203話 胸糞話募集してます

 想像はつく。

 胸糞話だろうな。

 俺、こんな話ばっかり聞いていないか?


 ラジオ番組で胸糞話を募集してますみたいじゃないか。

 ミルとキアラを見ると、2人ともクリームヒルトには同情するような目を向けている。

 いや、同情ではないな、同じような立場と思っているのかもしれない。


 クリームヒルトが一呼吸して口を開いた。


「当然、部族では大騒ぎになりました。

そして、クリームヒルトを責め立てたのです。

『使徒さまの寵愛が欲しくて、おまえが追い出したのか』そう言って、クリームヒルトの一族を追放したのです」


 むちゃくちゃだな。

 だが、こんなときに何を言って良いのか正直分からなかった。

 そのまま静かにクリームヒルトが話を続けた。


「一族からしても、怒りはクリームヒルトに向けられました。

八つ当たりとは知っていても、仕方なかったのです」


 まだ話は終わっていない。

 俺は続きを促す。

 クリームヒルトも最後まで話す気だろう。

 クリームヒルトは黙ってうなずいた。


「一族も八つ当たりを続けるのはつらかったのでしょう。

徐々に怒りは収まっていきました。

そして一族はここに流れ着きました」


 奥の魔族とは別なのか? てっきり分派かと思ったのだが…。

 その考えは悟られたようだ。

 クリームヒルトが苦笑した。


「奥にいる魔族は、もとの部族の中で抗争に敗れて、後から流れてきた人たちです。

裏切り者の一族とは一緒に住みたくはないと、さらに奥に移住したようです」


 どんだけ引っ張るのかね…。

 それはただの口実で、主導権を握られるのが嫌だったのか。

 それとも報復を恐れたのか。

 未開の地に移住したなら、それどころじゃないと思うのだがな。



 話の腰を折るがちょっと確認するか


「後から来た魔族は、あなたたちが流れ着いてからどれくらい後に来たのですか?」


 クリームヒルトがあきれた顔で苦笑した


「100年後らしいです。

時間がたつにつれて、恨みは減るどころか増えていたようですが」


 憎悪を子供の教材の代わりに吹き込んでたら、膨れ上がってそれ自体を真実と思い込むだろうな。

 そして何か不満が有れば、それを理由にしてさらに膨れ上がる。

 負の永久機関だな。

 俺の表情を興味深く見ていた、クリームヒルトが口を開いた。



「話を戻します。

一族はクリームヒルトに対する恨みは……表向きですが引っ込めました。

ですがクリームヒルデに対しての恨みは忘れませんでした」


 ちょっと雲行きが怪しくなってきたな…。

 表向きってのも引っかかる。

 クリームヒルトは思案顔な俺を見て、ほほ笑んだ。

 ちょっと違うのかな。


「クリームヒルデはどうなったのかも分かりません。

仮に生きて子孫が残っていた場合に、自分たちの運命を教えようと思ったらしいのです」


 話が見えてきたが執念深い…としか言いようがない。

 だが、他に生きがいがないと過去の恨みにしがみつくのか。


「そこで、クリームヒルトの子孫に娘が生まれたら、クリームヒルトと名付ける。

生まれなかったら、1番血が近い女にクリームヒルトを名乗らせるように定めたそうです」


 やはりね…。

 ところがクリームヒルトが苦笑した。


「と言っても、クリームヒルデの話は…クリームヒルトの名前を継ぐ人にのみ語られるようになりました。

他の人にも話していたらしいのですが、そのうちに誰も話さなくなったようです」


 他の人は前を向くことを選んだのか。

 生きるために必死でそれどころではなかったのか。


「面白いことに決まった名前を継いで月日がたつと、この名前は一族の代表のような名前になってしまいました」


 ちょっとコメントに困った。

 クリームヒルトが法にこだわったのは深い意味が有ったのかもしれないな。

 クリームヒルトが真剣な目で俺を見た。


「私は今更、クリームヒルデや子孫に対しての恨みなどは持ち合わせていません。

一族にしてもそうです。

むしろ、奥の魔族はわれわれの存在を理由に友好的にはならないと思います」


 俺は断固たる態度で口を開く。


「それは全く考慮に値しません。

それを恐れているくらいなら、こんな話もしませんしね。

ドリエウスとも戦いませんよ」


 クリームヒルトがうなずいて、少し身を乗り出した。


「よろしければクリームヒルデの子孫に会わせてください。

ただ会っていろいろと話したいのです」


 恨みをぶつけるとかではなく、無関係な過去に捕らわれた同士で話したいのかもしれないな。


「それは、先方に確認してみます」


 キアラに目配せした。


「では、私が聞いてまいりますわ」


 キアラが出ていった。



 その件はもういいだろう。

 俺がこれ以上首を突っ込む話ではない。


 それより本来の用件として確認すべきことが有る。


「そちらの人数は何人でしょうか。

護衛が必要かどうかと、掛かる日数も教えていただきたいのです」


「300名ほどです。

護衛は可能であればお願いします。

後、集団であれば到着には2週間ほど掛かります。

私と護衛だけだと早いのですけどね」


「分かりました、手配しましょう。

では、護衛の準備も有りますので出発は3日後くらいでよろしいですか?」


 クリームヒルトは頭を下げた。


「はい、よろしくお願いいたします」


「護衛の方を含めて、宿泊場所はこちらで用意します」


 ミルに目配せした。


「ええ、やっておくわ」



 ミルも出ていった後で、一つだけ聞き忘れたことが有ったので確認をする。


「ああ、そうそう。

われわれの悪い噂をあなたたちに流したのは猫人ではありませんか?」


 クリームヒルトが驚いた顔をした。


「よく分かりましたね。

17歳の姿をした全てを見通す1700歳の大魔王って噂は本当なのでしょうか?」


 ちょっと待て! 名前がおかしくなっているぞ!

 しかも長げぇよ!

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