深夜の公園で

@山氏

深夜の公園

 何の気もなく、俺は外を歩いていた。

 空は黒く、道は街灯に照らされている。

 道行く人は誰もおらず、俺は一人でぼーっと歩いている。

 目的はない。暇だったから外に出てみただけ。

 音楽を聴きながら、俺はブラブラと歩いていた。

 公園までたどり着いたところで、足を止める。

 小さいころ、よく遊んでいた公園だ。今はもう遊具の塗装も新しくなっている。そもそも一部の遊具は撤去されてしまっていた。

 そんな中、公園で一人、ブランコに乗っている人が目に入る。

 誰もいない公園で、ゆったりとブランコに揺られている。

 俺の視線に気付いたのか、その人はブランコから降りて俺の近くまで駆け寄ってくる。

「こんばんは」

 思ったよりも幼い。中学生か高校生かの女の子。

「こんな時間に、お兄さんは何しに来たの?」

 俺はイヤホンをはずいて女の子と向き合う。

「別に、ただの散歩」

「そうなんだ。私もなんだ」

「そっか」

 俺は女の子に背を向け、歩き出そうとした。

「待ってよ」

 服を掴まれ、首が少し絞まる。

「どうせ暇なんでしょ?」

「暇だけど……」

「じゃあちょっと付き合ってよ」

「はぁ……」

 ため息交じりに言うと、女の子は俺の手を引いてベンチに向かっていった。

 ベンチに腰掛け、彼女は俺の方を見る。

「まさかこんな時間に出歩いてる人がいるなんて思ってなかった」

「俺もだよ」

「私は青山咲。お兄さんは?」

「……八上一」

「なんでこんなところに来たの?」

「別に……適当に歩いてただけだけど」

「ふーん」

「お前こそ、なんでこんな時間に出歩いてるんだよ。明日学校じゃないのか?」

「え? 私、もう成人してるんだけど……」

「えっ」

「そんなに子供っぽく見えた?」

「高校生くらいだと思ってた」

「失礼しちゃうな。これでもお酒飲めますから」

 咲は意地悪く笑った。

「まあ、明日仕事はあるんだけどね」

「じゃあ帰って寝ろよ……」

「寝れなかったんだよ。一君もそうなんでしょ?」

「……そうだけど」

「それに、仕事サボってもちょっと給料減るだけだからいいの」

「まあ俺には全く関係ないからいいけど」

「そうだよ」

 それから小一時間ほど咲と話していただろうか。

 咲は立ち上がり、携帯を俺の方に向けた。

「連絡先、交換しようよ」

「なんでだよ」

「またお話しよ?」

 にっこり笑う咲に、俺はため息を吐きながら携帯を取り出す。

「それじゃ、またね」

 連絡先を交換し、咲は公園から出ていった。

 俺は携帯を持ったまま、ベンチの背もたれに体を預け、空を見上げる。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

深夜の公園で @山氏 @yamauji37

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ