第186話 火山ダンジョン【ムスペル 】

───火山ダンジョン【ムスペル】


 そこは、あちこちに溶岩が滲み出ているダンジョンで、高温かつ高難易度のダンジョンである。


 ここに生息するのは高耐火の生物だけで、有名な所だと”サラマンダー”や、”イブリート”等だろうか。

 件(くだん)の”ラヴァクロコダイル”も生息している。


 なんにせよ、かなり危険を伴うので勝手に行動しないようにと皆に言い聞かせた。


 中に入ると、早速”ファイヤーエレメンタル”が襲って来た。

 

 ファイヤーエレメンタル 種族:精霊 ランク:B HP:870


 初っ端にしては強くないか?

 ここは油断していると厄介な奴が出たら逃げ場が無い分危ない。


「リン、シュウ!」


「任せて、パパっ!」


「オッケー、行くよ」


 二人は気負うことなく流れる様な動きで"ファイヤーエレメンタル"を取り囲む。


 シュウは、間合いに入った瞬間に下段から縦一文字に斬り上げる。

 リンもそれに合わせて、Zを描く様に切り裂いた。


 たった一合で"ファイヤーエレメンタル"は弾け飛んで消えた。

 消えた跡には、小さな紅い石がコロンと

 

 ヒョイとそれを拾うと、握ってみる。

 魔力が少し残っているのが感じ取れた。


 これが精霊の核ということかな?


「ガント、これ使えるか?」


「ん?貸してくれ。…あー、これじゃ小さいけど大きい奴なら武具の材料になるぜ?あとは、炉の火力上げに使えるかな」


 ま、役に立つのなら拾っておくか。

 

 そんな事を考えている間に、次々と敵を倒していく二人と二頭。

 

 シロもピューイも前見た時よりも格段に動きが良くなっている。

 しかも、この2頭と二人が互いに連携した攻撃をしているのを見て、かなり訓練した事が見て取れた。


「うん、いい動きだな。しかも、隙がないな」


「ああ、お前がいない間にかなり訓練していたぜ?この子たちなりに必死で頑張ったんだよ」


「そうかそうか、かなり頑張ったんだな」


 なんか子供の成長を喜ぶ親の気持ちを思い出してきた。

 

 シロなんかシュウを乗せたまま、

 

 ピューイも風のブレスや魔法で精霊たちをどんどん倒していってる。


 ランクB相手とはいえ、圧倒的な強さを見せている。


「パパ!ここはもう敵さんはいないみたい」


「ああ、そのようだな。落ちた素材を拾い終えたら、さらに潜ってみようか」


 ガントとフィアが落ちた紅い石をゲンブの"カーゴ"にポイポイ投げ入れている。


 フィアがニャアー?と鳴いて、回収が終わったことを知らせてくれた。


「よし、このまま先に進もう。ピューイ、ゲンブを引いてくれ」


 ピューイ!と返事をすると、ゲンブについたロープを咥えて引っ張ってくれる。


 前までならニケに索敵をさせていたが、今の俺は『精霊使役ファミリア』により、精霊を使役出来るので自分で索敵することにする。


 ここは炎の属性がいいな。


「『精霊使役ファミリア』発動!いでよ"フレイミー"!」


 そう言うと、あたりから炎を纏った小さな炎の妖精が数匹現れた。


「いけ!」


 俺がそう言うと、一斉に散らばって行った。

 彼女らの視界は俺に共有されているので、近くに敵が来ると直ぐにわかるのだ。


「この先に"サラマンダー"が3体いるな。シロ!先行しろっ!ブリザードブレスをお見舞いしてやれ!」


 シロはウォンッと吠えると、シュウを乗せたまま走っていった。


 すぐに、ヒュォォォォォッ、ドン、ガキンッ!と、戦闘する音が聞こえてきた。


「どおおりゃぁっ!」


 シュウが下段からの斬り上げたあと、袈裟懸けに斬りつけた。

 シロのブレスによって、足元を凍りつかせたサラマンダーは回避出来ずにまともにダメージを食らう。


 硬い鱗である程度弾くも、威力の上がっているシュウの剣に抵抗しきれずに体を二分されて力尽きた。


「うん、いい調子だっ」


「まだまだトカゲさんいるよ!」


 天井に張り付いていたサラマンダーがポトリと落ちてきて、シュウに炎を吹きかけようとする。


 しかし、それに気が付いていたシロが顎めがけて体当たりして止めた。

 逃げ場をなくした炎はサラマンダー自身の頭を焼いた。


 グギゃギャギャッ!と悲鳴を上げるも、すぐ後ろから来ていたリンの剣一閃で頭を落とされて、二匹目も敢え無く力尽きた。


「サンキュー、リン!」


「うん!どんどん、やっつけよう!」


 リンとシュウとシロの見事な連携により、3匹いたサラマンダーはユートが来る頃には全て斃された後だった。


「おー、見事だな。凄くいいじゃないか」


 ユートは掛け値無しで褒める。

 リンとシュウはそれを聞いて、ハイタッチして喜ぶのだった。


 シロは尻尾をフリフリしながらユートの所まで来て、褒めて褒めてという顔をしてたので、思いっきり撫でられている。


「もー、シロばっかりズルい〜!」


 と、リンとシュウもユートに飛びついてきたので、苦笑いしながらわしわしと頭を撫でてやるのだった。


「そうやって見てると、本当に親子だな」


 それを見ていたガントは、そう言いながら楽しそうに笑っていた。



 目的の場所は、このダンジョンの最奥にある採掘場だ。

 ここ最近はたどり着ける鉱夫が少ないため、採掘量はそれほど無いのだとか。


 だから逆に、まだまだ鉱石は掘れるだろうと町の人が教えてくれた。


 最初は行かないほうがいいと止めてくれたのだが、SSランクと刻まれた俺のギルドタグを見せると、


「あんたがあのユートかっ!噂はここまで届いておるぞっ。それなら逆に頼みたい。最近は掘りたくても、何故か火山が活性化したせいで魔物たちがわんさかいるんだ。高く買い取るから鉱石を採れるだけ採ってきてくれ!」


 と採掘の依頼を発注された。


 ここ2ヶ月まともに掘れていないので、普通の鉱石でもかなりいい値段を出してくれるという。


 また特産の燃える石の"火焔鉱石"が採れたなら、通常の倍額は出すぞと言っていたが、ガントの目的でもあるので、期待しないでくれとだけ言っておいた。



 ───

 一時間ほど潜り込んで、やっと目的の場所についた。


 普通のダンジョンなら潜れば潜るほど涼しくなるものだが、ここはその逆だ。


 全員額に汗を浮かべながらその場所を眺めている。


 なんと、採掘ポイントが入口側以外は溶岩で囲まれていた。


 念の為にそれよりも前の採掘場所を確認してみたが、"火焔鉱石"は採れないだろうというガントの判断だ。


 スキルで調べているので、ほぼ間違いないだろう。


「どうするんだ?」


「どうするもこうするも、行くしかないだろ」


 ガントはそう言うと、ツルハシを取り出し慎重に溶岩流が両側に流れる道を進んだ。


 流石に落ちればひとたまりもないので、かなり慎重に進んでいる。


 そんな時だった。


 ザバァァァァッと溶岩から一頭のワニが現れた。


「うおおっ!びっくりした!あ、あとは頼んだぞ」


 ガントはそう言うと、ダッシュで道を渡りきり採掘ポイントにたどり着いた。


 そうなると、そのワニが向かって来るのはこっち側だ。


 溶岩窟の主グレーターラヴァクロコダイル 種族:魔獣

 ランク:S+ HP:22870


 名前長っ!

 じゃ無かった、何気にエリアボスじゃねーか!

 なんてもの引き当てるんだガントは。


 しょうが無いか…


「よし、みんなやるぞっ!」


「「はいっ!」」


 ワオーン! ニャーン! ピューイ!


 こうして、南大陸初のボス戦が始まったのだった。

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