第293話 双天ソル・マーニ

 はい、全員集合。

 取り敢えず、どうしてこうなっているか説明して貰おうか?


「えーっと、最初は釣りでやってたんですよ?とっても慎重にやってたんですよ。でも、途中から皆がヒートアップしてきて…」


「主よ、妾は止めたのだぞ!?ただ若い者達が皆暴走してだな…」


「いやニクスさん、一番はっちゃけてたでしょ!」


「そうそう、『生意気なトカゲの王たちめ!妾の本気の見せてやるぞ!』とか言ってたのです」


「そう言うミラも、『Sランクになってパワーアップした私の魔法をお見舞いしてやるのですぅ~』とか言ってたでは無いかっ!」


「そうそう、ミラもテンションマックスだったよな~」


「でも、にーちゃん達も途中からバンバン連れて来てたじゃん?」


「そういうショウタも、ユウマも前に出過ぎてて、死んじゃうんじゃないかってハラハラしたんだよ!」


 ようは全員テンション上がりすぎて、暴走気味だったって事だな。

 しかも全員が全員、責任を擦り付け合っているし。


 いや約3名違う顔をしているな。


「「「アナタ達!!!」」」


 レーナ、アーヤ、そしてアイナが目を吊り上げている。

 いや、後ろに仁王が幻視出来る程の怒ってらっしゃる。


「「「回復するコッチの事も考えてやってよねっ!!!」」」

「「「はい、すみませんでしたー!」」」


 ニクスだけは、下をペロッと出しただけであったが、それ以外の全員が平謝りしていた。

 そして。


「シュウ、ショウタ、ユウマ、ダイキは帰ったら特別メニューだからね。分かったわね!?」


 とセツナに叱られる4人。

 『そんな~、なんで俺らだけ~?』と涙目になっていたが、こんな所で羽目を外す奴が悪い。


「しかし、こんな最難関級のダンジョンでもこれだけ狩れるとか、みんな強くなったんだなぁ」


「はぁ…。あのランクのドラゴンを乱獲出来る程の実力があるパーティは、王都にはいませんわね」


 俺の率直な感想に、珍しくため息をつきながら答えるアリア。

 この王女をもってしても、呆れるレベルのようだ。


「間違いなく、王都最強のユニオンはこの【ウィンクルム】でしょうね」


「まー。…そうだろうな」


「パパ達が最強なんだね!凄いね!」


「うん、その中にはリンも入っているからね?」


 その中でも、理由はともかくリンはトップクラスになる。

 今のカイトと比べても、戦闘力に遜色ないだろう。


 あの地獄の塔で死に掛けていた時の事を思うと、冗談のようなレベルアップだ。

 ただ強くなった理由が理由だけに、素直に喜べないのが切ないところだが。


「私も?わーい、やったー!…うーん、でもまだ新しいスキルとか魔法を使いこなせていないし、いつかはパパ達に追いついて胸張って言えるように頑張る!」


 聖女としてのチカラと、魔人としてのチカラの両方を持つ特殊な存在になったリン。

 ある意味では、『覇王』になった俺よりも特殊な存在である。


 各精霊の加護を受けて、様々なスキルや魔法を使えるようになったお陰で、攻撃も回復も防衛も行える。

 まだ戦闘経験がカイトよりも浅いから拮抗しているが、これで経験を積んだらカイトでは敵わない程多彩な戦闘が出来るだろう。


 まぁ、俺としては戦わないで平和に暮らせる生活に早く戻してあげたいので、そうならないでもいいと思っているんだけどな。


 ふとリンが自分の刀を抜き、ジッと見つめている。

 すると少し悲しそうな顔をして、呟く。


「そろそろ新しい刀を打ってもらおうかな~。今回の遠征で刃こぼれしてボロボロになってきたし」


 どうやら、もっと強くなるのに武器も新調したいと思ったみたいだな。

 今のリンには軽すぎるみたいで、もう武器の方が付いていけてない。

 そろそろ換え時かもしれない。


「ああ、いいんじゃないか?素材も一杯採れたみたいだし、鉱石もいっぱいあるから、イイのが造れると思うぞ」


「うん!頼んでみる」


 そう言うとガントの方へ走っていった。

 すぐに頼むのかと思ったら、ひとまずガントの手伝いをするようだ。

 人に頼み事するなら、先ずは自分が誠意見せないとだよな。

 リンの場合は無意識なんだろうけど。


 しかしこの数か月ですっかり手慣れたのか、ガントに負けない速さで解体している。

 羊の解体のときはまだまだだったのに、今ではスムーズに出来ている。

 こういうのでも成長って見えてくるよなぁ。


 さて、メイアも手伝っているし、あの調子ならすぐに終わりそうだな。

 帰る準備に入ってもいいだろう。


「よし、みんな。回収終わったら帰るぞ!」


「え、何処にですか?」


「何言っているんだ?帰るって言ったら、自分の家にだろう?」


「「「やったー!」」」


 まだ数日しか経っていないが、あの屋敷に帰るのは嬉しいらしい。

 まぁ、空の旅も一週間もすれば飽きるからな。

 それに、最高の風呂と最高の飯、そして最高の寝床。

 これらがある屋敷は精神的にも癒されるからな、正直俺が一番帰りたいと思っているかもしれない。


 さくさくとドラゴンの素材を回収し、各自でキャンプを片付けていく。

 あっという間に帰る準備が整った。


「そういや、こいつらってどうするんですか?」


「ああ、ここの門番なんだよな。クロノスの配下だし、あいつかどうにかするだろう?」


「そうなんですね。襲ってこないか、ちょっとハラハラしてしましたよ」


「そう言う割には、狩りに夢中になっていたんだな?」


「それは言わないでくださいよ~」


 といいつつ、笑っているカイト。

 なかなか肝が据わってきたようだな。


 とりあえず、門番ことカースオブクイーンおよびその配下はそのまま放置する事にした。

 次に来た時は敵に戻っているかもしれないが、ゲートはこの扉の向こうだ。

 もう会う事が無いかもしれないし、気にしない事にした。


「よし、これからゲートを通って帰るのだけど…」


 出発前にゲートについて全員に説明をした。

 そして同じようにゲートがある天使の塔が次の目的地になることも。

 説明が終わり、神殿への扉を開ける。

 すぐ横に大きなゲートが開いたままであった。

 

 そしてステラから貰った腕輪を掲げると更に輝きを増す。

 よし、これで外に出る事が出来るだろう。


「じゃあ、皆これに入ってくれ!」


「「「はい!」」」


 一瞬の酩酊感を味わいながらも、すぐに外に出る事が出来た。

 そこは、ダンジョンの入口のすぐ横。

 そう、帰りを待っていたメンバーがキャンプを張るすぐ前にだ。


「あ、ユートさん!!おかえりさない!」

「お帰りなさいませ、旦那様」


 こうして、星のダンジョン攻略、および星の神殿での試練は無事に終わったのだった。


 ───


「パパのその新しい剣、とっても綺麗だね」


 すっかり夜空になった空に浮かぶ飛行艇ウラノス。

 その甲板で俺は貰った剣を抜き、月の光に照らす。


 それを見つけたリンが声を掛けてきた。


「ああ、そうだな。さっきステラに貰った剣だけど、さすが神器というだけあって刀身も綺麗だよな。ちなみに、この月光剣マーニと太陽剣ソルはセットらしいんだよ」


「へぇ…。じゃあ、それも双剣ってこと?」


「ああ、そういう見方も出来るな。双剣か…。太陽と月だし、双天ソル・マーニってのはどうだ?」


「うん、いい響きだね!」


「お、そうか?じゃあ、決定だな。今日から、これは双天ソル・マーニだ」


 ユートの手に輝く剣が、応えるように淡く輝きを放つのだった。

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