。もうやんなるよね!
それは高校生探偵が早々に解き明かした訳だ。
さらに極めつけは、子供、それも小学生くらいの子とか来ちゃって、なんでも船が嵐に巻き込まれて仕方なくここに来たって話なんだが、もちろん起きるよね殺人。
でもそれが最速解決だったかな。1時間くらいで解決して、なぜか嵐も止んで、すぐ帰ったよ。つぎは避暑地でテニスするとか言っていたけど、その避暑地も危ない気がするんだよね。
で、流石に流石に5回も殺人事件が起きたらそうそう営業なんて続けられないじゃん。
そこで閉めることにしたんだが、閉める為に協力してくれる友人2人と業者3人、あとは船の船長を呼んだんだが、その結果がこれだよ。
俺は目の前の業者さんの死体を見つめた。
「えっと、誰か探偵経験ある人っていますか?」
とりあえず俺は全員を集めると業者の一人が死んでいることを告げると、質問した。
顧問探偵なんて最高峰はいなくていいから、せめて前向きなだけが取り柄くらいの探偵がいてくれ! そう願ったが、首を縦に振るものは誰もいなかった。
「そうか、それなら仕方ないですね。皆さん、これを見てください」
俺は死体の側にあった紙を皆に見せる。
そこには、『復讐の幕は切って落とされた。恐怖に震えながら死を待つがいい』と書かれていた。
「こう言ったメッセージがあるとまだ殺人が続くのですが素人の俺たちに出来るのは、さっさとこの島から出て警察に任せるくらいです」
俺たちは全員で脱出すべく船へと向かった。
しかし。
「あ、ああ、船が燃えている……」
船の主である船長は燃え盛る船を見て、膝をついて崩れ去った。
「孤島での常套手段ですね。船は残念でしたが、今まで3回このパターンがあったので、こんなこともあろうかと、もう1時間くらいで別の船がくる予定です」
俺はそう言うと、時間までペンションで待機するよう促した。
ペンションに戻った俺は、友人の田中と渡辺に指示を出してから、先に警察に連絡をとるべく受話器を握った。
しかし、そこからは何も聞こえず、電話の裏を見ると、電話線が切られていた。
「あっ、4回目に切られたままになっていたな」
以前切られたのを思い出し、携帯を取り出す。
「ああ、やっぱり圏外か。最近は妨害電波出す装置も小型化したらしいし、毎回使われるな。仕方ない」
俺は自室に一度戻ると、こんな事が5回もあったので準備しておいた軍用の衛星電話を持ち出し警察へ連絡。
要点をまとめ、分かりやすく説明する。
「被害者は業者の方で山田太郎さん36歳。テレビのコードで絞殺されています。死後硬直や死斑から見て死後1~2時間ってところですね。まだ殺人が続きそうなので、アリバイのない人は拘束しておきます。あと1時間くらいで俺たちはこの島から脱出するので、そこで保護をお願いします」
「準備が万端すぎるっ!!」
俺が電話を切ると、業者さんの一人が声を荒げた。
「えっと、確か、鈴木さんでしたっけ? 準備が万端で何か問題でも? あっ、もしかして犯人ですか?」
こういう場合不用意に喋りだすのはだいたい犯人で、5回中3回は犯人だった。
「ところで、鈴木さんは1~2時間前って何していました?」
「なんだ。アリバイか? オレを疑っているのか!? だが、残念だったな。オレにはしっかりとアリバイがある!」
俺は友人2人に目配せすると、友人2は業者の1人と船長さんを指さした。
ふむ。アリバイを調べてもらっていたのだが、確かにアリバイがないのは、その2人だけのようだ。
アリバイがあるのは、俺と友人2人、それから鈴木さんと、もう一人の業者の佐藤さんだ。だけど。
「こういう場合、犯人は確実にアリバイを作っておくんです! 5回中5回そうだったので、孤島で殺人なんかするような奴なら確実ですね。そして俺と友人2人はずっと一緒に閉店作業をしていました。つまり犯人はあなたたち2人のどちらかです!」
俺は鈴木さんと佐藤さんを指さしながら、最後の詰めに移る。
「さて、それでは最後に犯人かどうかの確認としてボディチェックをさせてください」
「ボディチェック? 凶器はコードだし、特に怪しいものは出ないだろ?」
「いや~、これが、かなりの確率で犯人が持っているものがありまして、ちょっとそれを探させてもらってもいいですか」
俺はそう言うと、まず佐藤さん。次に鈴木さんのボディチェックを行った。
「佐藤さんはないですね。次、鈴木さん」
ゴソゴソ。ゴソゴソ。
「ああ、やっぱりありましたね。ピルケース」
振ると中から錠剤の揺れるカシャカシャという音が小気味良く響く。
「だいたい孤島の犯人って奴は自殺ように毒薬を持ってくるんですよね。5回中3回、あとの2回は崖へダッシュとナイフでしたね。さて、鈴木さん、あなたが犯人ですね。何か言う事は?」
「さっきから大人しく聞いていれば勝手なこと言いやがって、全部憶測じゃねぇか! 証拠はあるのか証拠はっ!!」
「5回中全部、犯人は、『証拠はあるのか!』って言いましたよ。つまり、その発言こそが証拠! 皆さん、鈴木さんを捕まえてください!!」
こうして鈴木さんは拘束され、1時間の間特に次の事件が起きることなく、迎えの船がやってきた。
「いや~、本当に鈴木さんで合っていたとは……」
その後の警察の調べで、やはり鈴木さんが犯人だと判った。
「ペンションも閉めることになったし、こりゃ次の仕事は探偵でもやった方がいいかもな」
俺は砂浜をゆっくりと歩きながら、独り言ちた。
犯罪が多すぎる! タカナシ @takanashi30
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます