第9話 新たな仲間の予感

 俺は転生者だ。

 この世界で生きていくには、それなりにこの世界についての情報が必要である。

 だから俺は魔術の勉強と共にこの世界についても色々と調べた。

 まず、俺が転生したこの世界は大きく分けて三種類の勢力に分かれている。

 それは人間の国、魔族の国、そして亜人族の国の三種類。

 この三つの国が互いに戦争を起こしており、ある時はそれぞれの内戦を抱えていたりする。

 信じられないことに、その三竦みがこの千年間ずっと続いており、それがこの世界の歴史だった。

 それぞれの国の中で国が立ち替わることは何度かあったみたいだが、基本的には人間の国、魔族の国、亜人族の国の三竦みは変わっていない。つまり同じ戦争が千年間ずっと続いているというわけだ。

 しかし――俺はそれを知った時、首を傾げた。

 何故なら、千年間も戦争が絶えないなんていくら何でもおかしくないか? そう思ったから。

 前世の地球では長くても百年戦争とかだった。一応三百三十五年戦争なんてものもあったが、それは確か一発の銃も撃たれていないもっとも犠牲の少ない戦争だったはずだ。

 しかし、この世界の千年戦争は明らかに血を見るガチの戦争だ。それを千年も続けていることに些かの違和感を覚える。

 ――俺が転生者だからそう感じるだけなのか?

 しかし……この世界の者は誰もこのことを疑問に思わないのか?

 それに……だ。

 この世界がやたら魔術だけが進歩していることが気になる。どんな物語でも、ここまであからさまに魔術師至上主義である世界は聞いたことが無い。

 俺はそんな世界に転生した。

 そもそも――俺はどうして転生した?

 そこに何者かの意思が介入しているのか?

 だとしたらどうして俺の魔力はゼロなんだ?

 それとも――全て単なる偶然なのか?

 もし何者かの意思が働いているとしたら、その場合はどこからどこまで関わっている?

 と、まあ、結局のところどれだけ考えたところで答えが出るわけではないのだが。

 結局は何者の意思が介入していようが関係ないのだ。俺はもう一度最初から人生を送るチャンスをもらった。だったら今度こそ悔いのない人生を送りたい。

 魔力がなかろうが関係ない。そう……努力あるのみ。

 後悔だけはしない。

 守りたいものも出来た。

 そのために努力を怠らない。今の俺はそれだけだ。

 差し当たってはもっと力を付けよう。そうすれば不測の事態にだって対応できるだろうし。

 例えば隣国から突然攻め込まれたとしても、兵力すら覆せるほど俺が強くなれば問題ないし、最悪はルナとオキクだけでも守れればそれでいい。

 だが――そんなことを考えていた矢先、思いもよらない方法で隣国からコンタクトが来たのである。

 それがあの人との出会いだった。



 **************************************



 俺は六歳になった。

 あれから二年。

 俺は【流体魔道】をものにするためにひたすら努力していた。

 といっても瞑想が主だ。とにかく魔力コントロールを極めるために空気中の魔力を読み取る練習をずっと続けている。

 その甲斐あって突風しか出せなかった風魔法は人一人なら吹き飛ばせるくらいの威力は出せるようになったし、他の魔術においても軒並み威力は上がっている。

 例えば火魔法なら火球で地面を少しは抉れるようになったし、水魔法の水球はボヤくらいなら一瞬で消火出来る自信がある。

 もしかしたら――それらは一見したら思ったよりも成長していないように見えるかもしれない。

 しかし考えて欲しい。俺は魔力の消費なしでそれらのことが出来るのだ。

 風の塊も火球も水球も撃ち放題。

 しかも俺はまだ六歳。これからまだまだ成長する余地はある。むしろ伸び代だらけ。

 ここから先、強力な魔術を習得すればするほど俺のアドバンテージは生きるというわけだ。

 いずれ俺が思い描いている魔法も出来るようになると思う。

 例えば空を飛んだりとか、例えば永遠に波に乗り続けたりとか?

 もしそういう魔術が出来上がったとしても普通だったら恐らく魔力の消費が大き過ぎて使いものにならないと思われるが、俺にはそのデメリットがまるでない。

 魔力が半永久的に使える俺だからこそ生かせる魔術が、この世の中にはきっとたくさんある。

 もはや楽しみしかなかった。

 そんなわけで今日も日課の瞑想をやろうとしていたのだが……その時だった。

 天井裏からオキクの声が降ってくる。


「坊ちゃま。お館様がお呼びです」


 取りあえずオキクが天井裏にいることはスルーしとくとして、あの叔父が俺のことを呼んでいるだって?

 珍しいこともあるものだ。

 俺は未だに叔父に嫌われているし、彼はそれを隠そうともしないので意識的に会おうとしない限り顔を合わす機会もない。最後に会ったのはいつだったかなと記憶を辿らないと思い出せないくらいだ。

 その叔父が呼んでいるということは何か用事があるということだろうが、正直面倒くさい。

 それでも当主の言うことは絶対なので行かざるを得ないのだが……。

 はぁ……仕方ない。さっさと行って用事を済ませるか。

 それにしても一体何の用事だろうか?

 一抹の不安を抱えながら俺は叔父のいる執務室へと向かった。



 **************************************



「叔父上、失礼します」


 叔父付きのメイドに通されて執務室に入ると、叔父は机に座っていた。

 久々に見る叔父は相変わらず冷たい印象を受ける男だ。

 オールバックの長髪は漆黒で、肌の色はまるで死神のように白い。

 その叔父はこちらに視線を向けることもなく、書類に目を通したまま淡々と告げてくる。


「お前にやってもらうことがある」

「僕に、ですか?」

「そうだ」


 本当に珍しいことがあるものだ。

 叔父が俺に対して何かをやって欲しいなどと言ったのは恐らくこれが初めてだ。いつもは期待していませんという感情をひしひしと感じるからな。

 いや……今も感じているのだが。

 うーん、だったら何をさせられるのだろう? なんか怖いな。

 そう思って叔父の言葉の続きを待っていると、


「お前には隣国のパトリオト伯爵家の姫君、ストロベリー殿から剣術を習ってもらうことにした」


 相変わらず自分の仕事をこなしながらついでのように言われたのだが……。

 は? 隣国の姫君から剣術を習ってもらうだって?

 俺が呆気に取られているのを肌で感じたのか、叔父が面倒くさげに説明してくる。


「ストロベリー殿は齢十二歳にして、将来は【武神】の二つ名で呼ばれることが約束されているほどの武の達人だ」

「し、しかし叔父上……何故急にそのような話に?」

「先方から申し出があったのだ。魔力ゼロの嫡男を持ったことに同情されてな。ならばせめて武術を習わせてはどうかとおっしゃって下さったのだ。そしてわざわざご息女を派遣することを約束してくださった。まあ、というのは建前で、パトリオト伯爵は、要は私のご機嫌取りをしたいのだろう。私としても先方と仲良くしておくことに損はないからな。この私がこうしてわざわざ直接お前に言ったことの意味は分かるな?」


 叔父は事務口調で一気にまくしたてると、説明はお終いとばかりにあっさりと口を閉ざした。

 そして俺に考える間を与えずに、


「詳しいことはオキクに説明してある。後はあの者から聞け。私は忙しい」


 さっさと出て行けと言わんばかりのその態度。

 いたわ~。ブラック企業に勤めていた時に似たような上司が。

 自分は仕事出来ますから、お前たちとは違いますからという雰囲気を出しているところがそっくり。

 それでいて大したことないくせにパワハラ、セクハラは当たり前。モラハラ? そもそも会社のモラルが最初から崩壊していました。

 まあタチが悪いのはその上司と違って、この叔父は実力が伴っているところなんだよな……。

 だからってこんな態度あるか! こっちは本当の甥だぞ!? というか本当の子供だったらギャン泣きしているところだぞ!?

 心の中で散々喚いた後、俺は叔父から背を向ける。

 くっそ~、いつか見てろよ!?

 絶対実力で超えていつかぎゃふんと言わせてやるからな!

 こんな奴に絶対ルナを好きにさせるわけにはいかない。

 俺はあらためて妹を守る誓いを心の中で立てた。




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