第127話 パーティーへ行く前に

 カイト達はランクアップ儀式を終えた後、そのままギルド本部に連れられてきた。

 

 そのまま何処かに行かれてパーティーをすっぽかされたら、カイト達が処刑されるだけでは済まない。

 職員たちは自分達の立場と、命を守るためにもカイト達を逃がすわけにはいかなかった。


 そんな事を知ってか知らずか、カイト達も大人しく付いて来ている。


「はぁ…、あの目がギラギラしている貴族の大人達に見られると思うと、背筋に悪寒が走るのです」


 ミラは、ため息を吐きながらそんな愚痴を溢していた。

 まだ、あの儀式の後の貴族達の舐めるように見る目線が忘れられずにいた。


 軽くトラウマになっていたミラだったが、そこにさらなる追い打ちが掛かる。


「お待たせしました。お着替えの用意が整いましたので男性はこちらの職員に、女性は私達について来てください」


 一同は、その言葉を聞いて固まった。

 え?着替えって何?という顔だ。


「このままじゃ駄目なんですか?」


 アイナは恐る恐る聞いてみる。


「そんな無骨な格好で、踊るつもりですか?!そんな格好でパーティーに出席させたら、我々の首が飛びます。お身体も綺麗にしますので、すぐ来てください」


 やって来た職員に促されて、一同はそれぞれ別の部屋に連れてこられた。


 各自、装備掛けに自分の外された装備品が掛けられるのを見送りながら、半裸状態にされて体中を綺麗に拭われた。


 唯一の救いは、拭ってくれたのが女性だった事だろう。

 さすがに男性に肌を触れられるのはカイト達でも嫌だった。


 全員着替えが終わって、1つの応接間で待たされる。

 この後は、馬車に乗って王城へ向かうらしい。


「俺、こんなの初めて着たわ~」


「俺もだよ」


 ダンとザインは、そんな気の抜けた事を言いながら自分たちの姿を鏡で見ていた。

 カツラこそ付けていないが、中世の世界にいる貴族の様だ。


「なんか、恥ずかしいな」


 思わず呟いたカイトにつられて、全員顔が強張って赤くなる。

 内心では思っていたが、口に出さないでいたのに言うなよって思うのであった。

 

「お待たせしました、行きましょう」


 暫くして、案内係兼同行者のマーズがやって来た。


 グランドマスターは、先に城へ行っているらしくマーズさんが案内してくれるとのこと。


 外に出ると豪奢な2頭立ての馬車が待っている。

 テレビでしか見たことが無いような、白塗りに金の装飾がされているやつだ。


「すごいね!こんなのに乗れるなんて、お姫様になった気分」


「そうなのです。こんなのアッチにいた頃なら想像すらしないのです」


 女子二人は、綺麗な刺繍が施されたドレスを着ている。


 アイナはシャンパンゴールドのドレスで、ミラはエメラルドグリーン色だ。


 普段は装備品に隠されている女性らしい体のラインがハッキリ出て強調されて、よりそれぞれの良さを際立たせていた。


 普段は見せることの無い胸元が、空いている事でより強調されており、ドレス着た二人に男性陣は目線を向けれなかった。


 ミラは、アイナと自分を見比べてため息をついていたが、決して無いわけではなく、平均的というだけだ。


 その為、本人が思っている以上に男性にはウケがいいようだった。


「ミ、ミラのドレス姿凄く似合ってるよ」


 そう、どもりながらもザインが褒めていた。


「ええっ、そ、そんなこと無いですよぅ。…でも、お世辞でも言ってもらえて嬉しいのです」


 褒められて顔を赤くしながらも、珍しく笑顔で答えるのだった。

 その笑顔を見て、ザインの方も顔を赤くする。


 いや、純情かっ!?と、ユートがその場にいたなら言っていたことだろう。


「さぁ、早く乗ってくださいね」


 カイト達は、マーズに催促されて馬車に乗り込むのだった。


 馬車が発車し、大通りに出ると歓声に包まれた。


 何事かとカイト達は外を見渡して見ると、埋め尽くさんばかりの街の人々が『新たな英雄が生まれた!』と言って、カイト達に声援を送っている。


 その中には黄色い声援も混ざっている。


 1番の人気は、やはりカイトだ。

 リーダーと言うのもあるが、中々なイケメンでもあるので女性人気がとても高い。


 そんな声を聞いて少し頬が緩んだカイトを見つけ、拗ねたようにアイナが腕をつねり上げた。


「いててっ、何するんだよ!?」


「さぁ?何の事ですか?」


「急に、余所余所しくしないでくれよ。そっちだって、男たちから熱烈な声援を受けてるじゃないかっ!」


「私は、そんな事で顔は緩みませんけど?」


「うくっ、…ご、ゴメンナサイ」


 既に尻に敷かれているカイトを見て、皆は爆笑するのだった。


 その後は、『希望を与えるのも冒険者の務めですよ?』とマーズに催促され、ぎこち無い笑顔を作りつつも、全員で街の人達に手を振り返した。


 そんな調子でずっと愛想を振りまいたカイト達は、城に着く頃にはすっかり疲れ果てていた。


 城の中で馬車から降りると、今度は城の侍女達に案内されて控室に入った。


 すぐにパーティーと言う事だが、パーティーの主賓として呼ばれているので、お呼びが掛かるまでそこで待てという事だった。


「色々と段取りが多くて、面倒だなぁ…」


「バカダン!こんな城の中で言わないでっ。皆思ってても口にしない理由分かるでしょ?」


「はいはい、アイナ様の言うとおりです」


 余計な事を口走るダンに注意するも、軽口と共に流されてしまう。

 しかし、いつもの事なのでアイナも苦笑いするだけでそれ以上は言わなかった。


 いや、それ以上にこれからもっと疲れる事が待っているのだ、ここで余計な労力を使いたくなかっただけかもしれないが…。

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