第295話 またアイツ…。
空の旅にも慣れたもので、既に魔力による操縦などの運行を乗組員に任せている。
その分かなりゆっくりになってしまうが、すべて任せっきりに出来るのは大きい。
俺らは寝ていても目的に行けるわけだ。
王都ライオニドから出てから約1日くらいで北大陸が見えてきた。
今まで十数時間で移動してきていたわけだから、俺らが操縦する時の倍かかっているわけだが、それでもドラゴンの飛行速度よりも早く飛んでいる事になる。
もちろん一般的な(?)ドラゴンとの比較ではあるが。
今回は、アーカニアの村には寄らないでおく。
ラーザイアに聞いたらあそこはルキデウス配下の魔王が治める所らしく、一応警戒しておく必要がある。
もちろん、それでも用事があれば行くつもりだが今のところ急ぐ用事が無いだけともいえる。
ただヒョウとお土産を持っていく約束してしているから、雪人族の村には寄っていくつもりだ。
肉類が好きなようだが、パンも食べてたし新鮮な穀物類もあれば食生活が少し潤うだろう。
「主様、何やら様子が変ですね」
雪人族の村が見えるくらいまで近づいてきた頃、ニケが何かに異変を感じたようで報告をあげる。
言われて俺も外を見ると、村の数か所から煙が上がっている。
あの感じ、焚火ってわけじゃなさそうだな。
嫌な予感がする。
「すぐに降りるぞ。カルマ、ニケ!」
「「はい!」」
ふたりの相棒を呼び寄せ、甲板から地上にダイブする。
そして、俺はニケの背中に乗背て貰う。
ちなみに今は精霊の姿になっているので、おんぶしてもらっている感じになっている。
傍からみたらちょっとカッコ悪いな。
いやそんな事言っている場合ではない。
村の皆の安否を確認しないと。
数秒で地上に降り立つ。
そこで違和感を感じる。
何者かが襲ってきた形跡はあるが、予感していた惨状は見当たらなかった。
それどころか、どういうわけか村を見渡してみても人影が全く見当たらない。
いや…。
一人いるな。
「主よ、あそこに一人だけ家の中で倒れている者がいる」
「みたいだな。俺にも視えたよ。行くぞ」
「「はい」」
ふたりを連れて建物中に入る。
相変わらず小さ目の家の中に、ひとりの雪人が倒れている。
「そこに居るのは…。もしや、ユート殿か!?──ゴホッガハッ」
「おい、大丈夫かっ!…あんたは、ヒョウの父親の村長じゃないか!」
すぐさまニケが回復魔法を使う。
傷が深く、あおのまま放っておけば死んでいただろう。
しかし、なんとか間に合ったようだ。
───
「ユート殿には、何度も助けて貰っているな。感謝している」
「それは気にしないでいい。それで村の人は?ヒョウはどうしたんだ?!」
もじゃもじゃの毛皮を纏った雪男。
ヒョウの父親でもある村長は、事の経緯を説明してくれた。
「あれはユート殿がここを発ってすぐの事だ。急に黒い可笑しな服を着た男達が現れて、わけもわからぬまま村の者達が捕らえられてしまったです。私はなんとか抵抗しましたが、圧倒的な強さでねじ伏せられて…。気が付いたら、この状況だったのです」
「黒い可笑しな服って、こんな柄のこんな感じの服か?」
そう言って、持っていた紙にペンでピエロっぽい服装の男を描く。
我ながら下手くそな絵ではあるが、雰囲気は伝わる筈だ。
「はい!そうです、こんな奴です!あの者は一体何者なんでしょうか?一体なぜ我々を・・・」
「すまん、きっと俺のせいだ。こいつは呪詛王カーズの側近のロペという奴だろう」
「カーズ!?このノーセリア大陸の魔王じゃないですか…。でも、なぜユート殿のせいなんです?」
「前にコイツとやり合って、コテンパンにしてやったんだが…。きっとかなり根に持ってるんだろ。俺の知合いを攫って、おびき寄せたいんだろうさ」
その言葉を待っていたかのように、村長の懐から一つの水晶玉が飛び出してきた。
「なんだ!?」
咄嗟に剣を構えて、真っ二つにしようとするが、その水晶玉から発せられる言葉により手を止めた。
『おーっとと、ストーーーップですよ?これは単なる通信機ですからね、壊しても爆発もしませんが、貴方が懇意にしている村の村人の命は救えなくなるでしょう』
「攫った本人が何を言っている!真っ向勝負じゃ勝てないから、今度は人質とるとかどんだけ小物なんだよ…」
ぶっちゃけ、そこらの冒険者では全く歯が立たない程に強い魔族であるロペなのだが、俺らの敵では無い。
しかも、その風貌といい、物言いといい、仕草といい、どうも胡散臭いし、俺らから見ると小物に見えるのだ。
それでいて、姑息な事を厭わない感じが更に小物感を増幅している。
『なんですって!?これでもワタクシは、この大陸でカーズ様の次の実力者なのですよ?!無礼にもほどがアリマス!』
「お前を配下に持った、カーズってやつに俺は同情するよ。カーズの次がお前だと、その実力も微妙なところだな」
『貴様~!分かっているのか?こっちは人質がいるんだゾ!そんな態度でいいと思っているんデショウカ?!』
「あー、そりゃあ殺された困る。でも、もし先に村人達を殺しちゃったら、…お前の命もそこで終わるぞ?そっちこそ、分かっているんだよね?」
脅しに屈するどころか、逆に脅しかけてみた。
これがリンとか、アリアとか、サナティとかだったら青ざめていたところだが、攫われたのは先日知り合ったばかりの魔族の子供だ。
俺の本音は別としても、傍から見れば単なる知人が困っている程度の話。
その条件で、まともな交渉が出来るとは本当に思っているのかコイツ。
『は、ハハッ!強がるのも今のうちダゾ!こやつらの命が惜しくば、我らの幻都ミステインに来るのだ。そこで今度こそ決着を付けマショウ!』
ロペが、前よりも言っている事が支離滅裂でちょっと怖い。
なんというか、少し壊れた感じがする。
元々人格は壊れていた感じはするけど。
でも、もう少し理知的な部分があった筈だが…。
しかし、放置して次に来た時に村人の遺骸が晒されていたら、最悪な気分になるだろう。
まぁ、元々助けに行かない理由も無いんだけどね。
ただ相手のペースに乗せられてはやらないつもりだ。
「ふん、じゃあ今からお前を滅ぼしにいってやるよ。そのふざけた顔を洗って待ってろよ?」
『ナンダトッ!?この野郎!ワタクシのこの美しい顔をn───』
パリン。
ロペが喋っている最中に水晶玉を破壊しておく。
どうせ小狡いアイツの事だ、この水晶玉に何かを仕込んでいてもおかしくないからな。
「あ、あの。ユート殿?村の者は大丈夫なのでしょうか?」
「うーん。あんまり大丈夫じゃないだろうから、すぐに助けに行くよ。これはあの時確実に止めをさせなかった俺の責任だからな。きっちりけじめをつけてくるよ」
「いいえ、取り逃がしたのは我らです。次こそは必ずや、奴を塵にしてやりましょう」
「そうです主様。あのような下種の相手は私達がやります。ですから、主様は後ろから奴を消し炭にしろと命じてくれれば良いのです」
おいおい、カルマだけなら分かるんだが、ニケまで物騒な物言いになっているな。
そして綺麗な女神の様な顔が、怒りに満ちていて怖い。
どうやらロペの挑発は、俺じゃなくてニケ達に効果てきめんだったようだ。
まぁ、俺は後ろからスキル使って応援するとしよう。
「はは。ロペ、お前に同情するぜ。こりゃあ、楽には死ねないぞ?」
苦笑いしながらも、俺達はロペが待つ『幻都ミステイン』を目指して出発するのだった。
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