第257話 水の精霊アクア

 次の日、村を出て直ぐに氷の神殿に向かった。

 俺らが出ている間は、スノーシープ狩りはセツナチームに任せた。


 力技で狩りをするとミンチにしてしまうので、連携を取って優しく仕留めないといけない。

 案外これが難しいのだ。

 まあ、いい訓練にもなるだろう。


 俺らが氷の神殿前に着くと、氷の妖精が出て来た。

 どうやら案内をしてくれるようだ。

 やはり俺らが来たことは分かってたみたいだな。


「さあ、イグニス様がお待ちです」


 と言われ、そのまま付いていった。

 道中何にも襲われることもなくたどり着くと、そこには以前に解放したイグニスが待っていた。


「ようこそおいでくださいましたユート殿。この時をお待ちしておりました」


「やあ、あの後は何も無かったかい?」


「はい、例の人間達もここに来ることもなくとても平和な日々でした」


 懸念していた、呪詛王カースやグラムの襲撃はあれ以来は来ないようだった。

 それどころか、イグニスが感知できるこの大陸の南側にやってきた形跡もないという。


「風の噂では、呪詛王カースに仕官してからは彼の国でしか活動していないのだとか」


「それは良かった。俺らが来てからも特に動きは無さそうか?」


「そうですね…。ただ、呪詛王カースの手の物が斥候を飛ばしてきているようではあります」


「なるほど。じゃあ、なるべく早く終わらせたいな」


「分かりました。では、こちらへどうぞ」


 そういうと、イグニスは祭壇の奥に手をかざす。

 すると、そこには前回見なかった扉が現れた。


「この扉は、私が居ないと開くことが出来ません。なので中に入ってしまえば安全と言えるでしょう」


「それを聞いて安心だ。いきなり襲撃されても困るしな」


 それまでは、氷で覆いつくされた建物だったのに中は青い石材で造らていた。

 中に入ると、その石材がキラキラと光っている。


「綺麗ですね。光が反射して海の中にいるようですわ」


 アリアが言う気持ちも分かる。

 石自体が淡く光っていて、その光の反射し他の石材もキラキラと光る。まるで海の中から水面を見ているかのようだ。

 なので海の中にいるかのようじ感じても不思議ではないだろう。


「ここ自体が水の神殿になっています。この奥に水の大精霊アクア様がいらっしゃいます」


「同じ大精霊なのに、アクア様なのか?」


「同じ大精霊とはいえ、5大精霊と我ら派生した精霊とでは格が違うのです。さらにいえば、そちらに居るカルマ様は原初の大精霊ですから、さらに格が上でありますが」


 そう言われて全員がカルマの方を見た。

 そんな凄い奴だったのかと、今更ながら驚いたようだ。


「我など、その残りカスみたいなものだ。本来の闇の大精霊としてのチカラは一部しかもっておらんからな。なのでカルマ様と呼ぶ必要はない」


 あれで一部?!

 ということは、本当の闇の大精霊ってどんだけ力があったんだろ…。


「その分、悪魔カルマとしての力を融合させることが出来ているし、我が主の僕としては、その方が良かったのかもしれないがな…」


 呟くようにそう言っていた。

 この世界に元から存在していたカルマの事は、本人から聞いている程度しか俺も知らない。

 白の女神から見せられた記憶にも、そこに関しては殆ど出てこなかったのだ。


 ニケの時もそうだったし、闇の神殿に行く事が出来たらそこで詳しく分かるのかもしないな。



 祭壇に到着すると、真ん中に大きな水の塊が浮かんでいた。

 大精霊アクアは、その祭壇の上に浮かぶ水の中にぼんやりとその姿を浮かび上がらせていた。

 どうやら、実体を持たないようだな。


 そうそう、精霊と言ったらこういう感じだよね!

 今までにあった精霊の殆どが実体を持っている事の方が多いから、とてもウキウキした。

 これこそ、まさにイメージしていた精霊の姿そのものだったからだ。


 イグニスの案内で水の祭壇に上がると、すぐに水の大精霊アクアが俺に話しかけてきた。


『よく来た白の女神が導きし人の子よ。私は水の属性を司りし大精霊アクアです。ここに訪れたのは先代の勇者以来でしょうか。まずは、我が加護を授けましょう。我が司るは、生命の礎たる水。【水の大精霊アクア】の命により、彼の者に水の加護を!』


 加護が与えられたと同時に、新しいスキルが覚醒した。


【スキル『霊水レイスイ』が覚醒しました】


『覇王となり、使命を帯びし人間ユートよ。汝に水の加護を与える。封印されし、覇王のチカラを開放せよ!』


 彼女の宣言の後、更なるチカラが注がれていくのが分かった。

 自分の中に力が溢れていく。

 次の瞬間に俺の体が金色に輝いて、暫くするとアノ声が頭の中で聞こえた。


【新たな覇王のチカラが開放されました。『覇王の神眼』を覚醒しました】


 これで4つ目の覇王のチカラを覚醒した。

 あと一つ覚醒すればいいという事だが、土の大精霊に会えばいいのだろうか。


「しかし、あんまり属性とは関係ないチカラが覚醒するんだな」


『覇王のチカラは、私達大精霊が与えているものではないのです。元々あなたに与えられていた力を一つ解放したに過ぎない。そして、そのチカラを解放出来るのは我ら光の精霊の眷属のみなのです」


「…そうなのか。だが大精霊はあと2属性あるはずだ。ちなみに星の大精霊はどこにいるんだ?」


『星の大精霊は、精霊であって精霊ではありません』


「それはどういう事なんだ?」


『星の大精霊とは、この星そのもの。その星の意思を司るものなのです』


「それはまたスケールがデカい話だな。その星の意思に会うにはどうしたらいいんだ?」


『まずは、土の属性を司る【土の大精霊ノーム】に会うのです。彼であれば、その場所を知っているでしょう。…ですが、まずは外にいる者達を倒さないといけないでしょうね』


 そう言われてから、なんとなしに入口の方角を見ると何やら”悪意”が見えた。

 ここの神殿や氷の神殿が透けて見え、その先に黒い靄みたいのが見える。


「これは、今覚醒した覇王のチカラか?」


『今解放されたのは、『覇王の神眼』でしょう。それは、白の女神がもっていたと言われるモノ。あらゆるものを見通せるチカラだと言われています。それを使えば、あなたに敵意を持つものを見分ける事も出来るようになるでしょう』


「あなたはフレイヤと違って色々と教えてくれて助かるよ。あの火の大精霊にはすぐに追い出されたからな」


 戦わされた挙句、追い出されたのだ。

 ただ、彼女のお陰で最初の覇王のチカラを解放出来たので、文句も言えないのだが。


『それは…。彼女の性格は火のように揺らめき、炎のように激しいですから。それに…』


 そこでアクアの口から衝撃的な事実を知るのであった。

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