第117話 ユートのランクアップクエスト

 酒場に来ると、一斉に視線が集まる。

 冒険者の本能なのか、自然と入ってくる人間を確かめる癖がみな見についているようだ。


 酒場の中では、さすがにフードを被せたままには出来ない(逆に怪しい)ので、ニケは精霊魔法で視界を阻害する結界を自分の周りに展開して、注目を浴びないように細工した。


 そのまま、酒場に入り4人で飯を食べる。

 双子はすぐに肉を頼み、そのあとも結構がっついてた。


 ニケも同じくお肉を食べていたが、なかなか優雅な仕草で感心するほどだった。


 俺もビールを飲みながら、肉とポテトを食べていたが何故か絡んできた奴がいた。

 この街の冒険者らしいが、何か用だろうか?


「おい、おっさん!若い女連れていい気になってんじゃねーぞ!ウイッ…オレ様が可愛いがってやるから、一人よこしな!」


 うーん、言ってる意味が分からんな。

 良く見たら顔が赤い、酔っぱらいか。


 つか、このモノ扱いな言い方を実際にされるとカチンとくるな。


「なんだ若僧。相手見て物言えよ?」


 少し威圧を掛けながら話し掛ける。

 しかし、なんの冗談か分からないがニケを見てニヤけた面に変わり、この女でイイとか言って連れて行こうとした。

 

 流石に頭に来たので、首根っこを掴まえて放り出してやろうかと考えていたら…。


「オジサン、うるさいんだけど?」

「そうそう、相手見て言って欲しいんだよね?」


 双子が同時にその男の腕を掴んだ。

 メキメキメキッと音がしそうなほど強い力で握られた男は、うぎゃあっ!と悲鳴をあげる。


 その手をなんとか振り解いてから双子を睨みつけて、さらに因縁をつける。


「て、てめぇ。Aランクの俺にこんな事をしてタダで済むと思ってるのかっ!?」


 男のプレートを見ると確かにAランクのようだ。

 なるほど、しばらくSランクを輩出していないとなると、Aランクが幅を効かせるようになってくる訳か。


 だが、絡む相手を間違ったな。

 

「はぁっ?Aで、偉そうにしないで欲しいんですけど?」


「本当ね、へカティア。うちのマスターは、Sランクだと言うのに…」


「はあっ!?何言ってるんだ!Sランクの無名のおっさんなんて居るわけねーだろ……え、はぁっ?!」


 取り敢えず、面倒なので俺のプレートを見せてやる。


 ギルドのプレートは特殊なものなので、複製したり、偽造したりは出来ない。

 なのにだ…。


「そ、そんなん偽物だ!おい、てめぇ、犯罪だぞ?いーのか?チクったら、パクられるぜ?」


 そんなやり取りを聞き付けて周りに冒険者が集まってきた。

 みな、ユートの事を知らないので男の言う事を半分ほど鵜呑みにして、やっちまえーっとか、ボコボコにしちまおーぜとか勝手な事を言っている。


 そんな様子を、じっと我慢するかのように耐えていたニケだったが…。

 ついに我慢の限界を超えたようだ。

 バンとテーブルを叩いた後、すくっと立ち上がって声荒げて言った。


「いい加減にしなさいっ!下がれ、下賤な者共。我が主様をこれ以上愚弄するのであれば、この場で消し炭にしますよ?」


 ニケがその美しい顔で飛びきりの笑顔の上に青筋を立ててキレていた。


 ニケの周りには漏れ出た魔力が雷となってパリパリ言っている。


 勘のいいやつは、やべぇっ逃げろっと、すぐ逃げようとしたが時既に遅し。

 放出した電撃により、俺らと店員以外の全員が放電に直撃しその場で感電して失神するのだった。


「ふう、これで少しは静かになるでしょう」


 と、スッキリした顔で食事を再開するのだった。


 数分後に意識を取り戻した冒険者達は、触れてはいけない相手に喧嘩をふっかけたと悟り、その場で土下座したのだった。


 その日のうちに、何故かユートというおっさんが連れている美女たちがヤバいから手を出すなと、知れ渡る事となった。


 その日は、双子が一部屋、俺とニケが一緒の部屋で泊まることになった。


 ニケは私は寝る必要が無いんですけどねと言っていたが、寝れないわけじゃ無いみたいなので、ベッドで寝るように言った。


「主様…折角ですから、夜伽でも致しましょうか?」


 と言われた時は噴き出したが、丁重にお断りした。


 目の前に、女神のような美貌とスタイルを完備した存在がそんな事を言うなんて露にも思わなかったので、一瞬グラついたが今後の関係性を考えるとOK出来るわけがない。


 確かに、ここ数ヶ月そんな事をしていないけどさ、未練なんか無いからね!

 …タブン。


 翌朝、すぐにギルドに向かった。


 艶めかしい姿をしたニケがベッドに転がっていたが、俺は何もしていない。

 いや、本当にしていないよ?


 ギルドに到着すると皆が忙しいそうに働いていた。

 とうやら、カイト達のクラスアップの準備が忙しいらしい。

 

 取り敢えず、ドルガーはいるかと聞いたら訝しげに聞いてきたので、プレートを見せて催促する。

 職員は慌てて、奥にドルガーを呼びに行ったようだ。


「なんだ。用事はもう終わったのか?で、クエストを受けに来たか?」


「ああ、そんなとこだよ。ランクアップクエストを受けたい。手続きしてくれ」


 既に準備が出来てると言うことで、早速奥の部屋に通して貰った。


「その前にだ、その女何もんだ?さっきからヤバい感じがビリビリ感じられるんだが?」


「んー、あんたには隠してもしょうがないかな。名前はニケ。嵐の精霊だよ」


 大精霊とは言わなかった。

 そこまで言わない方が都合がいいかと思ったからだ。


「な、精霊だと?お前精霊術師エレメンタラーだったか?」


「いや?スキルはあるけど、本職は動物調教師アニマルテイマーさ。成り行きで、飼ってたペットが進化して精霊になっただけだ、気にするな」


「いや、従属動物ペットが進化とか聞いたことないぞ?一体どうやったんだ」


 ドルガーには珍しく、驚きの表情を顕にする。

 確かに、LBOのときにペットが進化したり種族が変わったりするなんて聞いたことはない。

 

 ニケやカルマが世界の統合に関わる部分なので、さすがに説明出来ない。

 なので。


「そんなの、…企業秘密に決まってるだろ。まぁ、俺も聞いたことない事については同意だ。俺も、そうなるとは思ってなかったからさ」


「確かに、そんな事を公にしたら大騒動が起こるな。秘匿するのが一番か。まぁこれからSSダブルエスになるんだ。とんでもないヤツを連れていても、おかしくは無いかもな。安全なんだろ?」


 それよりも見た目が人間なだけの人外が、王都で暴れたらそれこそ大事件だ。

 そっちの方が気になる様だった。


「ああ、問題ない。万が一、暴れるような事があった場合は俺が止めるさ」


「それならもう何も言わん。本題に入ろうか。まず、これがランクアップクエストのプレートだ。見たことはあるだろ?」


「ん?こんなのだったか?ああ、カイトの時もこんなのだったな」


「Sランクなのに、なんで知らないんだ?わかっているとは思うが失くすなよ?これもアーティファクトの1つらしいからな」


 なんでも、古来より高位のランクアップクエストのクエスト書は、この特殊なプレートを使うらしい。

 というよりも、これを元にクエスト書が作られたんだとか。


「これで受けたクエストが達成された状態になった場合だけ、ランクアップを受けれる。達成したら儀式は隣の教会で行うから、終わったらすぐギルドに連絡して来い。こっちにも準備があるからな」


「ああ、分かったよ。取り敢えず内容確認したらすぐに出発したい。すぐにやってくれ」


「ふん、そんな簡単な内容じゃ無いぞ?クエスト内容を見て諦めた者が過去何人いたか…」


「俺は諦めないよ。そういう性格なんでな」


 俺に諦めるという選択肢は無い。

 この世界で生き抜く為には、これだけは達成しないといけない。

 既に覚悟は決まっている。


「どっちかというとだ、対象の敵よりも場所が問題になる事が多い」


「場所が?そんな辺境地に行かないといない奴が対象なのか?」


 正直言って、この大陸で行けない所は俺には無い。

 だから心配はしていなかった。


「こっちに来い」


 そう言うとドルガーは、クエスト発行するためのカウンターまで俺を連れてきた。

 そこでプレートを置き、俺に判定の水晶に触れさせた。


 カッと光り、それと同時にプレートも光りだした。


「よし、うまくいったな。だが、本当に条件を満たしているとは、見掛けによらん奴だな」


「軽く失礼な事言われている気がするが、褒め言葉と受けとくよ」


 光が収まった後に、文字が刻まれたプレートを渡された。

 そこに、クエストの内容が刻まれていた。


「なっ?!おい、ここに書かれてる場所、東の大陸じゃないのか?」


「ああ、そうだろうな。俺も遥か昔に受けようとしたが、クエストを達成出来なかった」


 そこに書かれていのは…

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