第168話 マナー違反者

「──あの、取り乱してすいません。色々な事が重なって情緒不安定になってました」


 しょぼんとしながら、謝るセツナだが。


「ほんとだよ!?俺を見ろよ、ボロボロだぞ?」


 二人にあらぬ嫌疑を掛けられ、顔に引っかき傷やらぐーぱんちの跡やら残っている。

 SSランクになった俺にここまでの傷を負わせるとは、二人を侮っていたぞ…。


「ご、ごめんねパパ。でも、ちょっとパパも悪いと思うんだ!?」

「そ、そうですよ。変な疑い掛けられるような態度を取るのが悪いんです!」


 やらかした二人はバツが悪そうにしながらも、拗ねたような顔で言い訳している。

 しかし、ここで反論しようものなら火に油だと長い人生経験の中で経験済みである。

 男は黙って謝るのみだ。

 

「あー…俺が悪かったよ。今度からちゃんと説明を先にするから、機嫌直してくれよ。とりあえずさ、気分転換も兼ねてみんなでご飯いこう?ね?あれ…そういやセツナ、他の五人はどうしたんだ?」


「ん?ああー。あの子達はじっとしてられない質だから、外に狩りに出掛けてる筈よ。クエストは受けれないけど、素材の換金なら誰でも出来るからお小遣い稼ぎしてるんじゃないかしら」


 なんだ、折角だから昼飯に連れてってやろうと思ったのだが、いないんじゃ仕方ない。

 次に会ったときに、色々聞くついでにご飯に連れて行ってやろう。


「じゃあ、5人で行こうか」


 3人とも素直にはーいと返事をして、何処にしよっかと女子同士で盛り上がっていた。

 お互い軽い自己紹介しつつ、この町に詳しいミルバがいくつか行きたい店を提案していた。


 外で待っていたニケは不思議そうな顔で俺を見ていたが、何かを察したのか『主様も大変ですね…』と言うだけだった。

 目に見えない攻撃が、俺の心を抉ったのは言うまでもない。


 しばらくしてから行く店が決まったらしく、郊外にある少し高めのお洒落なレストランに向かった。


 セツナは最近戦う事もないため、普段着でいたのでそのまま向かう事になった。

 俺らも、ミルバを誘いに行く前に着替え済みである。

 さすがに、戦闘も無いのに防具付けて飯を食べる気にはならんしな。


 店の近くまでニケに乗って空を飛んでいく。

 あっという間について、俺らを降ろすとニケも人型に変身する。


「ここは良い香りがしますね主様。私も楽しみです」


「そういえば、ニケはレストランで食べるの初めてだよな?作法とか分かるのか?」


「はい、大丈夫ですよ。皆様の見て真似させていただきますから」


 あ、なるほど。

 賢い選択だな、長年生きているだけはあるな。


「主様、何か余計な事を考えませんでしたか?」

「きのせいだろう。さーいこう」


 ニケの言葉を遮る様に皆を中にエスコートする。

 いくつになっても、歳の事は言ってはいけないのは異世界も共通らしい…。


 店に入ると、すぐにウェイターがやってきた。

 俺のギルドプレートを見て一瞬ぎょっとするも、何も言わずに一番いい席へ案内してくれた。


 結果から言って、大満足だった。


 ミルバに好きな物なんでも頼んでいいよと言って任せてたら、いろんな物をこれでもかと頼んでいたが、どれも美味しくてルガーの料理に引けを取らなかった。


 逆に考えたら、一流店の料理に引けを取らないルガーの腕はやはり一流なのだなと違うところで感心した。


 一通り食べ終わって、女子たちは(ニケ含む)デザートに移行していた。

 そんな時だった。


「なんで私達は入れないのよ!」


「いいえ、そう言われましても。防具を付けたままでは他のお客様にご迷惑をお掛けしますので」


「なによ!着替えるったって、わざわざ宿屋なんて戻ってられないわっ」


 なんか、女の子とウェイターの争う声が聞こえる。


「レーナさん、一回帰りましょう?着替えてまた来ればいいじゃない」


「なんでよ!お金は払うんだから食べさせてくれてもいいじゃない!戻ったら往復一時間はかかるわよ!」


「そうだそうだ!俺らもレーナに賛成だ!もう、腹ペコだし戻ってられない!」


「どうしてもダメだって言うなら、こうだぞ!」


 一人が剣を抜き、ウェイターに突き付けようとしている。

 あれはダメだな。

 あからさまにやりすぎである。

 ん?というか、見たことある顔だな…。


「ひいっ!だ、だれかっ!」


 さすがに飯を食っている時に、傷害沙汰に巻き込まれていらないので瞬時に移動して、間に割り込んだ。


「…おい、お前ら。いい加減にしなさ…あれ?」


「なんだよおっさん!やろうっていうのか!?いってててて!!!すとっぷすとっぷ!」


 とりあえず、危ないので剣を持っている手を捻っておく。

 痛みに堪えかねて、少年は剣を落とした。

 それよりもだ。

 

「あら?そう…やっと戻ってきたのね、おじ様?」


「やはり、お前らか…。はぁ、ちょっと外に出なさい」


 有無を言わさないで、そのまま外に押し出す。

 流石に俺の実力も理解しているので、子供たちも反抗しなかった。


「いいじゃんか、防具つけて飯食べるくらいさー」


「そういうのも、時と場所によるんだよ。それに、一般人に剣を向けるとか普通に犯罪だからな?」


「えっ、でも…。グラムのおっちゃんとか普通にやってたし」


「はぁ。アレを見本にするなよ」


 それでも、さすがにまずいとは思ってたらしく反省はしていたので、とりあえずウェイターには金貨を握らせて無かった事にしてもらった。


「だいたい、おじ様が私達を放置してどっか行っちゃうからいけないんじゃないっ!」


「いや、ちゃんとお金渡していっただろ?セツナに言えば、ご飯くらい毎日自由に食べれるだろう?」


 外で話をしていると、どうしたのかとセツナ達も出てきた。


「あなた達だったの!?なんてことしてるの!」


「だ、だって、お腹空いてるのに入れれないって!」


「そんな恰好で来たら言われるに決まっているでしょう!」


 セツナに叱られて、必死に謝る男の子を余所にお嬢様っぽい口調の女の子は、どうもでいいけどお腹空いたわとため息をついていた。

 マイペースな子だなぁ。


「パパ、どうしたの~?」


 そして、思わぬ再会をここで果たすのであった。

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