17話♡:プレゼント。

「うーん……」


 エキドナを見て気絶したモジャ男が、再び意識を取り戻し始めた。

 けれども、


「えっと――へっ、蛇ィィィ! ブクブクブクブク」


 きょろきょろと辺りを見て、エキドナを視界に入れる度に、こんな風にまた泡を吹いて気絶である。

 僕は、モジャ男が十回ほどそれを繰り返した所で、このままでは永遠に同じ事の繰り返しになるのでは、という懸念を抱いた。


 ……一旦エキドナをしまう他に無いかも。


 僕はため息を吐きつつ、エキドナを異空間にしまった。


「――う、うぅ……。蛇……おえっ。居ない……?」

「エキドナちゃんは今は居ないよ」

「……そっか。良かった」


 トラウマになってしまったのは分かるけれど、こんな調子で大丈夫なのだろうか?

 ここは魔物が出て来る異世界なのである。

 いずれ、蛇型の魔物とかも出て来る気がするけれど、その時に、トラウマだからと言って、また気絶なんて事になったら……。

 

 ……殺されてしまうのでは?


 なんと言うか、早めの克服を薦めてあげたい所である。

 だけど、それは本人次第でもあるから、僕がとやかく言える事でもない。


「……取り合えず、容体が落ち着いたなら、班に戻ったら良いよ」


 と、僕が肩を竦めると、モジャ男はわたわたとしながら、


「あっ、いや、ちょっと待って。実はお礼に言いに来てただけじゃなくて、えっと、その、お礼も渡そうと思って。……これなんだけど」


 そう言って、革で出来たポーチを差し出して来た。


「その、こっちも探索班だったんだ。C班で、小桜君よりも先に帰って来て、それであんな事になって……」


 へぇ……そうだったんだ。

 他の班の事まで気にする余裕が無かったから、モジャ男が待機班か探索班かどうかという事は、僕も分かっていなかった。


「途中で宝箱見つけて、これが入ってて。受け取って貰えたら嬉しいんだけど」


 ともかく、探索した時に見つけた物を、お礼にくれるってことらしい。

 僕は一瞬迷ったものの、結局はこのポーチを受け取った。

 受け取らないと、それはそれでモジャ男もずっと引け目を感じてしまうだろうし、それに、魔石を入れるのにも使えそうだから、あって困るものでもない。


「……ありがと」


 これ、何か効果とか付いてるのかな?

 どうやって調べようかな。

 そういえば、施設で鑑定とかやってたっけ……?

 後で行ってみよう。


「受け取って貰えて良かったよ」

「変な見返りを求めて来たりしないのであれば、ありがたく受け取るよ僕は」

「ずぶといね……」


 ん? 馬鹿にしてるのかな?

 いやいや、駄目だ駄目だ。

 こんな事くらいで怒ってしまってはいけない……。


 ……うーん。

 なんというか、この世界に来てから、僕の怒りの沸点が低くなりつつある気がする。

 元々の僕はこんなに怒りやすくは無かったんだけど……やっぱり、体が女になったせいかな?

 自分自身でも気づかないうちに、精神的な負担が大きくなっているのだろうか。


 と、そんな事を考えつつも、むすっと唇を結んで僕が再び体育座りになると、モジャ男がクラスメイト達に連れ去られ、脇腹を突かれ始めた。


「やめてっ、やめて」

「高田、てめー渡すだけって言ったろ。何お喋りしようとしてんだよ」

「俺が最初にあげるつもりをしていたのに、感謝とかいう言い訳で抜け駆けなんて……」


 クラスメイト達はこんな風に平常運転だ。

 見たくもない顔の茶メンもいつの間にか混じってる。


「もう駄目だ。俺も渡さないと」


 うん? な、なに?

 茶メンが、何かを握り締めて、こっちに向かって来るのですが。

 何がを握っているんだろうか?

 よく見ると、それは短剣であった。


 危なっ。怖っ。


 僕がぎょっとして身構えると、茶メンはおもむろに跪き、その短剣を差し出して来た。


 ……あの……何のつもり……でしょうか?


「決めていたんだ。お宝が出たら勇気にあげよう、と」


 そ、そう言えばそんな事を呟いていたような、いなかったような……。

 というか、茶メンも探索班だったのか。

 ってそんな事はどうでも良くて、ともかく、これは貰いたくない。

 理由は、茶メンの目の奥底に、邪な気配を明らかに感じてならないからである。

 拒否しないと駄目な予感がします。


「それは良いよ。自分で見つけたものでしょ?」

「高田のは貰えて、俺のは貰えないって事なのか……」

「いやそうじゃなくて、モジャ男は僕に助けて貰ったからそのお礼なワケであって、茶メンのとは違う」

「……この世界に来てから、俺だって勇気に実は助けられている」

「へ?」

「勇気は、自分がどれだけ凄い美少女になっているか自覚ある? 俺の目の保養になっているんだよ。動いてる脚を見る度にすりすりしたくなって、その胸が揺れる度に飛び込みたいなとかも思うし、そうやって俺が一匹の男なんだって常に教えてくれているんだ。そのお礼じゃ駄目……?」


 凄い爽やかな口調で、凄い淀んでる内容。

 僕が怒りやすくなってるのは、多分、こういうのも原因の一つかも知れない。

 取りあえず、のーせんきゅー、と短剣を押し返す。


「なんでぇえええ! おかしいじゃぁああないかあああ!」


 は、発狂した……。


 びくっとして、僕は頭を抱えて縮こまる。

 すると、他のクラスメイトがすぐさまにやってきて、茶メンを取り押さえる。


「勇気をビビらせてるんじゃねぇよ!」

「いい加減にしねぇと、お前の喉にスライム突っ込むぞ!!」

「なんでぇええ! 俺はただ――」

「――顔は良いのに、なんでこういう性格になるかねぇ」


 茶メンは、そのまま、どこかに連れ去られて行った。

 出来れば、戻って来て欲しく無いけれど、多分そのうちまた戻って来るんだろうなぁ……。

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