第33話 エルフの苦悩
「フィネア。 レントの話をどう思った」
ルーティオン村の外周。
そこに作り上げられたエルフ達の家の中でも、一層立派な家屋の一室で数人のエルフ達は向き合っていた。
「なんていうか、不思議でした」
「そうか」
「ジーン。 おまえはどう思った?」
「えっと、俺はただただ凄いと思いました」
なんとも的を射ないような二人の言葉だったが、それを周りのエルフ達が責めることはない。
皆が同じような認識をしていたのだから。
「族長。 勇者というのは亜人も人間も魔族も関係なく救う。それが私たちの教えだったはずです」
「そうだな、カイバル」
「では、なぜ人間に伝わる勇者像は違うのですか!」
カイバル。
そう呼ばれたエルフは、見た目こそ人間でいう中年のような年を重ねたように見えるがその実、百年はゆうに通り越している経験を積んできているエルフだ。
それこそ、街に冒険者をしに出ていてレントを目撃した一人でもある。
だからこそ人の文化と自分たちの文化を知るからこそ疑念は絶えないのだ。
亜人たちを長い長い人からの差別から救ってくれる勇者の伝説と、今の勇者の現状の違いに。
「カイバル。 おまえの言いたいこともわかるが族長の言うことをしっかりと聞け」
「ガディン! 貴様は悔しくはないのか!!」
「そりゃ、悔しいには決まってるだろう!」
「なら!」
「カイバル! いいか」
「す、すいません」
今まさに会話が大きく盛り上がろうとしたところで、セレーナが声を掛ければ流石にその形は潜め、冷静さを取り戻したカイバルは謝罪を入れた。
ただ誰もが強くはカイバルの様には言わないだけで、実際問題ではみんなが思ってはいるのだ。
「大昔、人族との和解に伴い魔族の知識を合わせて選定の水晶はできたと聞いている。 ただいまはどうも勝手が違うらしいな」
「ええ」
「フィネア、レイカは何と言っていた?」
「えっと、異世界? 二ホンから来たって言ってました」
そんなフィネアの言葉にエルフ達は大きく沸き立った。
それは別に感動などではなく、純然たる恐怖だ。
「あの王は遂にそんなことをしたのか!?」
「異世界などあるのか!?」
「いや、でもレント殿がクビになるであれば」
セレーナやジーンは一緒にレントの家で話を聞いていたので驚きは薄い。
ただ、聞いていなかったものからすればありえないような話だ。
それこそ、信頼はしていても三人も信じ切れていない節だってある。
それでも信じることが一番理解につながるのだ。
「レイカが言うには、ほかにも呼び出されたものたちはいて、今は魔王討伐に向かっているらしい」
「なんと」
「本当にあの国は何をやるつもりなんだ」
皆が不安を思う中、セレーナはただたださっきまで身の上を語ってくれていた少年のことを思い出した。
レント・ヴァンアスタ
間違いなくただものではない。
それこそ、自分たちの追い求めている勇者像を持ったいるであろうその少年。
「レントがクビになってくれてよかった」
もちろん本人の前でも、リリスやシエテの前でも言えない言葉だがこの場ではセレーナの口から自然と漏れ出した。
その言葉にエルフ達も静かにうなづいた。
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