第28話 キャッチ アンド ドリンク

 翌日、マントノン家を辞した後、展示会に向かう


 多くの人が感動したり、興奮したりしているが俺は激しく無感動。

 オーバーテクノロジーにもはや興味を持たなくなった。

 使いまわしと分かってしまった以上、使徒没後の没落パターンも気にならなくなっていた。


 一応、先生に確認したら


 「以下省略」と言いやがった。


 つまり同じと。


                  ◆◇◆◇◆


 そのまま次の目的に向かう馬車の中、ミルヴァが俺の隣に座って不思議そうな顔をしていた。


「使徒の巡礼って皆が感動するって聞いたんだけど、アルってすごく冷静なのね」


「いやぁ感動していましたよ。

感動しすぎて無感動に見えただけです」


 喪女シルヴァーナが白い目で俺を見た。


「アルって平気な顔で噓を言うからね。

気を付けなよ」


 黙れ、喪女シルヴァーナ

 ミルヴァが首をかしげた。


「では、何のために巡礼を?」


 俺は芝居がかった態度で肩をすくめた。


「実は私もすべては分かりません。

分かっていることは……困った大人たちのお守りをすることによって、私の徳を高める旅だということだけです」


 口をOの字にしてミルヴァが絶句して……2体のヒドラを見る。

 2人とも目をそらしやがった。

 自覚は有るのだな。


 喪女シルヴァーナがミルヴァに突然近寄った。

「あ、そうだミル。

旅の格好ってそれだけ?」


 服装はエルフテンプレの緑を基調とした服である。

 ミルヴァはちょっと恥ずかしそうにうつむいた


「ええ。

そんなたくさん服を持っていかないし、ヴァーナはすごいわね。

そんなにたくさん奇麗なの持ってて」


 既に女同士ですっかり仲良くなって、愛称で呼び合うようになっていた。

 願わくば……喪女シルヴァーナの性格が伝染しないことを祈る。

 わりと切実だ。

 突然、喪女シルヴァーナがドヤ顔になった。


「そこのアルがね、アタシの魅力を引き出したい。

そう言って服を買ってくれたのよ」


 歴史をクリエイトするな。


「恋人同士なの?」


 俺は思わず無表情になる。


「人を絶望の淵にたたき落とすのは止めてください」


「ちょ! それは失礼でしょ。

アタシは使徒さま最優先だから、アルとは恋人でも愛人でもないわよー」


「そんな関係で服をプレゼント?」


 うん、普通そう思うよな。

 常識人に感動するあたり、俺も感覚がマヒしている。

 喪女シルヴァーナが何か思いついた顔になった。


「そうだアル! 次の町でミルの服も買ってあげなよ」


 俺はATMかよ。

 唐突な提案にミルヴァが驚いた。


「えっ、いきなりそんなプレゼントなんて……」


 うん、その反応は当然だよ。

 喪女シルヴァーナが笑いながら手を振った。


「ああ、大丈夫大丈夫。

お金持ちだから全然余裕だし、大したことはないわよー」


 なんでおまえが言う。

 少々あきれたが、情報を得る観点では多少役に立っている。

 大目に見よう。

 というか面倒くさい。


 きっと俺が第三者の立場なら、「なんで買うんだよ!」と腹を立てていたろう。

 不思議なんだよな、当人になると腹が立たない。

 面倒くささが先に立つ。

 だが第三者だと腹が立つ。


 気がつくと持っている服をミルヴァに見せて「この色とか似合わない?」とか始めやがった。

 俺の頭の中を亡くなった国民的歌手の声で「川の流れのようにー」と歌が流れ出した。

 流されるしかないのか……。


 まてよ……ここはこの流れを利用するか。

 俺としても情報をどうやって聞き出すかを考えあぐねていた。

 非常にデリケートな話だからな。


「分かりました。

次の町でそうしましょう」


 ミルヴァが首を横に振った。


「いや、でも悪いわ……」


 常識的に遠慮されるのを見ると、喪女シルヴァーナに買ってやるよりはるかに建設的な気がしてきた。

 常識的なエルフの美女。

 このすさんだ巡礼の中で唯一といっても過言では無い。

 心のオアシスである。

 助けて良かったよ。

 不思議と守ってやりたい気がする。


「良いですよ。

シルヴァーナさんに買ってミルヴァさんに買わないとなると、私の審美眼が疑われますので」


「はぁ? ちょっととんでもなく失礼ね!」


 俺は黙って酒瓶をトスする。

 喪女シルヴァーナ黙ってキャッチ アンド ドリンク。


 申し訳なさそうなミルヴァ。


「お世話になってばかりで……その……御免なさい」


 俺は苦笑して、気にするなといった感じで手を振った。

 それに、これから聞き出す情報料代わりでもあるのさ。

 普通にしていたら聞けない、高額な情報のね。

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