第4章 独身卒業

103話 銅像論争

 犬人、虎人を統合したから俺たちの勢力は地域的に最大だろうな。


 この程度でと思われるかもしれないが、このあたりは少ない人口が点在している。

 だから、一カ所に集めている俺の都市は最大勢力。

 敵からすれば分散していれば個別に叩けるが、固まっているからうかつに手を出せない。


 そんなポジション。


 信長の野望とか三国志とかは序盤は楽しいが、中盤からあとはダレ始める。

 ゲーム的には中盤。

 地方では最大勢力だが、世界ではまだ弱小で吹けば飛ぶ程度だ。


 ゲームと違って舵取りが難しい。

 世界的には目立たないように、力をつけないといけない。


 危機を感じた小勢力が、大同団結してこちらと敵対する。

 これが最悪のパターンだ。

 そうなると勝てるが、被害は座視できない。

 それはできる限り避けたい。


 襲撃をしのいで、死者の埋葬を済ませて落ち着き始めたある日のことだ。

 犬人と虎人が護衛に伴われて到着した。


「ご苦労さま」


 チャールズをねぎらう。

 チャールズは真面目くさった顔をしつつ、ウインクした。


「いえいえ。

あとで詳しい話を聞かせてくださいよ」


「ええ。

その前に新たな住人たちを出迎えないといけません」


 俺は移民たちに向き直る。


「ようこそ、ラヴェンナへ。

あなたたちを歓迎します」


 エイブラハムが礼儀正しく一礼した。


「よろしく頼みます」


 トウコは軽く一礼した。


「頼むぞ」


「では、それぞれの宿舎にご案内します」


 同じ建物に2種族をいれると、問題が発生しやすいので別々とする。


「あと、オールストン殿とプリユラ殿には代表者会議のメンバーになっていただきます」


 エイブラハムが怪訝な顔をする。

 合流していきなり、最高の意思決定会議に参加なんて普通はないだろう。

 だが、これが一番合理的なのだ。


「いきなりですか?」


 トウコは納得顔。


「噂通りか」


 虎人の方がこちらの情報をつかんでいるな。

 慣例になりつつあるが説明をする。


「ええ。

市民としてなじむにしても、いろいろ問題もあるでしょう。

ですので代表者としてわれわれの運営に参加していただければ、問題の解決も早いでしょう」


 エイブラハムが納得した顔をした。


「失礼ながらお伽噺の仙人、との噂は本当のようですな」


 何か、俺の名前が増えてね?

 トウコもうなずいている。


「われらは千里眼の1600歳と呼んでいるな」


 おい、変に韻を踏んだ呼び名やめろ。

 この話は続けるとやぶ蛇なので本題に戻る。


「ま……まあ、その時間になったら使いを出します。

会議の場で担当していただく仕事について、説明させてください」


 トウコが簡潔に言う。


「われらは新参者だ。

存分に使ってくれ」


 俺も素直にうなずく。


「ええ、頼りにしています」


 2種族を宿舎に案内して、残りの業務はオラシオに丸投げする。

 オラシオは呆れ顔をしつつ、丸投げと言ったら本当に丸投げなになるので諦め顔になる。


 屋敷に戻って襲撃の情報共有を行った。

 チャールズが考え込む。


「ご主君が狙われましたか。

親衛隊の結成を急いだ方が良さそうですな」


 先生が首をかしげた。

 人的リソースに懸念があるのは俺と同じなのだろう。


「ロッシ卿、今は兵力が減少している。

そこまで手が回るものなのかね」


 チャールズは苦笑しつつ、肩をすくめた。


「それはそうなのですがね、ご主君がやられたらわれわれは終わりですな」


 終わりはオーバーだろう。

 そう思ったら全員うなずいていた。


 そこにロベルトが身を乗り出した。

 

「犬人と虎人が参加したので防衛戦力も増すでしょう。

われらの拠点は幸い増えてないので純粋に戦力増加とみても良いでしょう。

親衛隊の設立は可能だと思います」


 一同が思い思いに話し始めたが、設立の方向で話が動き出している。

 結論に全員が飛びつきそうなので、俺は手で全員を制した。


「そう単純な話でもないでしょう。

2種族がなじむまで、しばし時間がかかります。

軍事訓練を急ぎたいと思います。

シルヴァーナさんからの提案のあった、冒険者のリタイア組を招くタイミングでしょう。

その上で親衛隊のことは考えましょうか」


 すぐに設立まで行くとは思っていないだろう。

 チャールズが素直にうなずいた。


「そっちの連携は私に任せてもらいましょうか」


 ここらで決めないといけないことがある。


「そろそろ戦死者に対する礼葬、負傷者に対するケア方法を決めた方が良いでしょう」


 チャールズが俺をみてニヤリと笑った。


「確かにそうですな……国葬の形式ですな。

ご主君が弔辞を述べれば良いでしょう」


 俺の弔辞か。

 転生前の感覚でどうにもその手の式典は苦手なのだ。


「私の弔辞なんかで礼装になるものですかね……」


 先生がアホかと言わんばかりに、あきれた顔をしていた。


「坊主。

お前は自分の価値が分かってないだろ……」


「いや、ただの領主ですよ。

確かに嫌われてはいませんが……」


 全員にため息をつかれた。

 キアラが論外だといったように首を振った。


「お兄さま。

嫌われてないどころではなく……とても敬愛されていますわ」


 全員が即座にうなずいた。

 チャールズが苦笑しつつ一同を見渡した。


「ご主君の弔辞は必須です。

あとは、おまけで私も部下への弔辞を述べますよ」


 そらあんた軍事の責任者だし。


「私は部下に常々言っているのですよ。

お前たちが死んだら俺が弔辞を述べてやると」


「ほう、それはそれは……」


 ごく普通の話だな。


「そこで周囲が反応に困ったり、笑いを堪えるのに苦労するくらい美化した弔辞を述べてやる。

嫌なら死ぬなと。

そう言ってあります」


 ひどいオチだった。

 先生があきれた顔をした。


「ロッシ卿、自分がそうなる心配をした方が良いのではないかね」


 チャールズは自信満々に胸を張った


「私は死にませんよ。

100歳以上は生きるつもりなんでね。

ご主君も早死にしたら弔辞を述べて差し上げますよ」


 一同は爆笑した。

 いつもやられっぱなしだと思うなよ。

 俺はせきばらいしてから、チャールズにウインクする。


「ロッシ卿が先に死んだら、ロッシ卿のために巨大な銅像を建てます。

功績と高潔な人格を称揚した文言を、銅板として足元に貼り付けますよ。

加えて子々孫々語り継げるように教育内容にも盛り込みましょう」


 珍しくチャールズが取り乱した。


「ちょ、ちょっと待った! それは不公平ってもんじゃありませんか?」


 知らんがな。

 俺はここぞとばかりにふんぞり返る。


「領主は偉いから良いのです」


「私は一代限りですぞ。

ご主君は何代続けるのですか?」


「いえいえ、立派な教育ですので」


「これは1本とられたなロッシ卿。

坊主を甘く見ると足をすくわれるぞ。

だてに1万6000歳とか呼ばれていない」


 桁増やしてやがる。

 畜生、やられっぱなしは俺の趣旨に反する。

 俺は偉いのだ。

 権限をフル活用して復讐してやる。


「先生の銅像も造ります」


 先生が俺に非難の目を向ける。


「おいまて」


「純潔の博士ってプレートを張っておきます」


「純潔って何だよ!」


「女性の処女は純潔って言われますし、意味は分かりますよね」


 先生以外は大爆笑してしまう。


「むちゃくちゃじゃねぇか!」


 結局なんの会議か分からなくなって、解散になったのは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る