第136話 試練と言う名の…

「えーと、それで鍛えるって具体的に何をするんだ?」


「なに、簡単なことだ。人型になった私はこの拳と幻術イリュージョンのみを使って貴様を攻撃する。その私を打倒し、従えて見せよ。ああ、もちろん貴様は何を使ってもいいぞ?どうだ、やるか?」


 挑発的な態度で煽ってくるイドラ。

 その姿は、人型になっても威厳がある。


 鋭い金色の瞳に、青白い長髪を後ろで纏めていて、服装は上半身裸で筋骨隆々で肩には分厚いマントを羽織っており、下半身は武闘家のような白い武闘着を履いていた。


「久々のエモ…挑戦者だ。ガッカリさせるなよ?」


「舐めるなっ!」


 そう言って、双剣でイドラに斬りかかった。

 しかし、またしてもその場には存在しておらず、ふわっと消えてしまう。


「はっはっは。その程度では、一撃も与えれないぞ?もっと、私を楽しませてくれ!」


 そう聞こえたかと思うと、まったく違う方向から拳が飛んでくる。

 咄嗟に回避しようとするが、反応が間に合わずに喰らってしまう。


「ぐあああっ!…くっそー、一体どこから攻撃しているんだ?」


 当たりを付けて攻撃してみても、回避されてしまい掠りもしない。

 このまま本体を捉えれなければ、倒すどころかダメージを与える事すら出来ない。

 

「ライトブラスト!」


 試しに範囲攻撃魔法を撃ってみるも…。


「そこにはおらんぞ?」


 という言葉と共に、またしても強烈なパンチでダメージを食らう。


 今まで仲間ペット達に依存してきたのは全く否定しないが、格上相手にこうまで手こずるとは正直思ってなかった。


 最近負けていないから、慢心がどこかにあったんだろうな…。


 向かって行っても一向にあたる気がしない。

 こうなりゃ、待ちに徹してカウンター狙うしかないか?

 でも、失敗すればダメージは半端ないだろう…。


 ふと、頭に【天使の塔】で会ったを思い出す。


 あの時の敗因の大半は、俺が弱いからだった。

 それを克服するために今ランクアップを目指しているのに、こんな所で躓くのか?

 

 …答えは否だ!


 よし、腹は括った。

 超痛いし超嫌だけど、くっそう、やってやるぞ!


 俺はダメージ覚悟でその場に足を留める。

 そして、相手の気配だけに集中した。


 さらに、錬気術オーラを普段は攻撃にしか使わないが、防御用に殻のようなものをイメージして展開した。


 そうすることで、範囲に入った相手をさら感知しやすくすることが出来る。

 またカウンターに失敗しても、多少のダメージは抑えることが出来るだろう。


「よし、どっからでも掛かって来い!」



 ───あれから1時間後

 俺は、地に伏していた。


 辛うじて、意識を保っているがもはや立つことも出来ない。

 あれから、何度殴られた分からない程殴られた。


 対して、こちらの攻撃は殆ど当たっていない。

 数発掠る程度だった。


 もちろん回復魔法を使って回復をしてはいたが、ついにMPも切れてこの有様だった。

 アーティファクトでMP回復しているのに、それが切れる。

 それがどういう事か分かるだろうか?


「はっはっは。まだまだだのう。よし、今日はここまでだ。明日また来るがいい。楽しみにしているぞ~?」


 そう言って、イドラの気配が消えていった。


 そう、おれは惨敗していた。

 成す術ない…まではいかなくても、相手を捉えるキカッケを掴めないでいる。


 これではいくらやっても、ダメージを与えれないだろうな。


「主様!大丈夫ですか?今治療しますね、少し待っててください」


「あちゃー、マスターに言うの忘れてたね、ディアナ」


「マズイですね…すっかり忘れてました。なんせ数十年以上も前の話だし」


 ニケとディアナとヘカティアが持っている魔法スキルで俺を治療してくれる。

 結構抜けているところがあると思ってたが、そういうのだけは覚えていて欲しかった…。


 これはヤバイな、勝てるイメージが全然ない。


「ユート、大丈夫か?こりゃ、また酷くやられたなぁ。相手が伝説の魔獣なんだ、生きてるだけでも凄いと思うぞ?」


 そう言って、ガガノアは慰めてくれるが全然嬉しくない。

 あの幻術を見破る方法を見つけないと、今の俺では勝ち目が無さそうだ。


「ひとまず、オレらの集落へ来てくれ。寝床くらいは用意してやれるからさ」


「く…う、ああ、済まないお言葉に甘えさせれ貰うよ、ガガノア」


 ニケ達の治療で起き上がれるくらいまで回復した俺は、体の痛みを堪えて立ち上がるとガガノア達の案内で彼等の集落へ向かった。


 外は既に真っ暗な夜だったが、彼らの庭というだけあって迷わずに集落に到着する。

 そこは簡素な家が立ち並ぶリザードマンの集落。


「おお、ガガノアよ!帰ってきたか。幻龍様があちこちで暴れていると聞いて心配したぞ!」


 この集落のリーダーらしき、大型のリザードマンが出迎えてくれた。


「そちらの御仁達は?」


「ああ、アーカニアの村で世話になった人たちだ。訳あって今日はここに泊まってもらうのだがいいか?」


「そうか、お前の世話になった者なら大事な客人だ。是非泊っていってくれ。何もないとこだがな、グハハハハ!」


 ここのリザードマン達は中々人(?)の好い者ばかりだった。

 念のため、仮面を着けていたが誰も気にする様子は無かった。


 道中も黙っていたカルマが口を開く。

 何やらずっと考えていた様だ。

 

「カルマ、何か分かったか?」


「ええ、分かったことがあります。そこで主よ、ひとつ提案があるのだが」


 まじで!?

 やっぱ、困った時のカルマ先生だよ!


 もうそこに賭けるしか術(すべ)が無い俺は、カルマの提案を聞くのだった。

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