第278話 勇者と覇王の違い

「そういや、人間の覇王って珍しいのか?」


「そうじゃな…。ここ数百年はまともに成長しないで命尽きているようじゃ。そのような歳食ったの覇王自体、今までおらんわい」


「悪かったなおっさんで。それにしても、勇者と覇王って何が違うんだ?」


「お主、世界の創造主の一人である女神様の話をちゃんと聞いてなかったのか?勇者は単なる称号で、精霊の加護を受けた選ばれた戦士を言う。だが覇王というのは、女神のチカラの一部を受継いだ者を指すのじゃ。なので全くの別もんじゃよ。勇者は死んでしまえばそれっきりだが、覇王のチカラは魂に刻まれる。だから死んでも失われないのじゃ。魂と一緒に、次代に引き継ぐようになっているのじゃよ」


「魂を引き継ぐ。だからあの子から俺は引き継げたのか…」


 この世界のユートの魂と対話した時に正式に覇王のチカラに目覚めた。

 あれは、魂ごとチカラを吸収したからだったんだな。


「ああ、そうだ。もうひとつ聞きたい事があるんだった。星の大精霊は何処に居るんだ?」


「ほう。星の大精霊にも会うのか?お主の覇王のチカラは既に全て解放されているぞ?」


「そう、それなんだよな。なんで、星の大精霊の居場所だけ隠匿されているんだとうかと思って。会わなくても光の神殿に向かう条件が揃うのに違和感を感じているんだよな」


 それに、さっきの女神の声が気になる。

 確かに、『あと一つ』と言っていた。

 光の神殿に入るには、『覇王』のチカラを解放する以外にも何か必要なんじゃないだろうか?


「ふふふ、ははははっ!そうか、そこに疑問を持ったのじゃな?良い良い。お主はいい感性を持っているわい。教えてやろうか、星の大精霊が居る場所を」


「ああ、頼む。なぜか会った方がいい気がするんだ」


 そこでノームが真剣な顔に戻り、星の大精霊について教えてくれた。


「そもそも、星の大精霊とはじゃな、この星自体を司る精霊なのじゃ。白と黒の女神が持つ、星を支配する権能の一部が精霊化したものが星の大精霊なのじゃよ。彼女は主にこの星が崩壊しないように星の核を守っているのじゃ。この星の核を守るのが、【星の大精霊ステラ】。そして、この大地を守るのがわしノームと言うわけじゃ。わしとステラのどちらかが滅んだ時、この大地も崩れてしまうじゃろうな」


「…爺さん、何気に凄い精霊だったんだな」


「バカモンが!わしがちゃんと管理してるから、お主ら生きていけるんじゃぞ?もっと敬うんじゃ!」


「あー、わかったよ。凄いなノーム!」


 心にもない事をいいつつ、適当に褒めるとギロッと睨まれた。

 これ以上怒らせると何をしてくるか分からないので、話題を進める。


「それで、どうやったらステラに会えるんだ?」


「…もし会うとなれば、地底にある神殿に向わないといけないじゃろうな」


「地底か…。という事は、どこかのダンジョンの最奥とかか?」


「ご名答じゃ。なーに、そこにおる闇の若僧がおれば造作もあるまい」


 カルマを若僧とか言えるのは、この爺さんくらいだろうな。

 嫌そうな顔をしているのに、何もしないと所を見ると一筋縄ではいかない相手なんだろうなぁ…。


 取り敢えず、カルマがいれば大丈夫というお墨付きを貰ったわけだし、さっさと場所を確認しよう。

 

「それじゃあ、決まりだな。場所を教えてくれないか?」


「ふむ。ならば、これを持っていくと良い。これは【星の羅針盤】じゃ。こいつが差し示す方向に向えば入口となるダンジョンへたどり着けるじゃろう」


 そう言うと、大小二つの針が付いた羅針盤を渡してきた。

 使い方を聞くと、大きい針がその方向を指し示し、小さい針は近づくとぐるぐると回り出すらしい。


 近づけば近づくほど回転が速くなるらしいから、それで場所が分かる筈との事だ。

 大まかに言うと、ここから更に南側に向えばいいみたいだ。


 ノームにありがとうと礼を言うと、『礼よりも貢物を寄こせ!』とかいうので、酒をいくつか分けてあげたらかなり喜んでいた。


 最後にぼそっと、『また生きてここに貢物をもってくるのじゃぞ』といいつつ森の外に出る転移門ゲートを出してくれた。


 ───


「よし、これでここでの用事は済んだな。ラーザイアとクロノスはこれからどうするんだ?」


 これからダンジョンに向かうわけだが、この二人が居たら万が一にも突破出来ない事は無いだろう。

 しかし、それなりに時間を要する事も想像に難くない。


 二人とも一応は王様なのだし、そんなに国を空けていていいはずがないと思って聞いてみた。


「うん、ボクも星の大精霊…、ステラには会いたいと思っていたんだにゃ。だから、一緒に行くにゃ」


「オレはノームの案内をするまでが約束だからな、ここでお別れだ。正直言うと、久々にダンジョンで大暴れとかかなりそそる話なんだが、国の連中が煩いからな。大暴れは、この先にとっておくとするぜ」


 ラーザイアが意味ありげにそう言うと、隣にいるレオナルドは不思議そうにしていた。


「レオナルドは何か知っているのか?」


「いや、陛下の事だ。絶対に一緒に行く!と言うと思ってたので意外だったよ。きっと、例のルーティア様の事が関係するのでしょうが、この先に何かが起こるのかも知れないな。ユートよ、気を引き締めておけよ?」


「縁起でもない言い方だなぁ。でも、ありがとう油断しないでおくよ。じゃあ、終わったらまた二人に会いに行くよ。いいだろ?」


「ふっ、そうだな。お前とは同盟を組んだようなもんだ。必ずよっていけよ?」


「ああ、分かったよ!」


 そう言いつつ、お互い手を軽く振って別れを済ませる。


 そこから俺達は近くに停泊してあった、飛行艇ウラノスに乗り込んだ。


「おー!!ユートは凄いのに乗っているんだにゃ!こんな乗り物初めて乗ったんだにゃ!」


 そうして興奮気味の魔王クロノスを乗せて、星の羅針盤が指し示す方向へ向っていくのだった。

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