第235話 聖女の使命
ユート達が変わり果てたリンに遭遇した頃、大教会ではアリアネルがとある部屋を訪れていた。
そこは、強力な結界が張られていて普通の人間が入ることは出来ない。
だがそのお陰でここには誰も近づく事が出来ないため、損傷もなく元のままだった。
「ここが"女神の輝石"がある部屋ね。普段は私ですら入ることが出来ないけど今なら誰もいない。そしてこの状況でこの石に触れるのは私だけね」
アリアネルは、この石を保護するためにわざわざ戻ってきた、
いくら魔族が触れられないとはいえ、破壊でもされたらランクを上げることが不可能になるに近い。
なんとしても回収しないといけなかった。
輝石を外すために、アリアネルが輝石が置かれている女神を象った台座に触れた時だった。
その石から不思議な声が聞こえてくる。
『我が眷属の末裔よ、この声が聞こえるか?我は白の女神。汝に使命を与える。我が魂が宿りしこの石を、覇王を宿す者の元へ持ってゆけ。その名は、ユートだ。この世界を救うのだ…』
そこで声は途切れた。
突然の出来事に呆然とするアリアネルだったが、我に返るとすぐに石を手に取り駆け出した。
ユートは今王城にいる。
とても危険な場所となっているが、信仰する神からの啓示だ。
しかし、光の女神ではなく白の女神と言っていたが、聞き違いだったのだろうか?
いや、そんな事を考えている暇はない。
あの時に感じた神聖なる力は、神そのものだと確信出来るものであったのだから。
教会の隠し部屋から出てきたアリアネルが必死の表情で駆け出して出てきたのをドルガーがすぐに見つける。
流石にこの魔物が彷徨く街で一人にさせるわけにいかずに、引き止めて事情を聞いた。
「女神様が私に啓示を下しました。私はこれからユート殿に会いに行かねばならぬのです!」
アリアネルらしからぬ剣幕に気圧されるドルガーだったが、ならばと自分が護衛につくと志願し、承諾させるのだった。
「さすがにあんたに死なれたら俺も困る。俺とあとはAランク冒険者を数人連れて行く。マーズ、レーナとアーヤがまだ住民の避難を続けている。戻ってきたら引き続き他の住民の誘導を頼んでくれ。もし教会に入りきれなくなったら、ギルド本部へ誘導すればいい。細かい事は頼んだぞ?よし、いくぞ!」
ドルガーに指名された冒険者達は、国の顔でもある聖女の護衛ともありやる気十分だ。
おうー!と声を上げて、気合入れていた。
ドルガーに護衛されつつ、王城へ急ぐアリアネル。
戦闘職ではないとはいえ、さすがSランク認定の聖女だけあり一般人よりもステータスが高い。
体を鍛えているAランク冒険者も、本気で走るアリアネルについて行くのがやっとであった。
ドルガーは流石元Sランク冒険者だっただけあり余裕を見せていたが、内心では思ったよりも速いアリアネルに驚きを隠せないでいた。
(ったく、一国の王女様がこのスピードで走れるとは何の冗談なんだよ)
と内心で愚痴るも、声に出す勇気は無かった。
「あれは…?」
城門の近くまで行くと、激しい轟音と共に地響きが起こった。
一瞬足を取られそうになるが、なんとか耐える事が出来た一行はこの先で行われているであろう戦闘に戦々恐々とする。
「アレを見ろよ。あのドラゴンはなんだ?!」
その視線の先にいたのは、見たことも無い巨大なドラゴン。
七色のオーラを纏う巨大なドラゴンは、そのブレスを吐きだすと辺り一面が灰塵と化している。
「あれは…、伝説のカイザードラゴン?」
アリアネルは一瞬呆けたようにつぶやくが、すぐに正気を取り戻し再び走り出す。
「おいっ!姫さん!さすがにあっちはヤバイぞ!」
「あれはきっとユート殿に従うドラゴンです。そうじゃなければ、こんな程度で被害が収まる筈はありません!」
アリアネルの予想は正しいのだが、誰がそんな事を素直に聞けるだろうか。
だが止める間もなく走り出してしまったアリアネルを放置するわけにもいかず、ドルガーたちも急いでついて行くのだった。
アリアネルがドラゴンの近くまで行くと、さっきまで暴れていたのが嘘のように地面が均されていた。
一部瓦礫が埋まっているのを見ると、このドラゴンがやったのだろうと予想する。
そのドラゴンが近づいてきたアリアネルを見つけると、いきなり話掛けてくる。
「「あ!アリアっち~!城に入るの?じゃあ、私達も一緒に行くからちょっと待ってね」」
いかついドラゴンから発せられたとは思えぬ可愛い声に、一瞬呆気にとられるも、ドラゴンが眩く光って消えた後に現れた姿で納得した。
「やはり、あなた達だったのですね」
「うんうん、さっきのは私ヘカティアと~」
「私、ディアナが顕現させたドラゴンなのですよ。ちょっと建物壊してしまいましたけど、許してくださいね?」
さり気に破壊した建物の事を誤魔化そうとしてくるが、今更気に留めている場合ではないので誰も追及しなかった。
「それよりも、私は急いでユート殿の所に行かないといけないのです。一緒に行ってくれますか?」
人型に戻った双子の竜姫、ディアナとヘカティアにお願いするアリアネル。
「うん、勿論だよ。アリアっちはマスターの仲間だもんね。しっかり私達が守ってあげる!ね、ディアナ」
「そうですね。放っておいたらマスターに怒られそうですし、しっかり守らせていただきます。…他の方は、そうですねドルガーさんあなただけ同行を許可します。他の方は危ないのでお引き取りくださいね」
二人はアリアネルのお願いを快諾するが、他の冒険者は邪魔だと言い放つ。
勿論、冒険者達は反論しようとするが、ある物を投げて寄こされて悟ってしまう。
「それね、さっきまでここを占拠していた3人組の鎧よ。それを持って帰ってくれる?大口叩いていた割にはかなりの弱者だったけど、その騎士よりもあなた達は弱いのでしょう?」
ディアナは普段のほんわかした様子を変えて、厳しい表情で冒険者達を見る。
冒険者たちも、その鎧の質から上位者だったことも、その上位者が成す術なく倒されたこともそれを見て分かってしまうのだった。
「あー、すまんな。ここまで護衛ご苦労だった。あとは俺とこの嬢ちゃん達に任せてくれ。お前たちは大教会とギルド本部の護衛に戻ってくれ」
ドルガーにまでそう言われてしまえば、もはや引き下がるしかない。
「さあ、急ぎましょう。ヘカティアさん、ディアナさん」
「うん分かったよーアリアっち。いこう、ディアナ」
「ええ、行きましょう、ヘカティア」
そうして、4人はユート達を追いかける形で王城へ入っていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます