4話♡:アイドルはつらたん。

 横道も分かれ道も、そのどれもが、僕らが進んできた一本道よりも狭く入り組んでいる。

 これまでのように、全員で纏まって進む、という事は出来そうに無い。

 クラスメイト達も、僕へ向けていた視線を眼前へと移し変え、真剣味を帯びた表情を作り話し合いをし始めて……

 ……いたのだけれど、しかし、この話し合いはマトモに進行しなかった。


 ――こっちの道が正解じゃねぇか?

 ――お前って運が無い系タイプだから、多分その逆が正解だな。

 ――死ねカス。

 ――ちょっと待ってくれ。勝手に決めようとしないでくれたまえ。俺の考えも聞いてくれないか? ……この道は、全部不正解の可能性がある。どこかで、正規の道があるのを、見落としていた可能性は考えられないか?

 ――可能性可能性うるせー。

 ――なんでもかんでも否定乙!


 誰かが提案をすれば、別の誰かが否定か罵倒をする。

 こんな事をするものだから、当然に意見が統一される事もなく、気がつけば全体的に苛立っている雰囲気が蔓延し始めた。


 なお、多数決でも取れば良いのでは? なんて事を言ってはいけない。

 僕のクラスメイト達は、もう既に察している人も多いと思うけれど、かなーり癖や個性が強いのばかりなのである。

 共通の結果を求める場合を除いて(例えば僕を襲うとか)、纏まるワケが無い集団だ。

 クラスメイト達も、その点については深く理解していて、だからこそ、誰もそのことを指摘せずの状態である。

 今更言うまでもない、という事なのだ。


 では、この話し合いは、このまま纏まらないのだろうか?

 いや、そんな事は無い。

 纏める方法はあるにはあるのだ。


 少し離れた所で欠伸をしているゴリが、命令を発せば良い。


 異世界に来る前から、なんのかんの言って、皆、教師のゴリの言う事には渋々でも従う傾向にあった。

 その理由は、もともと面倒見が良いゴリに、お世話になったクラスメイトが多いから、だと思う。

 こんなアクが強い連中が、ゴリの世話になっていないワケが無いのです。


 ……なんだけれど、ゴリにはその気が無いようで。


「年上だ教師だってだけで頭ごなしに抑え付けられても、不満や文句が溜まる一方だろう。基本はお前らが決めれば良い。……本格的に危険な状況になった場合には、口を挟む事もあるだろうが、それ以外ではあまり口を出すつもりはない」


 等とご立派な事を、先ほど、仰いまして。


 素晴らしい心意気だと言うのは分かるんだけれど、でも、今はそういうのは必要無いんじゃないかなと思う。

 俺が決めるから黙って従え、とか言って、強制的にでも纏めた方が良い気はするんだけどもね。



 と、まぁ、簡単には執着地点を見つけられそうには無かったこの話し合いだけれども、しかしながら、終わりは唐突に訪れた。

 自分が参加してもややこしい事になりそうだと思っていた僕が、上手い具合に隅っこを確保して体育座りを決め込んでいた時である。

 痺れを切らしたクラスメイトの、ある一言が響き渡ったのだ。


「あー駄目だ駄目だ。こんなんじゃ全然話決まらない! よし! ここは勇気に決めて貰おうぜ。それならお前ら反対しねーだろ!」


 まさかの僕に丸投げという……。

 えぇ……。


「まあ勇気が決めるなら」

「そうだな。小桜の意見なら……反対はしねーよ」


 クラスメイト達の視線が一斉に僕に集まる。


 やめて……。

 こんな後で責任問題になりそうな判断を僕に投げないで……。

 と言うか、僕が決めたら、反対しないってどういう事なの……。


 まさか振られるなんて思っていなかったので、僕は、動揺しながらのけぞる。


 どうしたら良いんだろう。

 そもそも、注目されたくなかったから、そこっと隅っこで座っていたのに、これじゃ本末転倒だよ。


 なんで僕がこんな目に――と思った僕だけれど、しかし、それと同時にある閃きが脳裏を走った。

 これはもしかすると、上手いこと話を誘導出来たら、僕の目標を一つ進めるのに役立つのではないのだろうか、と。


 僕の目標の一つは、レベル上げだ。

 レベルを上げて、強くなって、そうしてクラスメイト達から離れるという目標がある。


 どの道を進むかの決断を、僕自身のレベル上げに利用出来るかも知れない。

 これは、チャンスだ。


「……そこまで言うなら、分かったよ。でも今回だけだから」


 上手く行けば、かなり僕にとって利益になる。

 なら、やった方が良い。

 僕は、笑いそうになるのを抑えつつ、わざと溜め息を吐いて「しょうがないなぁ」と続けた。

 喜々として引き受けたら、さすがに、怪訝に思うクラスメイトも出て来るだろうから、体裁としては『仕方なく』で行くべきであるからだ。

 印象付けの為に、駄目押しの二度目の溜め息を吐きながら、僕は、自身に都合が良いように話を誘導していく。


「えっと、じゃあ早速だけどまず……班分けをしようよ。探索班と待機班の二通りを作ろう。一斉に全部の班で探索しないのは、何かしら悪い事があって戻ってきた時、誰か居ないと困るからかな。わざわざ別の班探しに行かないといけなくなるのは、大変だし」


 それっぽい事を言ったけれど、このやり方を選んだのは、単純に僕自身と魔物が戦う機会を増やす為だ。

 列の中央に置かされた今までと同じでは、戦闘から引きはがされるであろうことは、明白である。だから、それをまずどうにかしないといけない。

 班分けをして、クラスメイト達を小分けにすれば、その点を解消出来る。

 大量のクラスメイトに囲まれていない状態なら、必ず、僕にも戦う機会がやってくるのだ。


 と言う事ですので、班はなるべく多く作って、どんどん細分化しよう。

 疑われないように回りくどく、かつ説得力が出るようにね。


「……で、班の数なんだけど、おおざっぱに二つ三つって言うのは無しね。これだと、結局人数が多いままになるから、それだと今までと何も変わらないし。……まぁでも、かと言って、新しく考えるのも面倒なのは事実。……そこでなんだけど、元々のクラスの班分けをそのまま使おうかなって思ってるんだ。五人一組の班で、八つに分けてたじゃん? これなら新しく決める労力が掛からないし、何より偶数だから探索班と待機班を四つずつ分けられてキリも良いしね」


「なるほど、確かにそれならまぁ。……ただ、それには大きな問題が一つあるぞ」


 え……? 問題……?


「――勇気のいる班だけズルいって事だよ! 新しく決め直しで良いじゃねーか!」

「そうだそうだ――眼福に預かれるのそいつらだけじゃねーか!」

「確かにズルいわ。……勇気は各班でまわすで良いんじゃねーか?」

「君たちは全く何も分かっていないね。勇気は、男倉橋の班に来るべきだよ」


 うわぁ……。

 すごい面倒くさいこと言い出して来た……。

 と言うか、ナチュラルに、僕の言う事には反対しないって言葉を反故にしたね。

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