第2章 使徒巡礼

第9話 使徒騎士団

 いよいよ、出発の日になる。


 巡礼は俺と先生の2人、そして荷物は最低限。

 最低限で済むカラクリはちゃんと有って、それで巡礼の利便性を上げている。

 見送りに出てきた家族と使用人一同に向かって、俺は真面目腐って挨拶する。


「では、いって参ります」


 父は重々しい態度を崩さなかった。


「先生、アルフレードをよろしくお願いします」


 さすがテンプレ。


 困った子を頼むような感じの母も先生におじぎした。


「興味が有るものを見つけたら、フラフラ寄り道してどこかに行きかねません。

先生よろしくお願いします」


 安定した信頼のなさ。

 そして楽しそうなアミルカレ兄さん。


「巡礼から戻ったら、おまえも俺たちの仲間だ。

政務地獄の仲間が増えるぞ。

地獄へようこそ!」


 仲間を増やす地縛霊か?

 地獄の仲間が増えても良いことはないから。


 バルダッサーレ兄さんはハイな感じだ。


「仲間が増えるよ! やったね兄さん!」


 頼むから「やったね! タエちゃんネタは」は止めてくれ。

 シャレになってない。

 いやマジで。


 キアラが走り寄ってきて耳元で囁く。


「ちゃんと戻ってこないと、昨日の夜一緒に寝て純潔を奪われたって言い触らしますよ」


 ブホッ!


 おもいっきり噴出した。

 事実無根じゃねぇか。

 しかも兄貴を社会的に抹殺する気か! 目がマジだった…。


「頼むから、自爆テロは止めなさい……」


 天使のような笑顔で念押しされた。


「ではちゃんと帰ってきてくださいね」


 俺、戻ってこないと疑われているのか……?


 呆れたような先生の声がする。


「おい、なにを怪しい話をしているんだ。

さ、行くぞ。

使徒騎士団のお迎えが来ているぞ」


 皆に手を振りながら、騎士団の手配してくれた馬車に乗り込む。

 テンプル騎士団に近い組織のようだ。

 ふだんは決まった待合所で巡礼馬車に乗り込むのだが、さすがに大貴族の巡礼はお迎えがくる。

 この使徒騎士団が、巡礼馬車の警護を担当している。


 この使徒騎士団、世界では唯一の銀行業、宅配業(あくまで騎士団の支部までだが)までも請け負っている。

 荷物が最低限でいいのはこれが理由。

 各宿場町で金を下せるので不必要なものを持たなくてもいい、そのおかげで狙われる危険も減る。

 騎士団運営の宿屋や店舗なら預金から引き出しなので現金をその場で払わなくてもいい。


 支部は砦規模の大きさで、石造りで最高レベルのセキュリティーで守られており、騎士団の金庫は最高の保存先とまでいわれている。


 さらに、各地の貴族や国王から拠点ルート上の土地を寄進されてる。

 通常の移動は通行税やら橋税をいろいろ徴集される。

 巡礼ルートでは通行税は取られないので、小規模の行商人も通行料を払って使用している。

 通行料といっても1回払えば往復まで払わなくても良いから、普通の通行税よりはるかに安く済む。


 護衛自体はつかないが、巡礼路は定期的に巡回が有るので普通の道を通るより安全となっている。


 大商人は騎士団の宅配で大量の商品を輸送する。


 昔、巡礼道を自分で保持して通行税で儲けようとした貴族がいた。

 だがその貴族は降臨した使徒にお仕置きされて 寄進したそうだ。

 以降、競って寄進されたルートはすべてつながっている。

 結果的に、巡礼街道は経済の大動脈となっている。

 騎士団長は下手な国王より力が有るが、騎士の誓いに縛られていて好き勝手に行動はできない。

 使徒がいるときは使徒の命令、不在のときは法王(教会のトップ)の指示のみを受ける。


 巡礼は巡礼札を元にしたシステムが構築されている。


 巡礼では巡礼札を騎士団から購入する。

 魔力の流れは人によって異なっており、同じ流れは存在しない。

 DNAみたいなものだ。

 ここでは魔波と呼ばれているが。


 それを札に反映させる。

 そうすると模様が札に現れる。

 元札の模様も月ごとに変更しているので、元札の模様に魔波の絵柄が組み合わさって単一性を確保する。


 これが何を意味するのか。

 宿場町につくたびに騎士団の支部で札の登録を行うように指示される。

 今どこにいるかどこまで行っているかが記録され、行方不明者は騎士団に行方不明者として捜索される。

 結果、安全対策にもなっており、巡礼の安心度も保障される。


 札を誰かが盗んでも、支部で確認したときにその人の魔波と合わなければ盗難と判断される。


 使徒が降臨したときは接点が多くなるので利益、名誉を求めて優秀な人材が集まる。(使徒との結婚狙いで女性騎士もいる)

 使徒騎士団1人は普通の騎士の2人に匹敵する、と噂されるほどの精鋭。


 銀行手数料、宿場町からの収益、国や貴族への融資、資産運用も請け負っており、世界で1番金を持っている組織である。

 どう見ても、この世界で1番近代的な組織だ。


 他の組織は原始的すぎて差が有りすぎる。


 巡礼ルートを外れた事件には、冒険者ギルトとの連携で対処している。

 住み分けといえば聞こえは良いが、圧倒的に使徒騎士団の力が強い。


 冒険者ギルドは騎士団の下部組織、といわれたりもする。

 人材も騎士団の試験を受けることができない者か、落ちたものが冒険者になるといった感じで冒険者は格が落ちる。


 ただ使徒は何故か冒険者になりたがるので、女性が玉の輿を狙って冒険者になるケースも多い。

 さらに女騎士は選ばれても1人だから競争率が高い。

 使徒は不思議と複数の女騎士を恋人にはしないらしい。

 冒険者は何故か枠の制限がないそうだ。

 そのため、優秀な女性は冒険者を選ぶケースが多いと聞いた。

 そのおかげで人材の質は最低限担保されている。


 嫌な理由で社会構成が維持されている……。


 騎士団について思い出しながら確認していると集合駅についたので、大きな馬車に乗り換えることにする。


 個別に巡礼しても良かったが、あえて集団を選んだ。

 その方が警備も分散しなくて済むし、他の巡礼者から世界の情報を別の視点で得られるからだ。


 そして俺は絶句した。


 乗り込んだ馬車にいた先客は……痴女だった…。


 世界は広い……。

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