第184話 空輸団出動!

「温泉ですか…。話には聞いた事ありますが、そんなにいいものなんですか?」


「ああ、入るだけで癒されるし、何よりもお風呂よりも広い湯に浸かれるんだ。俺らがいた世界では、それは贅沢な事だったんだよ」


「なるほど、そうなんですね。しかし、従業員の私がそんな贅沢なんて許されるんでしょうか?」


「気にするな!というより、日ごろの感謝も含めてみんなを連れていきたいんだ。本当は、使用人全員を連れていきたいが、ここを全部空けておくわけにもいかないから、今回はメンバー全員とメイアとマイニャだけって感じだ。それまでに向こうでも訓練出来るように準備しておいてくれ」


「はい、わかりました旦那様!お任せください」


 そう言うと、シロを呼び戻してブラッシングを再開させるのだった。

 去り際に少し寂し気にしていたが、頑張ったら次は連れてってやるからなと言ったら、しっぽをピーンとさせてやる気をアピールしていた。


 あれ、シロも言葉分かるんだろうか?

 まぁ何があっても不思議じゃない世界だからな、気にしないでおこう。


 そのあと、カルマとディアナ、ヘカティアにも話をして来週の事に話をしておいた。

 ディアナとヘカティアは温泉に行けるのをかなり喜んでいた。


「ふふふ、温泉よディアナ!初めて入るからとても楽しみね!」


「そうね、魔王も御爺様も温泉なんて連れて行ってくれなかったもの。とても楽しみねヘカティア。あちらの特産の食べ物もあるらしいわよ」


 とウキウキで話を弾ませていた。

 御爺様って、竜族のトップだという皇竜ってやつか?

 巨大な竜が入れる温泉など無いだろうし(それって湖レベルだよな)、当たり前といえば当たり前だよな。


「そういえば、ピューイとルベル、セリオンはお前たちが鍛えてるんだろう?成果はどうだ?」


「うん、ピューイはもうちょっとでAランクの壁を超えれるんじゃないかな?そうしたら、成竜になる筈だよ」


 おお、ピューイが大人になるのか。

 嬉しいような、残念の様な複雑な気分だな。

 ピューイは、とあるクエストで戦ったウインドドラゴンの雛なので手の平サイズの頃から育てているのだ。

 それが成竜まで育つなんて、テイマー冥利に尽きるな。


「ルベルはまだまだ鍛えないとダメね。あの子のポテンシャルはそこそこあるんだけど、成長度が低いみたい。だから、気長にやるしかないかなぁ」


 ”ワイバーン”はそもそも竜族の中では低位種なので、まだ竜族の姫様にポテンシャルがあると言われるだけマシというものだ。

 今後の成長に期待、というところだな。


「あとは、セリオンはすっごいよ。最初は新しい体に慣れてなくて魔力操作が上手くいってなかったけど、最近は慣れてきたから出会った頃の数倍は強くなっているよ。私とタイマンしても引けを取らなくなったもの」


 ヘカティアと同格までいったか。

 彼の望み通り順調に力を付けているようだな。


 伸びしろが期待できる分、そのうち双子より強くなるのかもしれないな。


「あ、だからって私達もまだ負けないからねマスター!マスターに会ってから私達だって強くなっているんだから。後から来た子になんか負けないんだから!」


「うん、そうねヘカティア。最強竜の座は私達のモノよ!」


 ディアナもやる気を出しているのは、いいのか悪いのか。

 でも、そのまま切磋琢磨してくれればいつかまた戦う事になりそうな魔族幹部にも対抗出来るようになるし、損はないな。


「そうか、二人にも期待しているぞ」


「うん、任せてマスター!ね、ディアナ!」


「ええ、期待に添うように尽力します。頑張りましょうねヘカティア」


 そのあと、そんなに鍛えたいなら我がやってやろうかとカルマが提案していたが、全力で拒否していたのを見てちょっと笑ってしまったのは内緒だ。


「じゃあ、1週間後に王都の外で全員集合な。それまで各自の準備を終わらせておいてくれ」


「承知しました」


 じゃあと言って、俺はニケに乗ってそのままサニアに戻っていくのだった。


 ──────それから一週間後。

「よーし、全員揃っているな」


 ライとカミオ達はここには来ていない。

 商売を始めるために、いろいろな方面に手続きをしなければならないとかで、残るという事だった。

 カミオ達もライの手伝いをするということで、全員残るみたいだ。


 なんだかんだで、うまくやってくれているみたいなので少し安心した。


 『サナティには外の世界をもっと色々見てきて欲しいので、連れて行ってあげてください』とライから頼まれたので連れていくことになっている。

 さすが妹想いの兄だな。

 

 レーナ達は、さすが日本人なだけあって、絶対行くと言ってきたのでセツナを保護者として同行させることにして、今回一緒に行く事になった。


 なので今回の遠征のメンバーは、次のように決まった。


 俺のチームが俺とガント、リン、シュウ、それにサナティの5人。


 カイトのチームはカイト、アイナ、ミラ、ザイン、ダンの5人。


 レーナのチームはレーナ、アーヤ、ショウタ、ユウマ、ダイキ、そしてお目付け役のセツナで6人。


 それから使用人達の中からペットのお世話係にマイニャ、俺らのお世話をしてくれるメイアとアイの3人が同行することになった。


 19人とかなりの大所帯である。


 今回の行き先は大陸を越えるので、そのまま仲間ペット達の背中というわけにはいかない。

 出来なくは無いんだが、体力がかなり削られてしまうからな。

 そのため、ガントが面白い物を作ってくれた。


「ガントこれは?」


「おう、大所帯になるのは分かっていたからな。作ってみたんだよ。これはな”ゴンドラ”っていうので、中に人や物を乗せて運ぶものさ」


「もしかして、これって?実装されてたんだな」


「おう、俺も驚いたぜ。スキルが上がったらレシピが浮かんだんだからな」


 "ゴンドラ"は"空の馬車"と言われていて、飛竜やドラゴン等の飛行生物が引く事が出来る空専用のカーゴである。

 ネットで流れていたLBOのイメージ映像では"ペガサス"がこのゴンドラを引いていた。


 魔法具を取り付けて浮くようにしてあるらしいが、起動に魔力が必要である。

 魔力を注がないと引っ張るペットに過大な負荷が掛かるので、魔力を注げるペットか、ゴンドラ側から供給する必要があるので注意だ。


「一先ず客室用2つと、貨物兼用1つの計3つ作ったから、交代しつつ引いてもらえばかなり早く着くと思うぜ」


「なるほどな。そうなるとあとは誰に引かせるかだけど、一番力の無いピューイとルベルが引けるか試してみるか。大丈夫なら誰でも引けることになるしな」


 2匹にそれぞれ専用の手綱を括り付けてから飛んで見る。

 

 手綱を握って魔力を込める、するとカーゴがフワッと浮き上がっていく。

 

 結果は大成功だ。

 ルベル×リンでも問題なく浮かび上がって、そのまま飛ぶ事が出来た。

 

 ちなみに3つのうち1つは貨物兼用のゴンドラだが、これはペット用のゴンドラなので、そっちにはマイニャとメイアが同乗する事になった。

 手綱はメイアが握ることになる。


 これで準備は整った。


 最初の引き手は、セリオン、ディアナ、へカティアの3ドラゴンになった。

 

 その日飛び立つ3等のドラゴンとそれに引かれる謎の空飛ぶ箱を見た城下の人々は、その光景に唖然としたという。


 これが【ウィンクルム】空輸団の初出動となるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る