2話♡:はじめてのたたかい。

 いきなりだけど、残念な事が起きてしまった。

 それは何かと言うと――

 ――胸を強調する格好になったせいで、変な視線が、余計に増えてしまったのである。


 時間の経過と共に、わざわざ振り向いて最後尾の僕の方を見て来るクラスメイトが微増して行く様に、どんどん僕の気分が悪くなっております。

 先ほど一度睨んだお陰か、変な言葉を投げかけて来たりと言った行動は、クラスメイトも控えているようなので、後は無視すれば良いだけではあるんだけども……。

 でも、こうしたジトっとした視線が増えると、思っていた以上に心理的な負担がキツいなぁ。

 

 そう言えば、昔テレビで、胸が大きめだったり顔がそれなりに良かったりと、なにかと異性に注目されがちな女性が「男性の視線が気になるんです。知らない人にジロジロ見れると、嫌な気持ちになるので、見ないで欲しいです……」と言っているのを見た事がある。


 その時は僕も男だったから、どうしてそう思うのかが分からなくて、「ふーん」って右から左に聞き流していたけれど――この体になり、状況的に否が応でも男の視線を向けられる事になった今なら、その女性の気持ちが痛いほど良く分かる。


 世界は広いから、あるいは見られて喜ぶ人も一部には存在しているかも知れないけれど、少なくとも僕はそういう風に考える事は出来ない。


 取り合えず、もう一度、クラスメイト達をひと睨みする事にした。

 すると、さすがにヤバイと思ったのか、そこでクラスメイト達はようやくチラ見をするのを止めた。


□■□■


 変な視線が無くなり、安心しつつもしばらく進んで行くと、前の方が何やら騒がしくなった。

 そのせいで、行進がストップ。

 何か起きたようだけど……。

 僕は、先頭の状況を確認するべく、つま先立ちになって前方を確認する。

 しかし、女になった事で背が縮んでしまっているので、クラスメイト達の背中が邪魔になってよく見えないと言う。

 でも、


「おい、スライムだってよ」

「小林が殴ってる。あっ、倒した」


 そんな会話が聞こえて来て、状況がなんとなく分かった。

 行進が止まった原因は、スライムの魔物が出て来たからのようだ。

 で、それを小林が殴り倒した、と。


 ……んーと、クラスメイトの小林って、チャラ男の小林とDQNの小林の二人がいるんだけれど、どっちだろう?

 どっちも先頭に居そうな性格だった気がする。

 いわゆる陽キャって言うかさ。


 腕を組んで、「うむむ」と僕が唸っていると、金髪の男が飛び跳ねたのが見えた。

 あれはチャラ男の小林である。

 どうやら、チャラ男小林がスライムを倒したようだけど……でも、スキルやらを使った様子が無いんだけれど、どうやって倒したんだろう。

 素手で倒したのかな?

 まぁ、それも出来なくはないのか。

 ゲーム的な感覚で言うのなら、スライムは、序盤に出て来るそんなに強くない魔物だし。


 ただ、仮に弱いのだとしても、油断は禁物だろうね。

 特に僕はそうだ。

 恵まれたステータスのクラスメイト達は、フィジカルでなんとか出来るのかも知れないけれど、僕はそうじゃない。

 ステータスが雑魚いので、クラスメイト達と自分を同じに考えてはいけないのだ。

 舐めプしたら、足元を掬われてしまう可能性がある。


 と言っても、レベルを上げる必要はあるから、僕もどうにか戦って勝たないと駄目なんだけどさ……。

 まぁ、その辺は、エキドナに頑張って貰えば良いかな?

 僕よりもステータスが低いエキドナだけれど、戦えそうなスキルを持っているので、男に襲われた時の緊急時だけではなくて、通常の戦闘でも頑張って貰いたい。


「頼むよ、エキドナちゃん」

「……」


 エキドナに話しかけると、なぜか反応が無い。

 どうしたんだろうか?

 ちょっと心配になっていると、エキドナは、するすると僕の肩に登ってそれから後方をジッと見つめた。


 後ろに何か居るのかな……?


 なんだか僕も気になって来てしまい、少しの間待って見る事にした。

 すると、ぱよん、ぱよん、と言う跳ねる音と共に、何か緑色のグミみたいな形の何かが後方から現れる。

 いや、何かって言うか多分あれスライムだよね。


「どうしよう……」


 クラスメイトに伝えた方が良いのかな?

 僕は少しの間悩み、けれども、これは秘密裏にレベルを上げるチャンスでもあるよね、と思い至る。

 クラスメイト達は、僕へのチラ見を一旦止めているから、上手く倒せたなら、今ならバレずに経験値を獲得出来るのだ。

 もちろん油断はしない。

 一旦エキドナに戦って貰って様子をみつつ、それでも駄目だった場合には、後ろ姿がだいぶ遠くになりつつあるクラスメイト達の後を、エキドナを連れてすぐに追いかけるつもり。


 ということで、ひとまず、戦ってみる事に。


 っと、そうだ。

 エキドナをけしかける前に、敵の魔物のステータスとか見れないかな?

 もしも敵のステータスが分かれば、戦いが楽になると思うし――と思って試して見たものの、結論から言うと駄目でした。

 自分自身や召喚獣のステータスが見れるから、ワンチャンあるかもと思ったけれど、そう上手くは行かないようです。

 でも、考えても見れば、クラスメイトのステータスも見れない感じではあるのに、敵の魔物のは見えるなんてありえないワケで。

 鑑定眼的なスキルが欲しいね……。


「まぁ、見れないものは仕方ないよね。……よし、頑張ってエキドナちゃん!」


 僕が指令を下すと、エキドナは、するすると僕の体から降りてスライム目掛けて特攻した。

 すると、スライムは目ざとく狙われた事に気づき、途端に縦横無尽に跳ねて攻撃を避け始めた。


 中々にすばしっこい……。これは厳しいかも……?


 と、僕は一瞬焦る。しかし、エキドナは上手くやってくれた。スライムが着地する瞬間を見事に捕らえ、噛み付いて見せた。


 ぐにぐにとスライムは揺れ、エキドナを振りほどこうとして、横の壁に自ら何度も激突する。

 時折エキドナちゃんから悲鳴のような声が漏れるものの、その牙はいまだスライムに刺さっている。


 中々に白熱した戦いとなりつつも、勝負は早くに決した。

 まもなくして、スライムは――くぱぁと力なく倒れて水になり、地面に溶けて行く。

 エキドナの執念がスライムを上回ったのだ!

 完全勝利である!


 激戦の後に残ったのは、緑色の染み跡と変な小さなビーズくらいの石ころだった。


「確かこういう石って、魔石か何かとかで、どこかで売れたりするのがWEB小説の定番だよね……」


 もしかすると、お金になるかも知れないから、念のために持って行こう。

 僕はポケットに石ころを突っ込んでから、「ぎぅぅぅ」と近づいて来るエキドナちゃんの背中を撫でた。

 大きな怪我も無さそうで一安心だし、頑張ってくれて「ありがとう」って気持ちでいっぱいですよ。

 よしよし。


 さて、と。

 戦闘も終わった所で、一旦エキドナちゃんのステータスを見てみよう。

 レベル上がったりしてないかな?


 ――――――――――

 名前:エキドナ 

 性別:メス レベル:0.1 

 次のレベルまで:2/50


 動体視力0.50

 基礎筋力0.35

 身体操作0.88

 持続体力0.50

 魔力操作0.62

 魔力許容0.75

 成長水準0.65


 スキル 暗視0.50 毒牙0.65

 経験値配分 均等

 ――――――――――


 ぐぬぬ……レベルは上がっていないようだ。

 でも、経験値はきちんと入っているようだから、地道に積み重ねていけば、そのうちにレベルも上がりそうだ。

 ただ、だとしても、スライム一匹の経験値が2って言うのは、ちょっと少ないのでは……?

 エキドナが頑張ってくれたのに……。

 経験値配分とやらが均等になっているお陰で、僕自身にも経験値が2ほど来ているようだから、実質は4ではあるけれど……。

 少ない気がするけれど、そこまで強くはない魔物だったから、仕方ない面もあるのかな。


「……はあ」


 僕は、ため息を吐きながら、エキドナを服の中にしまいつつ、早足でクラスメイト達の後を追いかける。

 この頃には、後ろ姿がすっかり見えなくなっていたけれど、この道は一本道のようだから、このまま進めばいずれ合流出来る。


「……うん?」


 と、僕はふと、自分が拾ったものとは違う色の石が地面に落ちている事に気づいた。

 確かここは、チャラ男小林がいた辺りだったと思う。

 どうやら、クラスメイト達は、スライムが落とした石に気づかなかったようだ。

 もしくは価値がないと思ったのか……。

 勿体ないので、回収していこう。



 ……ところで、なんで僕が走らないのかって言うと、激しい運動すると胸が揺れるからです。

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