第256話 雪人族との商談
「いやはや、ヒョウから話を聞いた時は、耳を疑いましたよ。貸し与えていたゴーレムは破壊されているし、吹雪の原因が氷の精霊様が暴走していたからだと言うし、更にそれを解決したのが南にある大陸に住む人間族のもの達だなんて」
ゴウセツは、興奮気味にそう言って話しかけてきた。
急に吹雪が止んだので戻ってみれば、ゴーレムが破壊されいてヒョウに何かあったのではとかなり焦ったらしい。
しかし、当のヒョウは無事どころからどこから手に入れたのか分からない大量の食糧を抱え、満面の笑みで自分の迎えたのだと言う。
よくよく話を聞くと、人間族がやって来て山の神と言われている氷の精霊を鎮め、更には大量の食糧を分けてくれたと。
いつかまた来ると聞いていたので、その時を待ちわびていたのだとか。
今回用意したご馳走も、普段なら人間族に振舞うようなものではないが、俺らの為にわざわざ用意していたらしい。
それが出来たのも、あの吹雪のお陰で餓死するかもしれないと覚悟を決めていたのに、俺が渡した食料でかなり余裕が出来たので殆ど備蓄に回せたからだからなのだと言う。
「だから、あなた方は我らにとって、救世主とも言えるお方たちです。是非、この村の伝統的な料理を味わってください」
こうして
どうやら特産品というより伝統食らしいので、こういうお祝いの時にしか出さない特別なものだそうだ。
飲み物はヨーグルトのような酸味があり、ほのかに甘く発酵の過程で作られた炭酸が入っている乳酸菌飲料の様だ。
原料はこの地域にいるスノウシープの乳らしい。
それと、それに漬けて発酵させて作った羊肉の煮物が出てきた。
これは、なかなかクセがあるがハマれば美味しく感じる類だな。
ゴウセツに言って、ある程度の量を譲ってくれる事になった。
前に言っていた特産品の方もヒョウから聞いていたらしく、そちらの方も来るたびにまとまった量を用意しておいてくれる事になった。
もちろん、それらはちゃんと代金を払う。
ヒョウもちゃんと約束を守ってくれたみたいだな。
あの時、縁を結んでおいて良かったよ。
取り敢えず、通貨はあまり使わないと言っているので交換出来そうなものを確認しよう。
やはり食料が一番嬉しいらしく、次に衣服らしい。
取り敢えず、今回は西大陸に生息する魔物の肉を提供する事にした。
今回は、白羊の肉だ。
スノウシープのように可愛い見た目をしていない分、肉質が牛に近いのだが味が更に濃いのだ。
あちらでも人気の肉というだけあり、かなり喜ばれた。
この村と交易するなら、物々交換が良いだろうと思い用意していたのは正解だったようだ。
「食料はかなり助かります。それとスノウシープの捕獲にはかなり手間がかかるので、もしあなた方自身が捕まえてきたらならその分は多少の手間賃だけでいいですよ」
加工に手間暇がかかるので、1/10ほど食料して分けてくれるのであれば取ってきた分を無料で作ってくれるという事にもなった。
その程度で作ってくれるのであれば、こちらとしても願ったり叶ったりだ。
俺らが狩りで肉を確保出来るのであれば、それほど狩りに行く必要もなくなる。
そうなれば、氷晶や氷樹などの採取に力を入れる事が出来るのでそちらも期待して欲しいということだった。
「分かったよ、今回氷の神殿に行くんだけどそのついでに取ってくるさ。時間があるようなら、他のメンバーにでも狩りしてもらうかな…」
ただ、あんまり乱獲しても次の年に捕れなくなるのである程度セーブしましょうという事になった。
確かに俺らが本気で狩猟したら、1日で絶滅とはまでは言わないが、近くでは獲れなくなるだろう。
とりあえずなるべく遠くの方で狩猟することにし、更に生まれたばかりの子羊と母羊は狙わないという取り決めをしておいた
宴会が終わったあとは、主にそんな話をして商談を纏めた。
しばらくはサニアに流通させる程度だが、王都が復興したらそちらにも流せば物珍しさからある程度は売れるようになるだろう。
王都の人間では一生食べれないかも知れない食べ物や飲み物、それに滅多に手に入らない素材などを持っていく事になるので、最初は高めに設定してもいいだろうな。
ユニオンとして商売を始める足掛かりとしては、いいキッカケになるかもしれない。
ヨーグルトは売っているのを見た事があるが、乳酸菌飲料は見たことない。
しかも炭酸入りなので、冷やして売れば若者に人気が出るだろう。
あとはパール親娘の養蚕がうまくいけば、シルクが作れるようになるし資金作りに貢献してくれるに違いない。
「そういや、この辺に他の村はないのか?」
「ええ、殆どは山の向こう側にすんでいるので海側に住む者は少ないのです。なんせ、こちら側のほうが食料が少ないですからね」
スノウシープが生息しているが、数でいえば山を越えた辺りの方が多いらしい。
それに海にも魔獣が棲んでいるらしく、魚を獲ろうにも危険が多いのだとか。
そもそも、ゴウセツの一族は水にはめっぽう弱いらしく、泳げるものは殆どいないのだとか。
まぁ、こんな寒さの中で泳ぐとか正気の沙汰とは言えないが。
「ただ、食料さえ安定して供給出来るようになればもっと住民は増えるかもしれないです。山の向こうは食料は多いのですが、野性の大型魔獣もいるので、それはそれで危険なのです。海の魔獣ほどじゃないですが、数が多いので比較的穏やかなこちらの方が安全ではあるのです」
なるほど、海に近づかなければ危険な魔獣は少ないのか。
ただ、食料も少ないから自然と人口が増えないというわけか。
それで俺達との交易が上手くいけば食料問題は解決する。
寒い大陸の中では、比較的穏やかな気候の海側は食べるのに困らなければ住みやすい土地になるというわけか。
「分かった。じゃあ、俺らが食料を沢山調達してくるからもっと村を大きくしてくれ。そうすれば、ここの特産品となる食べ物や飲み物も沢山作れるようになるし、それを人間側の国で売ればまた食料だけじゃなく、色んな物資をもってこれるようになるんだ」
「それはとてもありがたい話ですが、いいのですか?」
「いいもなにも、俺もその方が得をするんだ。お互い得をする話ならば、何も問題無いだろう?」
「もちろんです!では、早速村の者を各地に散らばった同族の住む他の村へ行かせます。そこで、移住をしないか声を掛けさせますよ」
「ああ、そうしてくれ。そうだ、スノウシープはめん羊に出来るのか?」
「昔はやっていたみたいですね。ただ、紡ぐ機械が壊れてしまい、辞めてしまったようです。機械も良く無くて、あまりいい糸は作れていなかったみたいです」
「そうか。じゃあ、新しい糸を紡ぐ機械をつくってやるから、羊毛もあつめておいてくれ。そのうちスノウシープを飼育して、羊毛の生産も出来るようにしたいな」
「おおっ、なにか夢が広がりますね。いいですね、やりましょう!機械をお任せできるのであれば、羊毛は刈るようにして集めておきます」
「ああ、じゃあそれも頼むな」
こうして俺とゴウセツは、発酵食品、乳酸菌飲料、毛糸の生産、その他素材などの仕入れをする約束を交わしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます