第126話 氷結竜《フロストドラゴン》

「じゃあ、依り代があれば収まるのか?」

『そうなりますね。ですが、難しいかと。なにせ永久氷晶じゃないと依り代にならないのですが、それがあるのはこの大陸で一番高い山である【ノーガス大山脈】の天辺にあるのです。時間がない今は取りに行くのは厳しいかと』


 ニケの言う通り、このまま山脈まで行って取りにいったとして戻ってくるほど時間の余裕はない。

 

「そうか…。確か山脈はここからだと東側か。高さを考えなければ通り道にもなるか」


「マスター!まさか、山脈の頂上行く気?あそこは”フロストドラゴン”の縄張りだよ?さすがの私達もあいつらを言う事聞かせれないよ?」


 ”ドラゴンロード”であるヘカティア達は、下位の竜族を従わせることが出来る。

 大抵のドラゴンは服従させる事が出来るらしいが、特殊な個体や固有の種族は難しいらしい。


 フロストドラゴンはそのどちらにも該当する固有種で、普通のドラゴンよりも細身で綺麗な氷のような鱗に覆われていて、吹くブレスは冷気のブレスだ。

 魔法も高位のものを使ってくるので、単体でもかなり強い。


 だからといって、このまま放っておいたらこの地域は壊滅的なダメージを負うことになりそうだ。

 帰りの事などを考えると、このまま放置は出来ない。


「なあ、ヒョウ。ここらで採れる特産品みたいなのは無いか?」


「んー、氷属性を持っている木材の【氷樹】とか、常温でも溶けにくい【氷晶】とか?…あ!あとはね、魔都でも人気の”一角雪ウサギ”の毛皮とかもあるね。うちの村でも結構街に卸したりしてたんだよ。俺も良く手伝っているんだ」


 えっへんと、胸を張って偉ぶっている姿は微笑ましい。

 見た目通り、まだまだお子様らしい。


 なるほど、どれも西の大陸【ウルガイア】では見たことないものばかりだな。

 いい商材になりそうだ。

 これなら、救う価値もあるかもしれないな…。


 LBOでは商売とかしてなかったから特産品とか気にしてなかった。

 けど、現実世界でもあるこの【アストラ】で生活していくなら、ユニオンも作ったことだし商売の事も考えた方がいいだろうと思った。


「よし、俺はユートって言う”流れの商人”なんだが、この寒気をどうにかしたら今言った特産品を俺に安く譲ってくれないか?」


「うえっ!?そんな事出来るのか?!やってくれるなら、是非もないよ!」


「よし、商談成立だな。原因はそこらの精霊から聞いたから分かった。解決までは1週間くらいかかるが、耐えれそうか?」


 流石に、そっちを優先してランクアップを失敗するわけにもいかない。

 だが、行きがけに永久氷晶を取ってくるくらいの余裕ならあると思うので、先に手に入れといてクエストが終わったら氷の神殿に潜るつもりだ。


「1週間か…。みんながどうなっているか心配だけど、どうせオイラにはどうにも出来ないよ。それにこの食料があれば1週間くらいならオイラは平気だよ。頼むよ、なんとかしてくれよ!」


「よし、分かった。じゃあ、終わったらここに知らせに来るよ」


「うん、よろしくな!」


 ヒョウと再会する約束をし、俺らは先を急いだ。

 色々と急がねばならない。


 気になるのは、わざわざ氷の大精霊を暴走させる行為に及んだ、ニンゲン達だ。

 王国から追い出されたとはいえ、わざわざそんな事をする理由が分からない。

 あまり良い予感はしないのだが…。


 とりあえず次の目的地は、【ノーガス大山脈】だ。

 目的は、もちろん永久氷晶を手に入れる事だ。


 さっき話をしていたフロストドラゴンとはやり合うつもりは無いが、いざとなればやるしかないだろう。


 戦力的にはさして問題ない。

 テイマーとしては、狙っている相手じゃないのに倒すのは忍びないが致し方ない。

 障害となるのであれば、それしか方法は無いのだ。


 ニケに乗っかり山頂を目指す。

 近づくほどに吹雪が激しくなり、視界が真っ白になって殆ど前が見えない。

 頼りはニケとカルマの探索能力のみだ。


「マスター、ずっと真っ白で何も見えないよぅ?」


「しかし、さすがニケさんとカルマさんですね。私達ではまともに頂上を目指すことすら困難です」


 へカティアとディアナは、はぐれる恐れがある為に一緒にニケに乗っている。

 二人くらい増えても大してた問題じゃないのだが、カルマに乗らないのは苦手意識が残っているからだろう。

 カルマも分かっているようで、特には口を出さなかった。


「主よ、この先に強い魔力を感じます。恐らくはフロストドラゴンかと」


「やはりいるか。回避出来そうか?」


「…難しそうですね。奴等の巣に例の【永久氷晶】があるようです」


 そう言われてよく見ると、ドラゴンらしき影を照らす強い光を放つ何かが見えた。

 恐らくはあれが永久氷晶だろう。


「あれを取るとなると、戦闘になりそうだな…」


「マスター、従属させることは無理だけど交渉する事は出来ると思うんだ」


「そうですね。やる価値はあるかと」


 双子が珍しく戦わない方法の提案をしてきた。

 これに乗らない手はない。


「そうしてくれると助かる。面倒な戦闘は避けておきたい」


「分かりましたマスター」


「うんうん、こう言う時くらいは役に立ってみせるよ。あ、念の為に竜玉を出しておいてね」


 そう言うと、二人はニケから飛び降りて竜化した。

 突如として現れた眷属とは違う竜の登場に、あたりのフロストドラゴンが警戒する。


『何者だ!ここが我等の住処と知っての行動か?』


 フロストドラゴンのリーダーらしい、一際大きな個体がふわりと飛び上がり俺らの行く手を阻む。


『我らは皇竜の娘、竜姫ディアナとへカティアだ』


『我らはこの地を治める大精霊の暴走を止める為にやって来た』


 双子がいつもとは違う雰囲気で話をする。

 金と銀のドラゴンロードが、他のフロストドラゴンを威圧しながら、目の前のリーダーらしき竜に話し掛けた。


『お前がここの長か?力あるお前なら今の現状を把握しているのだろう?』

 

『あの氷の精霊を止める為にはそこにある永久氷晶が必要だ。それを我らに託せ』


 さらに魔力を込めて相手にプレッシャーを与える二人。

 しかし…


『何を言うかと思えば、魔王の手に堕ちた裏切り者達ではないか。竜族の恥晒しが偉そうに何を言う。この暴走騒ぎもどうせお前たちの仕業だろう。どうしても欲しいのであれば、力ずくでも奪っていくがいい。出来るものならな』


 そう言うと、フロストドラゴンのリーダーがクオオオオオオオオンと鳴き声を上げた。

 すると、あたりにいた20頭ほどのフロストドラゴンが飛び上がり俺等を囲んだ。


『愚かな、我らに刃向かえばタダでは済まないぞ?やる気なのか?』


『ふん、魔王の手に落ちる愚か者など恐るるに足りん。そちらこそ、このまま帰れると思うなよ?』


 相手は既にやる気だ。

 しかも相手は20体だし、正直かなり旗色が悪いな。

 

 相手を生物鑑定してみると、


 フロストドラゴンロード 種族:氷結竜王 ランクSS HP:4200

 フロストドラゴン 種族:氷結竜 ランク:S HP:2200

 レッサーフロストドラゴン 種族:氷結竜 ランクA+ HP:1200


 ロードが1体、ノーマルが10体、レッサーが9体という結果だった。


 全力戦なら勝てる相手なんだろうな。

 …俺が途中で死ななければだけど。


 そう考えていたら、ニケが光りだした。


『ディアナ、主を預かって下さい。傷1つでも付けられたら、後でお仕置きですからね?』


 そう言うと、俺はディアナの背中に投下された。


「うおおいっ!やるなら先に言えーっ!」


『わわわっ、ニケさん無茶ぶりが過ぎます!!』


 辛うじて、背中で受け止められた俺はすぐにディアナの魔力障壁に守られて、攻撃してきたフロストドラゴンの攻撃を難なく弾いてくれた。


「ったく!発動〈アニマブーストⅣ〉!こうなったら、格の違いを見せてみろ!」


「「承知!」」


 二人は既に力を解放し、大精霊の姿になっていた。


 二人が真の姿を取り戻してから初めてのタッグだな。

 正直、年甲斐もなくワクワクしている。


 そして、二人による対フロストドラゴンとの戦闘が繰り広げられるのだった。

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