第18話謀略3



「おぉ...おぉぉぉ... 」


風もないのにスピーダーが激しく揺れている。


「うわぁぁぁ..。お、落ちそう...。」


「ビンス!。ベルト締まってる?。」


...ズ...ズズ...ブゥゥン...ズズ...ズズ...


「だ、大丈夫だ!。てか、何?。こ、この音。」


...ブゥゥン....ブゥゥン...


「わ、分からん!。汗」


...バウゥゥッ....


スピーダーが大きく傾く。


「ううわぁぁぁ。なんだぁ!。」


「ううわっ!。」


...ガッツン...


...ガッ...ガツ...ガツン...


固定ベルトがスピーダーに2人を繋ぎ止める。


「何だ!。汗。何だ!?。」


がれきからの土煙で、周囲が見えない。


「あれヘビじゃないぞ!。ヘビの動きじゃない。あんな動きしない。」


煙の中、毒々しい縞模様が前後左右にグニャグニャと動めいている。


スピーダーの揺れが更に激しくなる。


...ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ...


爆音が轟く。


「うわっ!。」


「み、耳が!。」


重い非常ベルのような音。


ドラム缶を繰り返し地面に擦りつけるような。


...バッシュゥゥーーーーッ...


「やっば。汗。やっばい。」


...ドーーーーーーン...


「うをおおぉ!。エルカーが!。エルカーがぁあ!。」


...ボウウゥーーーーーーン...


....ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


エルカー(飛行車)が火を噴き墜落して行く。


次々と。


「け、計器が...い、い、一回転した。」


「み、見ろよ!。あれ!。汗」


爆音はビルの谷間、土煙の中から聞こえる。


何かが蠢いている。


「何だあれ!。」


大きな何かが。


巨人が?。


ビンセントが後部座席に立ち上がる。


スピーダーは慣性で土煙に近づいている。


「おい!。ビンス!。座れ!。危ない!。ベルト!。ベルト!。」


ゆっくりと。



「目だ。目!。」


視界がクリアになっていく。


近づくに連れて。


「目?。汗」


蝉のような頭部。


大きな黄色い眼が一つ付いている。


爬虫類のような目。


小さな目が集まって出来た大きな目。


複眼だ。


緑色の身体。


体型は人間に似ている。


手が長い。


体長は20メートル。


いや、もっと大きい。


時折爆音を発している。


例のドラム缶を擦りつけるような爆音を。


「こ、こいつ知ってる。ギ...ギ、ギガサニー...。」


「え!?。えぇ!?。ウソだろ?。ウソだろ。ウソ...。汗」


「ほ、ほら...あの触覚...。」


ギガサニーは世界的に特別危険生物に指定されている生き物。


過去にもアトラで捕獲されている。


最近では、マナ級(母体級)のギガサニーが、バグーのケラム防護壁に出現した。


バグーの最終兵曹ゾットは、ギガサニーの熱戦放射で右脚を失った。


ギガサニーの熱線はレーザーでも粒子放射でもない。


熱線は数千度にもなる。


直撃した部分は兵曹ですら組織の再生が完全に止まる。


ゾットは片脚を失い辛うじてマナを撃退した。


他のケラムの生き物と同じく、程よく塩分を含み柔らかい人間は、ギガサニーにとっても好物だ。


人間を捕食すれば進化の速度が早くなることを奴らも良く分かっている。


...クワアッ...


複眼の無数の目が一斉にこちらを向く。


「うわっ!。うわっ!。うわああぁぁぁぁ!。汗」


「うわあああああぁぁぁぁ!汗」


「こ、こっち見たぁ!。」


「やばい!。き、気づかれた!。汗」


「ヒッ...。き、来た...」


「来たぁ!。き、き、来やがった!。」


...ドドドドドドドド...ゴゴゴゴ...ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ...ドーン...パリン...ガシャン...


...ドスンドッスンドッスンドッスンドスンドッスン...


ビルに接触しながら突進して来る。


壁や窓を飛び散らせながら。


「に、逃げるぞ!。ビンス!掴まれ!。」


「あ、あぁ!。」


...ズドゥーーーーーーン...


アフロダイエンジンが炸裂する。


...ギュルギュルギュルギュルギュルギュルギュル...


...ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン....


フルスロットルだ。


「クッ。腕が外れる。」


「え?。汗。こ、固定ベルトしてるよな?。」


スピーダー(飛行バイク)は、弧を描き、ビルの高さまで高度を上げる。


「ダメだ。外した。」


「え!?。汗。絶対手放すな!。」


ギガサニーから遠ざかって行く。


「まだ?...手がもげそう。」


「もう少し。巡航まで頑張れ。」


上空からギガサニーを見下ろす。


背中に甲羅のような大きな甲殻を背負っている。


予想していたより遥かに大きい。


「ふぅっ。汗。ヤバかった。」


「いいぞ!。ビンス!。ベルト!。」


...ガチャッ...


「良し着けた.........。で、でけぇ...。」


ギガサニーは追跡を諦めた。


スピーダーは、ビルが小さくなるまで更に上昇した。


爆発音も小さくなって行く。


...ドルルルルルルルルルルルルルルルルルル...


スピーダーのエンジン音は快適だ。


風が心地良い。


青い空。


飛んでる鳥達を追い抜く。


澄んだ空。


遠くまで見渡せる。


高いビルがいくつも見える。


都市を横切る川も。


「ヤバかったな...。汗」


「あぁ...。汗」


「バンドル持ってる?。」


「無い。今日忘れてきた。」


「一回帰ろう。」


「おお。そうだな。家来いよ。」


「ああ。そうする。」


「何が起こってるのかイザナミに確認しよう....。お、おい!。汗。タクヤ!。おい!。汗」


突然、ビンセントがタクの背中を叩いた。


「わっ!。な、な、何?。何?。汗」


「ヤバイ!。あ、あれ!。あれ見ろタク!。」


「な、何だよ!。」


「あれ!。」


!?


「う、ウソだろ?。ウソ...。」


....グゥオオーーーーーーーーーーゥ...


ギガサニーが咆哮を上げ走って行く。


公園の入り口には大勢のうずくまっている人々が。


「ど、どうしよう?。」


「バカ!。に、逃げるに決まってる!。ギ...ギガサニーだぞ。」


「ほ、ホントに人食うの?。」


「分かんないよ。何だよ...あの化け物...。」


スピーダーは高度を下げながらゆっくりと旋回を始めた。


急降下を始めた。


タクとビンセントの乗ったスピーダーからは、ギガサニーの大きな背中に隠れて、人々は見えない。


...ウゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


スピーダーは公園の入り口付近を旋回していく。


ギガサニーが人の集まってる場所にそっとかがみ込んだ。


「おい。あれ。」


珍しいものを観察しているような柔らかな動き。


爆発も収まり辺りは急に静かになった。


...ウウゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


スピーダーは旋回を続ける。


「あぁ。」


間近に見るギガサニーは想像よりグロテスクで巨大。


でも噂より大人しく人間らしく思える。


「奴にしたら人間が珍し...。」


「...ああっ。ああっ。痛ったい!。痛ってえ!。うわあ!。...」


「何か子供が甘えてるみたいな声出すな。笑。大の大人が。」


「大の大人がな。笑。だだ捏(こ)ねてるみたいだな。笑」


「...ギヤー!。痛ってえ!。痛って!。...」


「え?。汗。あそこにいた人...。意外に若者みたいな言葉使うよな...。」


「何が痛いんだろ...?。」


「...ギヤー!。...」


「ヒッ...。ち、血、血?。何で!?。おい!。タクヤ!。」


「...あっあっぁ!。...」


「ウソだろ....汗。」


「...ぐえ...いひ。...」


「...きゃーきゃーきゃー!。...」


「...おい!。大丈夫か!。...」


「...あいつ...ひ、ひいっ!。く食われてる...。...」


「...ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア。...」


男の声が断末魔になる。


静けさを引き裂いて行く。


「え!?。」


ギガサニーがゆっくりと後ろを振り返る。


!!


「う....そ....だろ?。」


複眼の下のロート状の口は、血で真っ赤だ。


口には引き千切られた男の腕が咥えられている。


男は両腕を食いちぎられ、まだなお生きている。


...ゲーーー...


ビンセントはもどした。


ギガサニーの反対の手にはぐったりした若い女が。


うずくまっている人達はあまりの恐怖に地面を這い、逃げられないでいる。


ギガサニーは痛がる男を無理やり口に放り込み咀嚼した。


...ひぃ...ひぃぃ...いやぁぁ...


...ゴリ...ゴン...ゴン...ゴリィゴリィ...


骨の砕ける鈍い音がする。


男の二本の脚は食われながらまだ動いている。


ギガサニーは人間を弄んで楽しんで食べている。


掴んでいた若い女を首を傾げながら眺めたり臭いを嗅いだりしている。


優しくキスをするような仕草をした後、突然複眼を血走らせロートのような口に入れた。


「...キャーーーー。...」


「な、何だこれ!。汗。地獄だ!。これ。」


ビンセントは放心状態だ。


ギガサニーは、ロートの中の長い舌で女性を転がし楽しんでいる。


「この野郎!。」


タクはスピーダーの向きを変え、ギガサニーに向かって更に降下を始めた。


事態がだんだん飲み込めてきた。


「許さねぇ!。」


「...助けて!。ママ!。わーん!。ママが死んじゃう!。...」


小さな女の子が、ギガサニーの前で泣き叫んでいる。


え?。


聞いたことのある声?。


まさか!?。


二人は耳を疑った。


「...ローラいい子にするから!。お願い!。ごめんなさい。ごめんなさい!。ママって呼ぶから!。ママってよぶからー!。ごめんなさい!。ママを食べないで!。ママを助けて!。ワーーーン!。...」


ローラは地団駄を踏んで叫んでる。


怪物の真ん前で。


「...ローラ...ちゃん...ローラに...逃げて...お願い。逃げて。ローラ。逃げ...。...」


怪物の口の中から女の人の必死な声が聞こえる。


「えっ!?。ローラ...ちゃん。」


ビンセントは、唖然としている。


ギガサニーは女を舌で弄んでいる。


「あの女の人っ!?。」


タクはギガサニーの口を指差した。


白に緑の草の模様のワンピース。黒髪。


粘液でベットリと覆われているけど、確かにさっきの女の人。


髪の焦げるような匂いがする。


ギガサニーの唾液で女の人は溶かされ始めている。


女性を噛み砕かず舌で転がしている。


明らかに楽しんでいる。


「...嫌だよぅ...。ママを食べないで!。お願いだから。お願いだからぁ!。わーーーん。あーーーん。...」


幼い女の子はギガサニーの前でただただ泣いている。


「てめえ!。ブチ殺してやる!。」


ビンセントは、逆上して叫んだ。


「タクっ!。行くぞ!。」


「ビンス!。お前無茶すんなよ!。」


「おま、あれ見て放って置く気?。見殺しにしろって言うの?。おまえ。」


「おま。落ち着けよ。お前は生身なんだぞ?。」


「生身何て関係ねぇ。こちとらバズーカも持ってんだぞ!。行けタクヤ!。行けよ!。」


「分かったよ!。しっかり捕まってろよ!。」


...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...


スピーダーは加速してギガサニー目掛て飛んで行く。


急旋回しギガサニーの正面に回り込んだ。


ギガサニーは全く意識していない。


タクがレバーを引く。


スピーダーの下、両サイドに二門のキャノンを出た。


アパッチ(中型攻撃飛行艇)用のキャノンだ。


...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...


タクはキャノンをギガサニーの複眼に集中して浴びせた。


...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...


...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...


複眼のゼラチン質にキャノンの弾は全て留まり全くダメージを与えられない。


...ゴンゴリィ!ゴリ、ゴリ...


とうとうギガサニーは女性を噛み砕いた。


口の中が血の海になる。


ローラが固まる。


「くっそ!。タクヤ!。伏せろ!。」


ビンセントは、スピーダーのシートを持ち上げ大きな黒い土管を構えた。


ショットバズーカだ。


「喰らえっ!。このクソ野郎!。」


...ッドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


ショットバズーカはギガサニーの顔面で大爆発を起こした。


爆風で吹き飛ばされ、タクとビンセントは辛うじてスピーダーにぶら下がっている。


スピーダーは動力を切らない限り反重力板の揚力で落下することは無い。


...ゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーー...


ギガサニーが咆哮をあげながら、複眼を両手で押さている。


複眼は赤い色に変わり、皮膚は斑点のある緑から茶色に目まぐるしく変わりはじめた。


...ゴゴゴゴーーーーーーー...


怒り狂っている。


...ドーーーーーーーーーーーン......ドーーーーーーーーーーーン......ドーーーーーーーーーーーン......ドーーーーーーーーーーーン...


足元の人間を片っ端から踏み潰しはじめた。


まるで蟻でも踏み潰すように。


意図的に。


セントエレーンの36番ゲートはあっという間に血の海になった。


「あっ!。あっ!。あぁぁ!。汗」


ビンセントが叫ぶ。


ローラが放心状態で動かない。


「逃げてー!。おい!。逃げろ!。ローラ!。逃げてっ!。」


ビンセント叫んだ。


「くっそ!。間に合うか?。」


スピーダーはフルスロットルでローラの元に向かう。


「ローラ!。逃げろー!。」


ビンセントは必死にローラの名を叫ぶ。


...ドン...


ギガサニーの足が振り降ろされた。


ギガサニーの足の横に、小さな白い花が落ちた。


そして、大きな足の下から少しだけ血が浸み出した。


「ふ、ざ、け、ん、なーーーーー!。うおおおおおおおおーーーーー!。」


ビンセントは叫び、ショットバズーカを再び放った。


...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


全て複眼上に炸裂した。


が、全く効果が無い。


ギガサニーはスピーダーを掴もうとしている。


タクがハンドルとスロットルを操作し交わす。


スピーダーはこの葉のように反転し続ける。


...ピーーーーーーィーーーーー...


...ガラガラガラガラ...


ギガサニーが一瞬音を出した。


ドラム缶の擦れるような音。


反重力板からも火が噴き上がる。


スピーダーが墜落する。


...ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...スーーーーーーーーッ...


...ガンッ...ガンッ...ガン...ガーーーーーーーーーーーーーーーーン...


スピーダーが火花を上げながら地面を滑って行く。


2人は公園の血だらけの地面に放り出された。


ギガサニーのこの咆哮はレディエードと言われる。


金属を沸騰させ、電子機器をショートさせる。


獲物を弱らせて食べる時に使用する。


また、この音で遺伝情報を仲間と共有し僅かな時間で進化し環境に適合する。


スピーダーから放り出され二人は立ち上がれずにいる。


身体を地面に激しく打ちつけてしまった。


ギガサニーはゆっくりと寄って来る。


ギガサニーはタクには全く興味をしめさない。


「クソーっ!。」


「この野郎!。」


20mの化け物は、ビンセントの前に来るとそっとしゃがみ込んだ。


顔を傾けると子供を呼ぶような優しい仕草をする。


「さっきもこんな感じでやりやがったんだな!?。このクソ野郎!。」


ビンセントはギガサニーを睨みつけ吐き捨てるように言う。


ギガサニーは優しくそっと手を伸ばす。


ビンセントを掴もうとしている。


...ドッスン...


タクは回し蹴りがギガサニーの手を弾く。


ギガサニーの手にタクのキックがめり込む。


...ブシューーーーーーーーーーー...


ギガサニーの体液のかかった木が白煙を上げ枯れる。


....シューーーーーーーーーーーーーーーー...


タクのブーツも白煙を上げている。


「あちっ!。」


タクは、ブーツを脱ごうとした。


ギガサニーの手は再びビンセントの方へ。


今度は素早い。


タクは両腕でギガサニーの爪を掴みビンセントを庇う。


ブーツの白煙はより激しくなった。


「うわあぁぁ!。」


タクは悶絶している。


「絶対させねぇ!。俺が死んでも!。こいつには...!。指一本!...。」


怪力のタクだが力の差がありすぎる。


...ブウゥワン...


...ドン...


...ザザガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガーーーーーーーーーー...


タクが振り飛ばされる。


舗装された公園の路面を滑って行く。


ギガサニーの手は再びビンセントの元に。


「こ、来いよ!。俺は逃げないぞ!。この虫野郎!。」


ビンセントは、勇ましい言葉と裏腹に震えている。


「ビンス!。逃げろー!。ビンスー!。ビンセント!。」


タクは足を引きずりながら必死に走りビンセントの元に向かう。


ギガサニーはビンセントに手をかけた。


間に合わない。


万事休すだ。


やられる。


ビンセントが。


食われる。


ビンセントが...。


...バリバリバリバリバリバリバリバリバリ...


あぁぁ...。


....バリバリバリバリバリバリバリバリボボボボボボボボゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...


!?


背後からデカイ何かが...。


....ゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーゥゥ...


《...音声変換中...》


《...音声変換中...》


遠くにあるスピーダーが反応している。


スピーダーのデコーダーが。


《...ハクア現代語...》


《...どけ!。...》


「...どけっ?。...人間?。」


...バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ...


巨大な腕が植林の中から現れた。


...ドゴーーーーーーーーーーン...


...バギイイッ...


...メリメリメリメリ...


地面から何か出て来る。


この下には1番大きな避難壕がある。


...ドドーーーーーーーーーーーーーーーーン...


巨大な白い腕がギガサニーの顔面を殴り飛ばす。


ギガサニーは仰け反り倒れた。


ゲートの外まで滑って行く。


...シュゥーーーーーーーーーーーーー...


....ボタッボタッボタッ...


巨大な白い兵曹が立ち上がる。


まるで中世の鉄仮面だ。


横一文字の目は青い強い光を放っている。


ギガサニーよりも遥かに大きい。


ギガサニーの顔面は甲殻が割れている。


複眼の中の透明な殻も砕け体液が噴水のように吹き出している。


兵曹の殴った方の腕もギガサニーの体液を浴び白煙を上げている。


「ビンス!。ビーンス!。ビーーーンス!。逃げろ!。逃げろ!。逃げろーーー!。」


ビンセントはぼうっと突っ立ったままだ。


タクは、やっとビンセントの所に辿り着いた。


ビンセントを抱き締めた。


脚をやられてタクも立っているのがやっとだ。


兵曹とギガサニーは間近。


...グゥオオオオーーーーーーーーーー...


ギガサニーは、起き上がり吼えた。


...ドスンドッスンドッスンドスン...


白い兵曹に向かって突進して来る。


兵曹の肩には文字が書いてある。


「おい。しっかりしろ!。」


ビンスはまだ呆然としている。


...


...


...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...


衝撃が。


兵曹の脚が地面にめり込む。


砕けたアスファルトがタクの脚を直撃する。


「いてっ!。しっかりしろ!。踏み潰される!。」


タクは、ビンセントの頬を叩いた。


「頼むよ、ビンス!。」


タクはビンセント抱き締めギガサニーに背を向けて庇っている。


担ぎ上げようとしている。


タクも傷だらけ。


持ち上がらない。


ビンセントが抱きついてきた。


大粒の涙を流してる。


「どんなに、どんなに悲しかったかなって...。どんなに怖かったかなって。」


ビンセントの肩は大きく揺れている。


「...あんなちっちゃな子が...。」


ビンセントは、子供のようにしゃくりあげ泣いた。


手には白い花が握られていた。


さっきあの子に貰った花だ。


「...俺のせいだ...。俺たちのせいだよ...。」


...ドーーーーーーーーーーーン...


...バラバラバラバラ...


アスファルトが砕け散る。


兵曹とギガサニーは掴み合っている。


「で、でけえ...な、何だこれ。カ...カーン?。」


タクは兵曹を見上げる。


...ズーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


ギガサニーの脚がビンセントの真後ろを踏む。


「ビンス!。ビンセント!。しっかり!。今じゃない。泣くの今じゃない!。ヤバイ!。踏み潰される!。しっかり!。み、見ろあれ!。ビンス!。軍の兵曹だ!。カーンって書いてある!。あの子の仇を取ってくれる!。」


タクは、頭上の兵曹を指差し言った。


ビンセントは頷いた。


ビンセントはしゃくり上げながら動き始めた。


...ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...


...キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


カーンという名の兵曹から破裂音が轟く。


ジェットタービンの回転音のような音は高まり、溶けて白煙を上げていた腕が一気に修復されていく。


...ブゥワゥッ...


カーンは、ギガサニーの身体を投げ飛ばした。


...ズドンドッスン...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...


ギガサニーは街路樹を根こそぎ倒し地面を滑って行く。


公道を越えショッピングモールに激突した。


...ズッドーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ガシャン...パリン...


...パリーーン...ドシャァーーーン...ガシャーーーン...パリン...ドシャァーーン...パリン...ガシャガシャ...パリーーン...


...キャーー...キャアアァァァー...うわぁーーー...キャーーーー...おおぉ...ヒイィ...キャーーー...ギャァァァァァ...うおーーー...うわぁぁ...ギャァァァ...キャーーー


ショッピングモールの壁、ガラスが崩れて行く。


「せ...戦闘力が航空戦艦の269倍...!?。汗」


スピーダーに取り付けられたアパッチ用の戦闘能力測定メーターは上限値を振り切った。


ショッピングモールの裏からも土煙が上がっている。


遠くでドラム缶を擦りつけるような爆音が轟きはじめる。


あちこちで...。

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