僕とお父さん

麻木香豆

第1話

 僕は今年の夏から剣道を初めた。周りは僕よりも大きい学年のお兄さんお姉さん。チビの一年生は僕だけだ。

 練習中に師範に呼ばれて別室で待っていた。僕は緊張している。なぜなら……。


「こんにちは」

「こんにちは……君がミモリくん……」

「はい、菅原ミモリです」

 男の人が僕の前に現れた。写真で見た時よりも少し目つきが怖い。

「声が小さい」

「はい」

「腹から出せ。チビだから声で威嚇しないとな」

 チビって言われるの嫌だ。


「それはさておき、君のお母さんから話は聞いているよ。君に剣道を教えて欲しいって」

「はい……」

「僕も普段高校の先生をしていて、夕方は剣道部で教えている。正直忙しい。でも君が本気なら週に一回、稽古してやってもよいが」

「お願いします」

「本当に声が小さいな。まぁいい、でもなんで僕に教えて欲しいんだ?」

「……上手だって聞いたから」

「そうなの。でも僕は剣道歴15年くらいだ。剣道を始めたきっかけは? 」

「漫画見てかっこいいなって」

「ああ、うちの部員もそういう奴いたな……まぁ体力つけたり姿勢良くする分には悪くないだろ。でも少し隠れて稽古見ていたけどまだまだだな。声も小さいし」

「はい……」

「じゃあ今から稽古をつけようか。普段高校生相手にしてるから、覚悟して」

「はい」

「小さい」

「はいっ‼︎」

 実はこの男の人、僕のお父さんなんだ。



「お父さんと会ってどうだった?」

「写真で見るより怖かった」

 ママはそれを聞いてフーン、と答えた。じゃあなんで聞いたの?


 ママが隠し持っていた男の人の写真、優しそうな小柄な人。この人は誰? と聞いたら僕のお父さんと答えてくれた。

 顔がそっくりだから隠せないわね、と。ママよりも若くて高校の先生、剣道部顧問。なんで僕たちと一緒の家にいないんだろう。ママ、一人で一生懸命働いて僕を育ててくれているのに。

「あなたが生まれる前にパパとママは喧嘩して別れたの。もう合わないね、って。別れた後にあなたがお腹にいるのわかったんだ……私は、産みたいって思ってあなたを産んだの」

「お父さんは……知ってるの?」

「うん。でもまた今後一緒になっても喧嘩するし、一緒にいない、ということを私たちは選択して、私一人で産むことにしたの」

 そうなんだ……。

「あなたが剣道やりたいって言い出した時はびっくりしたわ。あなたのお父さんは剣道やってるから。何か運命かしら、と思ったわ」

 漫画の影響で始めた剣道。小さいのにやらせてくれたのもお父さんがやってたからなんだろうか。


 するとママはかかってきた電話にウキウキしながら出た。……新しいパパになる人との電話。

 ママはもう一回結婚するんだ。新しいパパについて行って東京に引っ越すって。 


 僕は嫌だ。だって新しいパパは、ヘラヘラしてて好きじゃない。ママが働いている塾の社長さんでママよりも少し若い。

 会うたびにいろいろとおもちゃをくれるけどいらないものばかり。僕は剣が欲しいのになぁ。ロボットはいらない。


 それにその新しいパパと暮らすことになったら、春から東京に行かなきゃいけないなんて嫌だ。友達や道場の先生、道場のみんなと会えなくなるんだもん。


 なんで本当のお父さんに会いたかったかって言うと、新しいパパよりも写真で見た感じ優しそうな感じがしたんだ。

 でも実際にあったらすごく厳しくて、あの写真で見た笑顔の人ではなかった。僕の本当のお父さんって言うけど本当にそうなの?


 僕は目を覚ましたら朝だった。ソファーうとうとして寝ちゃって、ママと同じ布団の中にいた。きっとママが運んでくれたんだろうな。


 本当だったら横にはお父さんがいるんだよね?普通のおうちには。ママの反対側には誰もいない。

「ミモリ? おはよう」

「ママ、おはよう」

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