第96話 遅れてきたボス

 皆には、今目の前にいる悪魔はカルマで、双子の少女は新しい力を得たカルマが支配したことを説明した。


 途中まで俺が操られているんじゃないかと心配していたが、双子が嫌々ながらもごめんなさいと謝ったことで信じてもらえた。


『一時はどうなるかと思いましたが、カルマ、なんとか力を制御出来たようで何よりです』


「ふん、当然だ。元々自分の力だからな。だが、主の加護がなければ自我を失っていたかもしれないな」


 カルマは、自分の体と漲る力を確かめながらそう言った。


 そもそも、なんだ闇の大精霊って。

 悪魔じゃなかったのかよ!って思っていると…。


 奥の方の魔法陣が邪悪な光を放ちだした。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴという音と共に、一体の巨大な悪魔が出現する。


「あっちゃー、間の悪いやつだなー」


「今更出てきても遅いって言うの。…まぁ出て来てた所で瞬殺されちゃってただろうけどさー」


 双子がもはや投げやり気味に愚痴っていた。

 だが、消滅を免れたせいか余裕が戻ってきたようにも見える。


「あ、カルマ!私達がアイツやっつけてやろうか?〈魔力解放〉してくれたら、サクッとやっちゃうよ?」


「そうそう!私たちの鬱憤をアイツで晴らす…じゃなかった、カルマの役に立つ所を見せてあげるからさ!」


 ぽろっと、本音を言うあたりが若干抜けている気がするが、実力は本物だ。

 さっきのゲームのせいで結構魔力が乏しいし、回復したとはいえメンバー達もボロボロだ。


「ダメだ。お前たちには後でやって貰う事があるからな。そこで見ていろ」


「えー、ぶーぶー。ちょっとくらいいいじゃん~」


「そうだそうだ!役に立つって言ってるんだからやらせてよ~」


「ん?我に逆らうのか?」


「「いいえ!何も言ってないです!」」


 この身の代わりようは、もはや呆れるだな。

 ということは?


「我がやる。お前たちにも見せておいてやろう。歯向かった場合にどうなっていたかを」


『クハハハハハハハハハ!我は【ロードオブアビス】也。貴様たちだな、我が居城に踏み入れた愚か者は…。私自らの手で、この世から消し去……、そ、そこにおられるのは…カルマ様!?なぜこんなところに!?それにディアナ様、ヘカティア様まで!?』


 出現した【ロードオブアビス】は今までの事は知らない様で、目の前にカルマや魔王幹部達いることで動揺を隠しきれなかったようだった。


「ふん、貴様も仕事だろうが、どうせ契約により倒されても魔力が溜まればまた復活するのだ、今は大人しく消されるといい!!〈|混沌の終焉≪カオスエンド≫〉」


 左手を相手に翳≪かざ≫すと、黒い球体出現し相手を包み込んでそのまま上空に浮いていく。

 そして、一気に収縮して破裂した。


 ───ガアアアアアアアアアアアアア………!!!!


 その後には砕け散って塵となった【ロードオブアビス】の残骸と、消えていく断末魔だけが残っていた。


「あはははははは、命拾いしたねお姉ちゃん…」


「うへぇ~、本当だねーヘカティア。しばらくは大人しくしとこ!」


 二人も、たったの一瞬で消滅させられた元部下の末路を見て改めて逆らうべきじゃないと感じたようだった。


「さて、主よ一度帰りましょうか。…このままの姿だと色々不都合がありそうですね。道中はこの二人に任せますので、我はナイトメアの姿に戻りますね」


 カルマはそう言うと、全身を闇で包みこみ悪魔≪ナイトメア≫の姿に戻った。

 しかし、少し姿形が変わったようだ。


「ふむ、姿変化したのだな。我は先ほどより【ナイトメアロード】に進化したようだ」


 今までよりも一回り大きくなり、更に一対の黒い翼が生えていた。

 まるで黒い大きなペガサスだ。

 頭にも、さっきまでと同じようにうねりのある大きな角が生えていた。


 ステータスを確認してみる。


 カルマ ランクSS 種族:悪魔族 HP:4444/4444〔従属〕


 という事になっていた。

 そしてアイコンも元の状態に戻っていた。


「前よりも格段にステータスが上がっているし、姿もカッコいいな」


「主よ、勿体なきお言葉。これからも更に精進いたそう」


『私も、早く力を付けないと差をつけられてしまいましたね…」


 とりあえず、ボスのドロップ品を拾って部屋を出た。

 メンバーも、ちょっと姿が変わったが元のカルマに戻ったので一安心したようで、落ち着きを取り戻した。


 カルマの姿が変わったことで、もしかしたらと反旗を翻そうと双子が逆らおうとしたようだが、カルマの『黙れ』との一言に逆らえなかったのを見ると、無理なようだった。


 さすがにちょっと可哀想なくらい落ち込んでたが、自業自得なのでしょうがないと思う。


 しかし、ボス部屋を出てから城の外に出るまでに双子は大活躍だった。


 さすがに元魔王幹部だった二人だ。

 しかも双子なので、息がぴったりで相手の反撃を受ける前にドンドン倒していった。


「あっははー!なんか丁度いいストレス発散かも~!楽しいね、おねーちゃん!」


「うんうん、なんか途中からやられっぱなしだったもんねー。魔力は落ちたけど、逆に丁度いいくらいだねヘカティア!」


 魔法は殆ど使わずに、拳だけで戦う姿を見て、カルマの『闘気法』と同じことをしているんだと気が付いた。

 なるほど、上位魔族は結構習得しているんだなと感心した。


 

 ──

 城外まで問題なく戻ってきた。

 カイト達は帰りに出番がなくて残念なような、ほっとしているような顔をしていた。


 城門を開けて外に出ると、そこにリン達が待っていた。


「あ!帰ってきた!!パパ!おかえりなさ~い!」


 そう言いながら、俺を見るなりすぐに飛びついてきた。


「おう、リンただいま。ケガとかしてないか?」


 リンを抱きしめて、頭を撫でながら大きなケガをしていないかをチェックした。

 …うん、大丈夫そうだ。


「うん、大丈夫だよ。…それにしても、随分時間が掛かったんだね?なかなか出てこないし、途中すっごい嫌な感じがしたから心配してたんだよっ!」


 外にまであの気配が漂ったか。

 確かに、本能的に逃げたくなるような感覚だったからな。


「よお、やっと帰ってきたか。さすがに3時間も掛かるとは思っていなかったぜ。無事で何よりだ。…で、そいつらは誰だ??」


「ああ、話せば長くなるんだが…。まずは全員キャンプまで戻ろう」


「賛成です。ここだと落ち着いて話せませんし」


 と、サナティも賛同してくれた。



 ───入口前キャンプ


 俺たちは全員、まっすぐキャンプ前まで戻ってきた。


 そこで、中であったことを隠さずに説明をした。

 一応、カルマにも話していいと同意は得ている。


「な…そんなことが…」


「じゃあ、そのお二人は元魔王幹部ということなんですね。なんという事でしょう」


 ライとサナティも驚きを隠せない様だった。

 

「俺達が倒れている間にそんな事があったんですね」


「中に入ってから恐怖しか感じてなかったですがね」


 とザインとダンが言っていた。


「それで?これからどうするんだ?その二人は、拠点に連れていくのか?」


「ああ、ガント。この二人は連れていくよ。ギルドには当然黙っておくがな。カルマが居る限りはこの二人も悪さは出来ない。もし、やらかしたらカルマとの契約上、死に至るからな」


 ただ、口で反抗しただけで石化するくらいだ。

 さっきも実感したようだし、余程じゃないと暴れたりもしないだろう。


「そうだな…だが、もっと保険が欲しいな」


 ガントが珍しく、悩んでいる。

 なんかお前らしくないぞ、と声を掛けようとした時にカルマがひとつ提案してきた。


「その事でなんですが、主よ、一つ試したいことがあります」


 ───この提案がのちの事に大きな影響を及ぼすなど、この時は誰も思ってもいなかった。

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