第88話 召喚されし黒い馬

 一旦2チームの全員が集まり、固まるようにして左右を警戒しながら通路を進む。

 途中でガーゴイルが数匹出てきたが、前衛が慣れた動作で処理をしていった。


「街へ入ってから、まだナイトメアが出てきませんね」


 と、サナティが精霊魔法で辺りを探知しながら進み、それらしき魔物が現れないと心配する。


「ユートの話では、明るいうちは出てこないらしい。もうすぐ日が落ちるから油断はしないようにな」


 ガントがこれからの時間に出てくると話をしていると、建物の向こう側に旧王城が見えた。

 入口は見えないが、だいぶ近づいていることが分かる。


 よく見ると、夕焼けをバックに上空で戦っている二人の飛竜に乗った冒険者が見える。


「あれは、ユートさんとカイトさんの二人ですね。すごい、本当に二人だけでエルダーデーモンと戦ってる」


 とライが遠目で見て、圧倒しているように見える二人を見て感心していた。


「人の事を褒めている場合じゃないぞ?俺達も負けてられないんだからな」


 ダンが、実力の差を見せつけられて自分を鼓舞するように言った。

 仲間たちも、それに同意するように頷いて気を引き締めなおした。


 丁度、昔は広場として使われていた場所であったであろう場所についた頃に日が落ちた。

 街灯が無いため辺りは薄暗く、頼りないこの世界の月が淡くあたりを照らしている。


「一旦、視界を良くする魔法を掛けるのです!…アークナイトサイト!」


 ミラが夜目を利かせる魔法を範囲指定で掛けた。

 これから、夜の戦闘となる。

 全員より周囲を意識して警戒をする。


 よく見ると、広場の中心に大きな魔法陣が描かれている。

 昔はそこに噴水でもあったのだろうか。

 魔法陣の周りには瓦礫や石像だったらしい残骸が転がっている。


 しばらくすると、魔法陣が光り出して一匹の悪魔が生まれた。

 どうやらそこから悪魔達が生まれているようだ。


 出現した悪魔を見ると、黒い馬の形をしている。

 まぎれもなく探していた相手だ。

 しかも、出現した。


「おいおい、ナイトメアって2匹も出てくるのか?」


「いいや、聞いたことないな。どうなっているんだ?」


 と仲間たちが騒いでいたが、


「こりゃあ、好都合だな。二手に分かれて2匹を分断する。分断が終わったらリンとシュウに戦わせるぞ!ダメージは与えるなよ!」


 とガントが素早く指示を出した。


 グルオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 と見た目に反して、馬の嘶きではない雄たけびに近い鳴き声を上げた。


 どうやら、こちらに気が付いたようだ。

 ゆっくりと歩いてこちらに近づいてくる。


「よし、ライ達は右だ。リンはその後方に付け!合図したら立ち位置を入れ変えろ!ダン達は右側だ。シュウはダン達の後ろに行け!」


 それぞれのチームに引き寄せられて、ナイトメア達が二手に分かれた。

 それを見てガントはサナティとゲンブを連れて真ん中へ陣取る。

 完全に左右に分かれたのを見て、ガントは合図した。


「よし、俺らの方を背にして入れ替わるんだ!入れ替わったら各チームこっちに合流しろ!」


 合図に合わせて、リンとシュウがそれぞれ前に出た。

 その少し後方に各チームが支援する形になりつつガント達を合流した。


「これで、舞台は整った。あとは二人次第だな。各自、中央から出現する敵を相手するぞ。気を緩めるなよ!」


 ユートが居ないことですっかり指令役が板についてきたガントだった。


 …それにしても、と思っていた。

 LBOの時に素材集めてで同行したことがあったが、気がするが…。


『始まったみたいですね。同胞が出現したようですよ、カルマ』


「ふん、あのような未熟な魂しか持たぬ者など、同胞とは言い難いな。だが、主と最初にあった我もあの程度だったのだろうな…」

 

 カルマとニケはフロアの地上からではなく、廃墟になった建物の屋根を飛び交い偵察をしていた。


 ガントが敵が少ないと感じたのは、カルマとニケが上空や屋根から狙っていた悪魔を根こそぎ倒してたからだ。


「主に会わなければ、今このような力を持っていないと考えると、我は幸運だな」


『そうですね。主様は愛情を持って育ててくださいました。そうでなければ、Sランクでも最上位のステータスまで上がることは無かったでしょうね』


「全くだな。さて、主が仕事に集中出来るようにもう一度ここらの敵を屠ってこようか」


『そうですね。デーモンクラスなら、練習相手くらいにはなりますしね』


 そう言って、ふたりはまた闇に溶け込んでいった。



 ─────────

 その頃。


「お、あそこに皆が見えるな。…うん、うまく遭遇出来たようだな。てか、2匹出たか?…っと、あぶね」


「ちょっ、ユートさんよそ見しながら戦わないでくださいよ!!」


 ユートとカイトは、時たま休憩を取りながら(飛竜の体力が持たないので)、エルダーデーモンを討伐していた。


 休憩する時にドーラがいるキャンプまで戻るので、集めた素材などはキャンプに設置した回収ボックスに収納している。


 キャンプでカイトの傷を癒しながら水分補給と軽く干し肉などを食べて休憩し、その間にドーラが飛竜たちに餌や水を与えたりと世話をしてくれる。


 そんな事を何度か繰り返し、討伐したエルダーデーモンの数は20体を超えた。

 途中、ニケやカルマが上空で戦っているのを見て、なるほどそういう支援の仕方もあるかと納得した。

 そのおかげで、他のメンバー達はだいぶ余裕を持って戦えているはずだ。


 しかし、彼らが数分掛けて倒しているデーモンが、一撃のもと葬り去られているのを端から見て、『なるほど自分たちはああいう風に映っているんだな』と苦笑いした。


 そして今も、Sランクのエルダーデーモンと戦っているわけだが、二人でやっても数分で倒せるようになってきた。

 カイトが順応してきたおかげで、かなり効率良くなってきたと言える。


 今は、ほとんどの攻撃をカイトに任せて、俺は囮役をやっているわけだが…。


「ユートさん!それは囮じゃなくて、単なるよそ見ですって!」


 と怒られる始末だ。

 えー、ずっと同じのと戦っているせいで、正直飽きてきた。


 ちょっと本気で戦ってみるか。


錬気術オーラ発動!いくぞ!〈錬気斬オーラスラッシュ〉!」


 エルダーデーモン目掛けて、高速で降下しつつ双剣に青いオーラを纏った状態で攻撃した。


「雷の精霊よ、彼のものに鉄槌を下せ……サンダーボルト!!」


 と振り向きざまに雷魔法を唱え、すぐに神秘術ミスティックで聖と爆発を付与した矢に更に錬気術オーラを発動させて3本の矢を撃ち放った。


「喰らえ!〈錬気撃オーラショット〉!」


 通常の3倍以上の速度で矢が飛んでいき、すべて頭に命中する。

 そのまま爆発し、エルダーデーモンの頭を吹き飛ばした。


 エルダーデーモンは、そのまま落下しながら塵となっていった。


 素材を空中でキャッチしつつ、ストレージにしまう。

 今の自分の攻撃をフルで活用すると、Sランクの悪魔すら圧倒出来てしまうな。

 これは、みんなのランクがA以上になったら、ドラゴン狩りがいいかな?


 そう考えながら、みんなの給料を稼ぐために次の獲物を探す事にした。 


「ユートさんって、本当にテイマーなの?」


 というカイトの独り言は置き去りにして。

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