第71話 ただのテイマーだけど?

 ギルドへ到着するなり待っていたかのようにゼオスが出迎えた。


「本当に帰ってきたか!流石だなぁっ!…おぉ!全員無事だな!」


 俺らを見つけるなり、声を掛けてくるゼオス。

 相変わらず声がデカイやつだ。


 どうやら、来る途中に俺らを見かけた職員が先に報告しに来ていたようだ。


「ああ、なんとか間に合ったよ。うちのこ達は最高だからな!」


 自然と満面の笑みで言った。


「ほんと、凄まじかったです。ニケさんもカルマさんもユートさんも」


 アイナが思い出しながら呟いた。 


「おう、そのようだな!じゃあ詳しく話を聞きたい。奥の部屋で話を聞かせてくれ。ミルバー!」


 ハイッ、ギルマス!と奥から出てきたミルバは、俺を見つけて無事だったんですね!良かったです!あ、では皆さんこちらへ。


 カルマ達は外に待機させて、自分達は奥の部屋へ案内された。


「まずは、カイト君。仲間を無事に救出出来た事本当におめでとう。そして、ユート!良くやってくれた!今回の件はクエスト報酬以外にギルドからも僅かだが報奨金が出る。ギルドの代表として心より感謝する。若い貴重な戦力を救ってくれて有難う!」


 ゼオスから偽り無い感謝を受け取る。


「さて、カイト君。今回の救出までについて詳しく聞かせてくれ」


「分かりました。出発した後…」


 そこからカイトとアイナによる俺らの救出劇が語られた。


 尋常じゃない速さで地下3階までを殆ど俺とニケ、カルマだけで突破した事。

 階層ボスがあっさり倒されたこと。

 瀕死の3人を全快まで、回復した事。

 そして、戻ろうとして扉が開かずに地下4階ボスまで攻略した事。

 ボスが、天井に貼り付けられたまま絶命させられた事まで。


「普通の冒険者に頼んでいたら、3人の命は無かったでしょう。ユートさん達だからこそ間に合ったと断言できます」


 というアイナの言葉で話を締めた。


「はー、なんと言うかトンデモねーなユート。俺の知る限り、この町での歴代トップ冒険者でもそんな事出来ねーぞ?お前達、本当に何モンなんだ?」


 胡乱な目でこっちを見てきた。


「ただのテイマーだけど?」


「んなわけあるかっ!!」


 何故か全員頷いている。


 失礼な奴らだ。

 こちとら助けてやったというのに…。


「あー、それとユート。例の貴族達だけどボロボロになって戻って来たぞ?お前に伝えろと言われている事がある」



 ───ユート達が戻ってくる1時間くらい前。


「ゼオス!ゼオスを呼べっ!!」


 ギルドに突然ある貴族が飛び込んできた。

 例の屋敷の持ち主デイブだ。


 ギルド職員は、慌ててギルドマスターを呼びに行った。

 数分後にゼオスがやってきた。


「なんですかい、デイブ殿。これでも俺も忙しいんですが?」


「なんだも何もあるかっ!私の屋敷が前よりも凶悪なモンスターの住処になっていたぞ!?」


「そりゃあ、災難ですな。討伐依頼でも出しますか?」


「何を言っている!あのユートとかいう新参者のせいだろう!アイツになんとかさせろ!」


 デイブは、昨日退治してくれた礼とか言ってユートに金を渡そうとしてた筈だが、今度はそいつのせいと言っている。


「お言葉ですが、何を根拠にそんな事を言ってるんですか?」


「アイツが行くまで、あんな化け物では無かったのだ!あいつが何かしたに違いない!そうだ、そうに決まってる!アイツはいまどこだっ!?」


 興奮してつばを飛ばしながら喋るデイブに、一瞬の風になれ殺意を覚えるも、持ち前の胆力でなんとか冷静にゼオスは返した。


「ユートなら、救出クエストを受けて【迷宮ラビリンス】に旅立ちましたよ。暫くは戻って来ませんよ?」


「な、なんだとっ!くそっ!それじゃあ、あの屋敷を売れないじゃないか!」


「そもそもなんですが…もう、あそこが幽霊屋敷って知れ渡ってますよ?そんな所を誰に売るんですか?」


「なっ!何を言う。お父上が建てた由緒ある屋敷だぞ?」


「由緒正しい幽霊屋敷ですか?誰か住むんで?」


「…」


「いっその事、アイツに責任取って買い取って貰う方がいいんでは?お祓いの礼にしてやると言って」


「あんな奴に…」


「住めない、売れないじゃ、宝の持ち腐れでしょう。買い手がある時に売るのがいいかと。それに、そこに住んでる化け物が誰かに危害を加えた場合、責任は貴方になりますよ?」


「!?」


 大量の汗をかき始めるデイブ。

 しかし、その頭の中では様々な計算をしているようだ。


「よ、よし。あの哀れな家の無い冒険者に由緒ある屋敷を破格で売ってやろう。価格は2500…いや、2000にしてやる!そうアイツに伝えろ。手続きは部下にやらせるからギルドで処理しておけ!」


 あんな化け物にもし暴れられたら、屋敷を売るどころか責任問題になる。

 そんな事になったら、今の地位が危うくなると考えたデイブはすぐ処分すると決めた。


 どうせ使えないのだ。

 討伐するとしても、あの強さを倒す冒険者を雇うとなるとAランク以上になる。(自分の子飼いのBランク冒険者が手も足も出なかった。)


 その金は馬鹿にならない金額になる。


 それなら、暴れて問題になる前に金に換えた方が得だし、今の地位も危ぶまれない、とほぼゼオスの指摘した通りの事を考えてた。


「分かりました。では、ギルドの方で手続きしておきます。証書を明日までにお持ちするように部下の方に伝えてください」


「わかった、じゃお前に任せたからな!」


 とゼオスに言いつけて、部下にも手続しとけっ!と言ってから出ていった。


「やれやれ、困った奴だな」


 そう言うと、ギルド職員に手続きしてあげてくれと言付けた。



「───という訳だ」


「おお、ゼオス上手くやってくれたな!」


「人聞き悪い言い方をするな。実際にそうだろう?」


「まぁな。俺がいる限りはそんな事にならないけどな。でも、助かったよ。明日早速買い付けにくるよ。ミルバ、用意して待っててくれな」


 話を一緒に聞いてたミルバに話を振った。


「は、はいい。じゃあ明日金庫で手形にした金貨2000枚証書をお持ちください。こちらも書類の準備をしておきます」


「受け渡しはいつになる?」


「早ければ、その場で権利譲渡となりますので明日から入れますよ。鍵は預かってますし」


「分かった。じゃあ明日すぐ使わせて貰う予定で頼んだな」


「はい、分かりました!」


「さてと、約束のクエスト報酬だがクエスト書をくれ」


「あいよ」


 といって、ゼオスに渡した。

 すぐに、ギルドの承認印を押して正式にクエストクリアが承認された。


「報酬が高額なので、俺から渡すことになっている。これが報酬だ」


 そう言って、箱から一枚の高級な羊皮紙が取り出された。


「これが金庫の手形だ。これを金庫に渡すとお前の口座に記載された金額が入金されるぞ」


「へー、初めて見るな。まぁ明日入金したら今度は2000金貨の手形を作るんどけどね」 


「カイト…?一体いくらで依頼したの??」


「あー、それは…えっと1000金貨だよ」


「「「はぁっ!?」」」


 ダン、ミラ、ザインの3人が声を揃えて言った。


「それって、カイトの全財産じゃ?」


「ああ、そうだよ。そんな金より、お前たちの命の方が大事だろう!?」


「それは…本当に感謝してる。でも、この先やっていけるの?」


 ほぼ貯金ゼロになった自分達のリーダーを心配してるようだった。


「あー、そうだ。お前達に話があるからこの後に酒場に行こう」


 今日は、ガント達は遠征に行ってて帰ってこないはず。

 なので、明日にこいつ等のことも紹介しないとな。


 その後、カイト達のクエストも完了手続きもしてから(少しお金が入ってホロリと涙してたが見なかったことにした。)酒場に向かった。


 酒場に来て、直ぐ飲み物と食べ物を頼んだ。


「今日はお疲れ様!そして生還おめでとう!ここは俺の奢りだ!!」


「「「おつかれさまー!!」」」


 皆で乾杯し、出てきた料理をバクバクと沢山食べた!


 喉を充分に潤し、お腹を満杯にした頃に俺から話を切り出した。 


「で、俺が話したいと言うのは………」

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