第133話 森の英雄

「そこのイケメン、名前はなんて言うんだ?オレは、森リザードのリーダーやってるガガノアって言うんだ。ここらの冒険者の代わりに礼を言うぜ!」


「ほう…、この中ではそこそこやるようだな。我はバイスと名乗っている。遊びで手に入れた金だ、遠慮せずに堪能するがいい」


 こっそり<生物鑑定>してみると、言うだけあってそこそこ強いようだ。


 森の英雄ガガノア ランク:A+ 種族:リザードロード HP:3800


 HPが高いなぁ、俺の倍以上ある。

 てか、森の英雄ってすごい冠名ついているな。


 亜人や悪魔達は、人間よりも遥かにタフだ。

 同じランクだからといって、舐めてかかると大抵死ぬのは人間の方なのだ。


「バイスって言うのか。あんた等が何か困れば俺等が手を貸してやるよ、覚えておいてくれ!」


 そう言うだけ言って、ひゃっほー良い肉は久々だっ!とか言って肉を貪りに戻っていった。


 自分のテーブルに戻っても、あそこのバイスさんが奢ってくれたみたいだぞ!皆、感謝しよーぜっ!と言っていた。

 結構気のいい奴みたいだな。


 これで、しばらくは絡まれる心配は無さそうだな。

 こういうのは、絡まれる前にやっとくのが正解だ。


 店中がどんちゃん騒ぎになり、聞きつけた他の亜人たちも合流して宴状態だ。

 そんな中に、一人のが入ってきた。


「ん?なんだ、この騒ぎは…」


 いつもと違い、祭りのような盛り上がりを見せる酒場に驚いた、黒い鎧を着た騎士風の男が入ってきた。 

 何事かと先程の猫耳娘に聞いているようだ。


「ほう、そんな事が…。あいつらだな、どれ俺様が挨拶をしてやろう」


 なにやら偉そうな態度の黒騎士がこちらを目掛けて歩いてきた。

 俺達は面倒くさそうなので放っておこうとするが…。


「そこのイケメン、貴様も悪魔族か?なにやら羽振りがいい上にイイ女を連れているな。俺様は、バルバトスだ。この村に滞在するなら俺様に顔を売っておいた方がいいぞ?どうだそこの女。俺様とあっちで楽しまないか?」


 何処に行っても勘違い野郎はいるものだ。

 だが、俺らは無視すると決めたからには無視だ!


「…貴様、俺様が話し掛けているんだぞ?!答えぬか!」


 俺等に無視され、怒り出す騎士が拳を振り上げてテーブルを殴りつけようとした。


「ちょっと、煩いわっ!ご飯が不味くなるじゃないっ!」


「暫くそこでお眠りくださいね」


 ドゴンッ!バキンッ!という轟音がしたと思ったら、騎士が床にめり込んでた。

 騎士はどうでもいいけど、店を壊すなよ…。


「お、おいっ。あのバルバトスをのしちまったぞ」


「まじかっ!あいつ、Sランクだぞ!?」


 店の中が別な意味でザワザワしだした。

 見た目がまだ少女の二人にパンチのみで轟沈させられたのだ。


 見た目と実力が伴わない魔族たちにとっても、あんまりな光景だったみたいだ。


「あーあ、床に穴が空いちゃったじゃないか。カル…バイス。修理代を追加で払っておいてくれ」


「分かりました。おい、そこの娘。金貨一枚で足りるか?」


 カルマに呼ばれて駆けつけた店員は、金貨一枚を受け取りコクコクと頷いた。

 ただ、埋まっている相手を見て、顔から血の気が引いているみたいだ。


 そっか、こんなに埋まってたら修理も出来ないか。

 しょうがないな…。


「ニケ、ソレを引き上げて外にポイしてきてくれないか?」


「…触るのもおぞましいですが、しょうがないですね。少しお待ちを」


 そう言うと、片手で右足の足首を掴んでグイッと持ち上げて宙吊りにした。

 顔はよく見えないが、反応ないところを見ると完全に気を失っているようだった。


 ニケはそのまま店の入口まで運んでから、ぽいっと投げ捨ててきた。


「さて…、さっさと食べて行きましょうか。また、何が来るか分かったものではないですし」


 そう言って、どうやって食べているのか分からないくらいに高速に肉を食べ出したニケ。

 口に運んだと思うと、一瞬で吸い込まれて消えていく。

 どんな大道芸だよ…、というか、もっと味わって食べなさい。


 そんなニケを見て、慌ててへカティアとディアナも取り合いながら肉を食べていた。


 カルマと俺は、何事もなかったかのように酒を飲み始めて、それを眺めながらため息をつくのだった。


「こりゃ、今日は現地の確認だけで終わりかな〜」


「そうですね。あ、そうでした。今日の聞き込みの結果をお伝えします。……」


 その後は、カルマから今日の調査結果の報告を受けた。


 ここ最近の目撃情報が多いので、今は良く出る時期らしい。

 それを考えると明日には見つかりそうだな。


 カルマが目星をつけている場所を回って、移動ルートを確認はしてこよう。

 それで、明日には本格的にクエストにチャレンジしようと思う。


 そんなことも含めて、カルマと色々打ち合わせをした。

 カルマは、すっかり俺の参謀役になっているな。


 色んな知識を持っているので、いつも助かる。

 ニケも賢いのだが、意外と感情的な考え方をするのでこういうのはカルマの方が適任だ。


 双子はまだ付き合いも浅いし、そういう話にはあまり乗ってこない。

 頭がいいだけにちょっともったいない残念な子達だ。


 テーブルに乗った肉も食べきり、そろそろ出ようかという事で店から出た。

 床に穴開けたことを謝ると、それ以上に支払っていただいているので逆に感謝された。


 外に出ると先ほどの黒騎士はもうそこにはいなかった。

 近くの獣人に聞いてみたら、仲間の騎士が治療院に連れて行ったとのことだった。


 外から来たのに偉そうな顔して、いい気味だぜと言っていたのでこの村でも評判は悪いみたいだな。


「よう、さっきは馳走してくれてありがとうな。これから狩りかい?」


 店を出てすぐに、先ほどのガガノアが話しかけてきた。

 仲間のリザードマン達も一緒だ。


 一瞬、追い剥ぎかと思って身構えたがそうではなかった。


「そんなに警戒するなって。こんな時間から外に出るという事は、あんたらも”幻龍”か?」


という事は、ガガノアも探しに行くのか?」


「ああ、そんなとこさ。まぁ、俺等じゃ倒せないから被害が出ない様に警邏する為だけどね」


 そうか、俺らにとっては獲物でも普通の住人にとっては驚異でしか無い。

 運悪く遭遇すれば命の危険もあるもんな。


「それはそうと…、フードのあんた、もしかしてヒューマンじゃ無いのか?」


 な!ばれてた?!今ここで騒がれると不味いぞ。


 俺が警戒したのを察したカルマとニケが俺をかばう様に前に出て、リザードマン達に立ちはだかるのであった。

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