ショートショート
八田部壱乃介
額縁展覧会
友人が個展を開いたらしい。
彼は建築家であった。果たして、建築と芸術とは関係があるのだろうか? そう思った私ではあったが、紹介状を見て、更に訳がわからなくなった。
曰く、『額縁展覧会』であるという。
彼はそんなにも額縁が好きだったのか。連絡して聞いてみると、どうやらそんなことはないらしい。聞くまでもなく、直接見た方が早いと言う。
ならば、と私は展覧会へと赴いた。平日ではあったが、丁度良くその日は暇であった。運が良いのか、それとも関係ないのか……。
マイナーだと思われた展覧会は、意外にも人足が多く、賑わっていた。フロアの中央に、主催者たる友人がグラスを手に、会話に興じている。彼と目が合うと、私に近づいてきた。
「やあ。君も来たのだね。どうだい、人気だろう」
「ああ、そのようだな。それにしたって、何がこんなにも楽しいのか、僕にはわからん」
友人は笑い、
「なら、実際に見てみると良い。映えるからな」
「バエル?」
私の脳内では、その言葉を正確に変換することはできなかった。
友人に付いていき、漸く私はその理由がわかった。
展覧会には、額縁は飾ってある。然し、メインは額縁ではない。その中身が重要なのであった。この展覧会は、厳密には個室を飾っているに等しかった。
テーブルのある部屋。
ブランコのある部屋。
水玉模様の壁紙である部屋──など、様々だ。
それらを仕切る壁には、四角く穴が空いている。それを囲むようにして、額縁が掛けられている。
つまり、空間という絵を飾っているのだ。女性が部屋の中に入り、様々にポージングする。その様子を、友人と見える女性が撮影する。
「成る程」と思わず言ってしまった。「自分が絵になるわけか」
「そうとも」友人はニヤニヤと笑った。「君もやるかい?」
「いやいや。恥ずかしいよ」
「それが、案外楽しいんだな。一度やってみると良い。絵を見ているのは一体どちらなのか、確かめると良い」
私は個室に入り、大笑いした。
個室にも、額縁が飾られている。その下には、小さく題名が記されていた。
『撮影する人』
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